[初配信]夜露死苦。探索者デビュー/剛田力一 ②
周囲の探索者から好奇の視線を向けられながら、2階層の通路をひたすらに進んでいく。
"そういえば釘バットは?"
「邪魔だから捨ててきたわ。マジでいらんかった」
漢といえばリーゼント、リーゼントといえば釘バットというノリでわざわざ持ってきたんだが必要なかった。
実際に使ってみると、ゴブリンにすらたいして効いていない。更には釘が全て吹き飛んでいく始末。
やっぱり漢は拳が一番だな。
「てなわけで、ストレス発散させてもらうぜ?」
視線の先で、体長1メートルほどの灰色の狼がこちらを睨みつけている。
グレーウルフ。名前の通りの見た目をした魔物だ。
こちらが様子を伺おうと足を止めると、グレーウルフは一直線に距離を詰めてくる。少し前までなら、避けるだけで精一杯だっただろう。
しかし残念、今の俺には通用しない。
強化された動体視力により、筋肉の収縮、重心の移動、飛びかかるまでの予備動作。そのすべてが手に取るように分かる。
貰ったとばかりにグレーウルフは飛びかかってくるが、その軌道を見極め迎え撃つ。
口を開き飛びついてきたタイミングで下顎から真上に蹴り上げると、鈍い衝撃音とともにグレーウルフの身体が宙に浮く。
頭部が弾き上げられたことで、腹部が無防備に晒された。殴ってくださいと言わんばかりだ。
「お腹見せても撫でないからな」
こんな隙を見逃すはずもなく、柔らかい腹部に渾身のストレートを叩き込む。
衝撃は一点に集中し、グレーウルフの身体をくの字に折り曲げる。そのまま弾かれるように吹き飛び、地を転がりながら壁に衝突した。
うーん、微妙な感触だ。こんな時はアレを言うのがお約束だよな。
「やったか?」
壁にもたれかかるグレーウルフは動かない。しかし、灰にならないということは生きているのだろう。気絶しているのかは知らんが、容赦はしない。
グレーウルフが立ち上がる前に、距離を詰める。
倒れたままの身体に対し、容赦なくサッカーボールキックを叩き込む。骨が軋むような感触が足先から伝わり、再び吹き飛んでいく。
それを追いかけ、念の為にもう1発。
グレーウルフの身体は今度こそ力を失い、塵となってダンジョンへと吸収されていく。
「俺、強いんじゃないか?」
"強いとは思うけど"
"2階層で慢心はせんといてな"
2階層の魔物とはいえ、レベル1の人間にここまで一方的に倒されるとは情けない。
「これ、3階層行っていいよな?」
"いいと思うぞ"
"3階層からは何匹かで固まって行動する魔物がでるから気をつけて"
ここまで手応えがないとは思わなかった。これじゃ撮れ高が全く足りない。
そこから3階層へ向かう道中に何度かゴブリンと遭遇したが、苦戦することなく処理できてしまい見せ場を作れず。
結局、特に見せ場もないまま目的地にたどり着いてしまった。
本当はちょっとしたお披露目で終わらせる予定だったんだが、もっとしっかりした戦いをしてみたい。初配信だが行けるとこまで行ってみるか。
階段を降り3階層へ足を踏み入れた瞬間、空間が広がっていることに気づく。通路の幅は広くなり、天井も高い。
集団で行動する魔物が存在するために広くなったと言われているが、ダンジョンの仕組みは未だ謎だ。
道に迷わないよう右側の壁に沿って進んでいくと、魔物の集団を視界に捉えた。
グレーウルフが1頭にゴブリンが2体。そのうちの1体は弓を携えている。ゴブリンアーチャーだ。
こいつは遠距離から矢を放ち攻撃してくる、放置すると面倒くさい存在だ。
「とりあえず戦ってみるか」
隠れる素振りを微塵も見せず、魔物たちに近づいていく。すると、魔物たちは餌を見るような目付きで俺を睨め回す。
こちらも負けじと、グッドなスマイルをお見舞いする。
すると、挑発されていると感じたのだろうか。グレーウルフが地を蹴り走り出し、ゴブリンアーチャーが矢を放ってきた。
「おっと、速いな」
脳天を狙った軌道を、わずかに身体をずらすことで回避する。続けざまにグレーウルフが飛びかかってきたが、身体が地に着くほど姿勢を低くしてこれも回避。
すれ違いざまに後ろ脚を掴む。突進の勢いを利用して振り回し、ゴブリンアーチャーへと投げつける。
ゴブリンアーチャーは避けきれず、グレーウルフと衝突。堪らず地面に倒れ込む。
その様子を横目に、残るゴブリンへ接近。今までの流れに呆気にとられていたゴブリンは全く反応できていない。
腹部へトーキックをかますと頭を掴み、膝蹴りを決める。骨の砕ける音が聞こえ、ゴブリンは崩れ落ちた。見ると顔面が陥没しており、間を置かずに灰となって消えていく。
この間にグレーウルフが体勢を立て直したのか、視界の隅で再び動き出したのを感じた。
しかし、獣というかなんというか。これまでと同じく、飛びついてからの噛み付き。何度もやられたらさすがに慣れる。
タイミングを合わせ、鼻先へ拳を叩き込む。
メキョッと嫌な音をたて、グレーウルフの飛びつきを弾く。地面に転がり悶絶するグレーウルフに踵を振り下ろし、とどめを刺す。
それと同時に駆け出し、ゴブリンアーチャーへ接近する。
弓を構えこちらを狙っていることには気づいていた。射線から外れるよう、弧を描くように接近。
所詮は弓を持っただけのