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【第一章完結】Chronicle ーエルディア・バース戦記ー  作者: kissaki / 切っ先
第一章:「シグ・フリューゲン」

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第三話:絶望の果てに/第二幕:最後の抵抗

 シグは、トーマスたちが命懸けで切り開いた、わずかな隙間へ跳んだ。肺が焼けるように熱い。痺れる右腕をかばい、震える左手で剣を握り直す。足だけは止めなかった。


「アルベルト!」


 炎を裂く声。煙が視界を覆い、崩れた家々が道を塞ぐ。それでもヨハンの叫びが聞こえた方向だけは見失わなかった。瓦礫を蹴り越え、燃え落ちる梁を潜り抜ける。


「押し返せぇぇぇ!」


 背後から届く悲痛な叫び。振り返る余白などない。シグは呼吸を捨てて瓦礫を跳び越え、崩壊しかけた民家の隙間を抜ける。


 直後、耳を刺す破砕音とともに、大気を揺るがす衝撃が背中を叩いた。騎士たちの悲鳴が一瞬で途絶える。砕けた鉄片と瓦礫が頭上を飛び越えていった。


 続いて爆ぜる、連続した白銀の衝撃波。部下たちが次々と倒れる中、たった一人で異形の足止めを引き受けている背中があった。


 砕けた鉄片が雨のように降り注ぐ。だが、足を止めるな。進め。 唇を噛み締めながら前だけを見据え、崩れた民家の隙間を駆け抜けた。


「アルベルト!」


 叫び声に応えるように、前方で重い梁を支え続ける姿があった。腕は途切れなく震え、額からの血がアルベルトの目元を濡らしている。


「まだ中に一人いる!」


 苦しそうな声に応じ、村人が最後の一人を瓦礫の底から引きずり出す。その瞬間を見届けて、アルベルトから力が抜けた。支えを失った家屋が、猛火を巻き上げて一気に崩れ落ちる。


「父さん!」

「無事だ! 走れ!」


 煙を割って跳び出した親子のすぐ背後で、地響きを置き去りにするほどの衝撃が弾けた。


(――っ!?)


「うおおおおおおおおッ!!」


 空気を引き裂く雄叫び。トーマスが渾身の踏み込みで地面を穿ち、黒い胸部へ喰らいつくように剣を突き立てる。外殻に刃が食い込む。だが、そこが限界だった。


 甲高い悲鳴のような音を立て、剣身が根元から折れ飛ぶ。それでもトーマスは止まらない。折れた刀身を、そのまま裸の手で握り締めた。


「まだだァァァァッ!!」


 血が噴き出すのも構わず、砕けた刃を杭の如く亀裂へ打ち込む。


「《インパクト・ブロウ》――! 」


 至近距離から、衝撃のすべてを乗せた拳。


「貫けぇぇぇぇぇッ!!」


 圧縮された衝撃が一心に注ぎ込まれ、折れた刃が内部へ押し込まれた。


 白銀の閃光が炎を押し返し、地面に長い影が伸びる。爆風が炎を押し散らし、外殻に亀裂が入る乾いた打撃音が響いた。勝てる、そう思えた一瞬ののち。


 ――鈍い破砕音とともに、白銀の光が唐突にかき消えた。


「……隊長?」


 絶叫も、号令も、金属音も消え失せる。 残されたのは、燃えさかる炎の爆ぜる音と、何事もなかったかのように踏み出される、災厄の重苦しい足音だけだった。


「シグ! 早く!」


 ヨハンの叫びでハッと我に返る。


「アルベルト!」


 必死で腕を伸ばした。


「今行く!」


 炎を掻き分け、ついにその場所へ辿り着いた。

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