[初配信]夜露死苦。探索者デビュー/剛田力一 ③
4階層に降りると、そこには広大な森が存在していた。先程までは完全に洞窟だったのだが、急な変わりようだ。
土と草の匂いが混ざった生温い空気が、肌にまとわりつく。足元には見たことのない草やキノコが生えているため、散策をするのもいいかもしれない。
「すっげえな、なんだこれ」
“ダンジョンってすげぇー”
“天井たっか”
“初めは驚くよね”
目の前には木々が広がり、鬱蒼としている。幹は太く枝葉は密集し、視界を遮るように絡み合っているようだ。
しかし、薄く白い光がどこからともなく降り注いでいるためほんのりと明るい。光源が見当たらないにも関わらず、森全体がぼんやりと発光している。
そして天井を見上げる。とてつもない高さとなっており、100メートルはあるのではないだろうか。
30メートルも階段を降りていないはずだが、さすがダンジョン。当たり前のように物理的な距離と空間の広がりが一致していない。
5階層へ続く階段は、中央にそびえ立つ大木の下に存在している。
そこへ向かう探索者の邪魔にならないよう、この階層を探索し始める。
この階層からはポーションの材料にもなる薬草やキノコが生えているらしく、探索者協会から採取の依頼なんかも出ている。
それらは持ち帰ると魔石や魔物の素材とともに売ることができるため、戦闘以外での収入源としては悪くない。
ただし、この姿で薬草をチマチマと採取するのはイメージと異なるため配信外に採取しようと思っている。実際どんなものかは気になるからな。
ちなみに魔物の素材は、魔物を倒した際に低確率で魔石とともに入手することができる。魔石よりも高く売れるため、落ちてくれることを願おう。
物珍しさに辺りを見回しながら進んでいると、初めて見る魔物と遭遇する。
初めて見るはずなのによく知っている豚面の魔物───オークだ。
ただイメージとは違い、肌色の身体をしているため妙に生々しく感じてしまう。質感が妙に人間に近く、脂肪の付き方や筋肉の張り方が現実的すぎるせいで嫌悪感が強い。
オークはこちらに気づくと、俺をいい餌だと思ったのかニチャニチャした笑みを浮かべる。口元が歪み、唾液が糸を引くその様子は気色が悪い。
こいつからドロップする肉が高級品として扱われるなど、まるで信じられない。
"きっしょ!"
"こいつに似てるって言われたことある泣"
"この階層はレベル5が推奨とされているが平気かい?"
「ちょうどいいんじゃねーか?3階層は物足りなかったしな」
こいつに似てるって言われるのは悪口だろうな。多分太っているんだろう。
そんなことを考えながら、オークに向かって駆け出す。
オークは迎撃しようと右手に持った棍棒を振り下ろすが、横にズレるだけで簡単に避けることができた。
予備動作が大きく狙いも分かりやすいため軌道が読みやすい。さらには、いちいち動作が遅く当たる気配が全くしない。
意外とザコ敵かもしれん。
そのまま背後に回り込み、景気付けに拳を一発。
───パチン。
かなり強めに打ち込んだ一撃は、軽い音とともに何歩かたたらを踏ませるだけで終わってしまう。
これまでの魔物とは全く違い、拳の勢いがすべて脂肪に吸収されたかのような手応えだ。
“効いてないなー”
“打撃耐性持ってたはずやで”
いいパンチを打てたと思ったが、コメントを見て納得する。レベル差がある上に耐性持ちとは厄介な相手だ。
全然ザコ敵じゃなかったわ。
これはようやくスキルの出番かもしれんな。かなりピーキーなスキルだが、まあいけるだろう。
「高揚」
小さくスキルを唱えると心臓の鼓動が一段階速くなル。血液が沸き立つような感覚とともに、深紅のオーラが体の外へ滲み出てきた。
背中を叩かれたことに腹を立てている様子のオークに再び突撃する。
こちらの突撃に合わせ棍棒を振り下ろしてくるが、先程よりも僅かに速く接近し脇の下をくぐり抜ける。そうして攻撃を躱すと、オークは地面に棍棒を打ちつけた。
その瞬間、オークの伸びきった肘を狙い蹴り上げる。打撃に対する耐性はあれど、関節への攻撃はしっかりと効くようだ。
「───!!」
オークの絶叫が森に響く。メキッと鈍い音を立て、反対方向に曲がった腕はもう使えないはずだ。
間髪入れず、両膝の関節部分を狙い蹴り抜く。肘に気をとられていたオークは全く反応することができず、モロに蹴りを食らってしまう。
腕の痛みに絶叫し、棒立ちになっていたからだろう。脚は綺麗に折れ曲がり、自身の体重を支えきれなくなったのか地面に倒れ込んだ。
その様子を見て、ついでに俺も倒れ込んだ。
“え…”
“どこかやられたんか!?”
