[初配信]夜露死苦。探索者デビュー/剛田力一 ③
階段を下りると、ダンジョンが様変わりしていた。階段近くは広場のように開けているが、そこ以外は見渡す限の木、木、木。
見たことのない果物や毒々しすぎるキノコがあったりと、ワクワクせずにはいられない。漢は自然が大好きなんだ。
「すっげえな、なんだこれ」
“ダンジョンってすげぇー”
“天井たっか”
“初めは驚くよね”
自然に気を取られていて気が付かなかったが、天井がありえないくらい高い。100メートルくらいはあるんじゃないか?
そんな何十メートルも階段を下りてはいないんだが、空間がおかしいことになってんな。さすがダンジョン。
初配信ってこともあって一応5階層まで調べては来たんだが、中央にそびえるバカでかい大樹の下に階段があるらしい。
そこへ向かう探索者と鉢合わせにならないよう、少し外れた場所からこの階層を探索し始める。こんな姿でやってるおかげで、変な奴らに絡まれるかもしれんからな。
この階層からはポーションの材料にもなる薬草やキノコが生えているそうで、探索者協会から採取の依頼なんかも出ている。それらは魔石や魔物の素材とは別に、依頼報酬が支払われるから収入源としては悪くないらしい。
この姿で薬草をチマチマと採取するのは解釈不一致だから、配信外に採取してみるつもりだ。実際どんなもんかは気になるからな。
ちなみに魔物の素材は、魔物を倒した時に低確率でドロップする。魔石よりも高く売れるから、落ちることを願おう。
「なんかいるな」
そんなこんなで辺りを見回しながら進んでいると、実物を初めて見る魔物に遭遇する。
誰もがよく知る豚面の魔物、オークだ。
だがイメージとは違って、身体が肌色なんだよな。脂肪だったり筋肉の付き方が妙に生々しくて気持ち悪ぃ。
こんなんからドロップする肉が高級品って扱いで売られているだなんて信じられん。これを食べるのはダンジョンにあまり詳しくない富裕層とかだろうな。探索者なら多分食わんぞ。
「マイクロブタはあんな可愛いのにな」
声に反応したオークは俺に気づくと、いい餌だと思ったのかニチャニチャした笑みを浮かべる。
"きっしょ!"
"マイクロブタええよな"
"この階層は推奨レベル5だけど平気かい?"
「3階層じゃ物足りなかったし、ちょうどいいんじゃねーか?」
そんなことを言いながらオークに向かって駆け出す。
オークは迎撃しようと右手に持った棍棒を振り下ろすが、横にズレて回避する。予備動作が大きく狙いも分かりやすい上に、動きが遅く当たる気配が全くしない。
意外とザコ敵かもしれん。
そのまま背後に回り込み、景気付けに拳を一発。
───パチン。
かなり強めに打ち込んだんだが、あまり効いてなさそうだ。
拳の勢いがすべて脂肪に吸収されたかのような手応えで、何歩か蹈鞴を踏ませるだけで終わってしまう。
“効いてないなー”
“打撃耐性持ってたはずやで”
いい一撃を打てたと思ったが、打撃耐性なんて持ってんのか。レベル差がある上に耐性持ちか、面倒な相手だな。
これはようやくスキルの出番か?かなりピーキーなスキルだが、まあ使ってみよう。
「高揚」
スキルを発動した瞬間、血液が沸き立つような感覚を覚える。深紅のオーラが身体から滲み出てきたが、それを気にする時間はない。
背中を叩かれたことに腹を立てているオークに再び突撃する。
こちらの動きに合わせ棍棒を振り下ろしてくるが、さっきより速く接近し攻撃を躱す。勢い余ったオークは、そのまま地面に棍棒を打ちつけた。
その瞬間を見逃さず、オークの伸びきった肘を狙い蹴り上げる。打撃耐性があると言っても、関節までは守れないだろう。
「───!!」
メキッと鈍い音を立て、反対方向へと折れ曲がる。痛くて絶叫しているんだろうが、そんなことしてていいのか?
間髪入れず両膝の関節を狙い蹴り抜くが、肘に気をとられていたオークは全く反応できていなかった。オークの体重を支えている強靭な脚と言えど、棒立ちになってたらダメだよな。
体重を支えられなくなったオークはそのまま前に倒れ込み、残った腕でもがくも動けない。
その様子を確認すると、急に身体に力が入らなくなる。ダメだ、俺も寝そベろう。
“え…”
“どこかやられたんか!?”
