出会い①
受付で渡された装備は、拍子抜けするほど質素だった。
曲がった鉈のような片刃の刀と、薄っぺらい胸当て一枚。
窓口の女性は「これで足りるとは言っていません」と前置きしてから、圭一の手の中に押し付けるようにそれを渡した。
妹の手術費の頭金にすら届かない金額を払って、これしか買えなかった自分の財布の薄さを、圭一はあらためて思い知らされた気がした。
エレベーターという呼び方をされていたそれは、実際には籠のような鉄格子の箱で、ガコン、と一度大きく揺れてから上っていく。
揺れに合わせて胸当ての金具が肌に食い込み、圭一はその痛みだけを頼りに、震えを抑え込もうとした。
一層に着いた瞬間、空気が変わった。
湿った土と、錫のような匂い。それから、もっと奥に何か焦げたものが眠っているような、嫌な気配。圭一が知っている「外」の匂いとは、何もかもが違っていた。
視界の先には、瓦礫のように積まれた金属の残骸が地平線まで続いていて、その隙間から赤茶けた光が漏れている。まるで、終わったはずの戦争が、ここではまだ続いているみたいだった。
足音を殺して進むつもりだったのに、最初の一歩で踏んだ何かが、軋むような音を立てた。
その音に応えるように、瓦礫の向こうで何かが動いた。
最初は犬かと思った。けれど近づいてくるにつれ、その輪郭はどんどん違うものに変わっていく。狼ほどの大きさの獣の背中から、何本もの錆びた銃剣が、まるで体毛の代わりのように生えていた。歩くたびに、その剣先同士がこすれ合って、空襲警報に似た高い音を響かせる。
逃げる、という判断すら、頭の中で組み立てる時間がなかった。
獣が地を蹴った瞬間、圭一の手は鉈を構えるより先に、ただ顔の前に上がっていた。
役に立たないと分かっていても、そうするしかなかった。
衝撃は、来なかった。
代わりに、何かが圭一の真横を風のように通り過ぎていった。一瞬遅れて、獣の咆哮が悲鳴に変わる。瓦礫の上に立つ人影が見えたのは、それからだった。
長い得物を担いだその影は、倒れた獣を一瞥もせず、こちらを見ていた。
「……武器もまともに扱えない初心者が、よくこんなとこに来たね」
声は、思っていたよりずっと平坦だった。心配しているのか、呆れているのか、そのどちらでもないのか、判断する材料が圭一には足りない。
ただ、自分がまだ生きているという事実だけが、やけに遠くから聞こえてくる気がした。
何か言わなければ、と思った。助けてもらったのに、黙っているわけにはいかない。
唇を動かすと、出てきたのは想像していたよりずっと頼りない一言だった。
「……ありがとうございます」
人影は、それに答えなかった。ただ、肩に担いだ得物を担ぎ直して、踵を返す。逆光のせいで、その顔はまだはっきりと見えない。けれど圭一には、なぜかそれが偶然ではないという気がしていた。
何かに呼ばれてここに立っているような――そんな、根拠のない予感だけが胸の奥に居座っている。
「ついてくるなら、ついてきて。置いていかれても文句は言わないこと」
それだけ言って、瓦礫の向こうへ歩き出す背中を、圭一はしばらく動けないまま見送った。
けれど立ち止まっている時間など、自分には残されていない。
震える足に力を込めて、圭一はその背中を追いかけた。