心配入らない。
攻撃は一切当たっていない。魔力が0になったことによる魔力欠乏症を引き起こしているだけだ。
ただ、なんとかコメントを見れてはいるが返答をするのは少々厳しい。力が入らず、指先をピクピクと動かせる程度のことしかできない。
変に心配させてしまってなんだか申し訳ない気分になる。
それもこれも、この【高揚】ってスキルがピーキーな性能をしているせいだ。
このスキル、はっきり言うと諸刃の剣。
1秒につき魔力が1消費され、全ての能力値が強化されるスキルだ。1秒で1.1倍、5秒で1.5倍のように時間が経てば経つほど強くなる。
これだけならばいいスキルなのだが、このスキルは欠点が大きすぎる。
【高揚】を発動したら最後、止めることができないのだ。
つまり今の俺の状態は、トドメを刺せず地に這いつくばっている大マヌケ。普通ならもう死んでいるだろう。
ただ幸いにも、オークは片手で自身の体重を支えることができず動けない。
しばらくの間、互いに地面に寝そべった状態が続く。もちろん、その間もバッチリ配信されておりコメント欄だけが動いている謎の状況だ。
奇跡的に人にも魔物にも見つからないまま10分が経ち、魔力が回復することで終わりを迎えた。
「動けなかっただけでコメント見えてたからな。悪口言ってたヤツ名前覚えたぞ」
“乙ー”
"gkbr”
“gkbr”
“赤い瘴気っぽいのなに?かっけぇ”
ようやく体を動かせるようになり、オークに近づく。
地面には何度も立ち上がろうとした跡が見て取れるが、それで体力を使い果たしたのか荒い呼吸でこちらを一瞥するのみだ。
「スキルを使わないとやばかったぜ」
オークにトドメの一撃を放つ。
が、それで倒せる訳もなく、追加で5回ほど打ち込み絶命させた。さっきからどことなく上手くいってないな。
“ハイボルテージisなに?”
「【高揚】は俺のスキル名だな。身体強化みたいなもんなんだが、なんか赤いオーラが出る」
“厨二っぽくてカッケェ”
“右手が疼きやがる…”
“左手も疼きやがる…”
“↑病院いけ”
「とりあえずだ。オークにはもっかいリベンジするとして、レベリングだな。攻撃力を上げねぇと」
毎度スキルを使って倒すのは危険すぎる。素のステータスで倒せるようにならないと、次の階層で苦戦することは目に見えている。
少しだけレベル上げの時間を取るとしよう。
思い立ったが吉日とばかりにレベリングを開始。ついでに、お金も稼ごうか。
気づけば2時間程かけて壁沿いを移動し、森を一周していた。
成果はこんなもんだ。
ゴブリン×4
ホーンラビット×2
グレーウルフ×6
オーク×1
ちなみにゴブリンの棍棒とグレーウルフの牙がドロップした。ただ、ゴブリンの棍棒は邪魔だったため回収していない。
ホーンラビットは初めて見たが、名前通りのヤツだった。少しばかり速い、角が生えたウサギだ。
ステータスはこうだ。
─────────
名前:剛田 力一
レベル:3←2
体力:156/156←143/143
魔力:10/10←6/6
攻撃:24←18
敏捷:18←13
耐久:19←14
器用:13←10
知力:10←8
スキル:【高揚】
─────────
知力が2しか上がらなかった、解せぬ。しっかり考えて動いているはずだが何故か。
その後、すぐにオークを見つけたため挑んでみた。
先程と同様に背後から殴りつけると、転倒しかけるくらいには力が上がっておりレベルの大切さが分かる結果となった。
そのまま倒せた可能性もあったが、魔力を成長させるために【高揚】を使用して倒した。
倒した後はスキルの効果が切れる前に木に登り、身を隠すことで安全を確保。
何度かグレーウルフが下を通り俺の存在に気付くが、届かないことを悟ったのかすぐに帰っていった。もう一度、10分間寝転がっているだけの配信をしていたのは言うまでもない。
レベルも上がりこのまま5階層に進んでもいいが、オークをボコせるくらいにならないと少し心配だ。ソロの分、余裕をもって探索しなければ。
まだまだレベル上げを続けようか
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