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Chronicle ーエルディア・バース戦記ー  作者: kissaki / 切っ先
第三章:「冒険者への第一歩」

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第四話:新たな武器、新たな一歩/第二幕:風撃の剣

 シグは剣を見た。


 魔力を多く使う。


 それだけなら、今の自分にはむしろ都合がいいかもしれない。


 そう思ったところで、エルセリアが横から手を伸ばした。


「少し見せて」


 シグが渡すと、彼女は柄と鍔の紋様を確認した。指先で術式の刻まれた部分をなぞり、しばらく黙る。


「壊れてはいないわね」


「発動自体は単純?」


 店主が頷く。


「魔力を流せば風が出る。出力も決まってる」


 エルセリアは剣をシグへ返した。


「なら、シグには試す価値はあるかもしれない」


「やっぱり?」


「あなた自身が風魔法を組み立てる必要はないもの。術式は剣の中にある。必要なのは、魔力を送り込んで、発動したら止めること」


 シグは柄を握った。


「それならできそうな気がする」


「できそう、と、うまくできる、は別よ」


 即座に返される。


「流しすぎれば無駄になるし、止めるのが遅ければ、その分だけ散る。剣を振りながら使うなら、発動のタイミングも合わせないといけない」


「つまり、楽ではない?」


「楽ではないわね」


 店主がシグの手にある剣を見た。


「試すなら、裏を使え。壁に向けて撃てよ」


 ◇


 店の裏手には、武器の試用に使う小さな空き地があった。


 土壁の前に、木製の標的がいくつか置かれている。


 シグは《風撃の剣》を抜いた。


 銀色の刀身に派手な装飾はない。


「まず、振らなくていいわ」


 エルセリアが少し離れた場所から言う。


「剣へ魔力を流してみて」


 シグは構えた。


 魔力を感じること自体には、もう慣れている。


 問題は量だった。


 息を整え、柄を握る手へ意識を集める。


 流す。


 何かが剣の中へ吸い込まれる感覚があった。


 次の瞬間、空気が鳴った。


 ぶわり、と風が広がる。


 だが標的には届かない。


 横に積まれていた砂だけが舞い上がった。


「……ずれた」


「それより、入れすぎ」


 エルセリアの声が飛ぶ。


「今ので?」


「かなり」


 シグは剣を見る。


 自分では、それほど大量に流したつもりはなかった。


「もう一回」


 今度は少なくしようとする。


 少し。


 さらに少し。


 その加減自体が難しい。


 魔力を細く流そうとすると、逆に途切れそうになる。


 シグは眉を寄せた。


「むずかしいな」


「だから練習になるのよ」


 エルセリアは淡々としている。


 シグはもう一度息を整えた。


 剣を正面へ向ける。


 狙うのは十歩ほど先の軽い木片。


 魔力を流す。


 今度はすぐに止める。


 一瞬遅れた。


 刀身の先で空気が弾ける。


 風圧が地面を走り、砂埃が舞った。


 木片が跳ねる。


 狙った中心ではない。端をかすめ、横へ転がっただけだった。


 それでも、届いた。


 シグは剣を下ろさなかった。


「今の、俺がやったんだよな」


「そうよ」


 エルセリアが答える。


 《ヴォイド・コード》の時とは違う。あの時のように、追い詰められて勝手に起きたものではない。自分で魔力を流し、自分で止めようとした。その結果として風が出た。


 シグはもう一度構える。


「もう一回やる」


「今度はもっと減らして」


「分かってる」


 三度目は発動が遅れた。


 四度目は狙いがずれた。


 五度目で、ようやく木片の正面を捉えた。


 軽い標的が地面を滑る。


 シグは剣先を見つめた。


 まだ使いこなせない。


 狙いも、魔力量も、発動の間も安定しない。


 それでも、剣の先より向こうへ、自分の力は届いた。


 ◇


 店内へ戻ると、シグは《風撃の剣》を鞘へ収めた。


 重さは制式剣と大きく変わらない。握りにも違和感はなかった。


 それに、十歩先まで届く。


 シグはもう一度、値札を見た。


 初依頼でもらった報酬では足りない。


 店主がその様子を見て、シグの腰へ目をやった。


「足りないなら、今の剣を下取りに出す手もあるぞ」


 シグは腰の制式剣を見た。


「これを?」


「買い取れる物なら、その分は差し引く」


 シグは少し迷ってから、剣を腰から外した。


「……見てもらっていい?」


 店主がシグの剣を受け取った。


 鞘から抜き、刀身を見る。鍔を揺らし、柄の状態も確かめる。


「手入れは悪くないな」


「ずっと使ってたから」


「王国の制式品か」


 シグは頷く。


 店主は刃を光へかざし、それから金額を告げた。


 安くはない。


 初報酬の大半を使えば、届く。


 シグは制式剣を見た。


 準騎士になってから、ずっと使ってきた剣だった。シイバを離れてからも腰に吊り、昨日はブルータル・ウルサスにもその刃を通した。


 役に立たなかったから手放すわけではない。


 シグは柄から手を離した。


「お願いします」


 店主が眉を上げる。


「本当にいいのか?」


「はい」


 シグは財布から硬貨を出し、必要な分を数えて店主の前へ並べた。財布がまた軽くなった。


 エイリクが横から覗く。


「ほとんど使ったな」


「また稼ぐよ」


「そうだな」


 エイリクは笑って言った。


 店主は硬貨を確かめ、《風撃の剣》を鞘ごとシグへ渡した。


「売ったからには言っておく。無理に魔力を入れても強くならん。壊れはしなくても、お前が先に疲れるぞ」


「分かった」


 店主から剣を受け取り、シグは腰へ吊った。


 昨日までと同じように、そこに一本の剣がある。


 ただ、今度の剣は十歩先まで届く。

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