大丈夫だと返したいが、声を出せない。
魔力が0になったことによる魔力欠乏症を引き起こしているだけだ。
何とかコメは見れているが、指先をピクピクと動かす程度のことしかできない。変に心配させてしまって、なんだか申し訳ないな。
悪いのはこの【高揚】ってスキルがピーキーな性能をしているせいだ。
このスキル、はっきり言うと諸刃の剣。
1秒につき魔力が1消費され、全ての能力値が強化されるスキルだ。1秒で1.1倍、5秒で1.5倍のように時間が経てば経つほど強くなる。
これだけだったらぶっ壊れスキルなんだが、欠点が大きすぎる。
【高揚】を発動したら最後、止めることができない。つまり、このスキルを使ったら確実に仕留めきらないといけない。
今回はオークが動けない状態になっているから何とかなったが、普通ならとっくに死んでいるだろう。
魔力が4しかない状態で使うスキルじゃないが、魔力のステを伸ばすためには現状これしかない。
しばらくの間、互いに地面に寝そべった状態が続く。もちろんその間もバッチリ配信されていて、コメント欄だけが動いている。
意識があるのに動けないってのは退屈だな。どうか魔物が来ませんように。
奇跡的に人にも魔物にも見つからないまま10分が経ち、魔力が回復することで終わりを迎えた。
「動けなかっただけでコメント見えてたからな。イキリーゼントとか言ってたヤツ名前覚えたぞ」
“乙ー”
"gkbr”
“gkbr”
“赤い瘴気っぽいのなに?かっけぇ”
ようやく体を動かせるようになると、オークに近づいていく。
地面には何度も立ち上がろうとした跡が見て取れるが、それで体力を使い果たしたのか荒い呼吸でこちらを見上げるだけだ。
「じゃあな」
オークにトドメの一撃を放つ。
が、それで倒せるわけがなかった。渾身の一撃を顔面に五度ほど打ち込むことで、ようやく倒すことができた。
"だっせえ"
“ハイボルテージisなに?”
「【高揚】は俺のスキルだな。身体強化みたいなもんなんだが、なんか赤いオーラが出てたな」
“厨二っぽくてカッケェ”
“右手が疼きやがる…”
“左手も疼きやがる…”
“↑病院いけ”
「オークにはもっかいリベンジするとして、まずはレベリングだな。攻撃力を上げねぇと、勝てるもんも勝てねぇ」
強いやつと戦うにしても、スキルを使わないと勝てねぇって状況は危険すぎる。素のステータスで倒せるようにならねぇと、先のの階層で苦戦することは目に見えている。
少しだけレベリングの時間にするか。
思い立ったが吉日とばかりにレベリングを開始。ついでに、素材がドロップしてくれるといいんだがな。
気づけば2時間程かけて壁沿いを移動し、森を一周していた。
成果はこんなもんだ。
ゴブリン×4
ホーンラビット×2
グレーウルフ×6
オーク×1
ちなみにゴブリンの棍棒とグレーウルフの牙がドロップした。ただ、ゴブリンの棍棒は邪魔だったため回収していない。
ホーンラビットは初めて見たが、名前通りのヤツだった。少しばかり速い、角が生えたウサギだ。
ステータスはこうだ。
─────────
名前:剛田 力一
レベル:3←2
体力:156/156←143/143
魔力:10/10←6/6
攻撃:24←18
敏捷:18←13
耐久:19←14
器用:13←10
知力:10←8
スキル:【高揚】
─────────
知力が2しか上がらなかった、解せぬ。しっかり考えて動いているはずだが何故か。
その後、すぐにオークを見つけたため挑んでみた。
先程と同様に背後から殴りつけると、転倒しかけるくらいには力が上がっておりレベルの大切さが分かる結果となった。
そのまま倒せた可能性もあったが、魔力を成長させるために【高揚】を使用して倒した。
倒した後はスキルの効果が切れる前に木に登り、身を隠すことで安全を確保。
何度かグレーウルフが下を通り俺の存在に気付くが、届かないことを悟ったのかすぐに帰っていった。もう一度、10分間寝転がっているだけの配信をしていたのは言うまでもない。
レベルも上がりこのまま5階層に進んでもいいが、オークをボコせるくらいにならないと少し心配だ。ソロの分、余裕をもって探索しなければ。
まだまだレベル上げを続けようか。
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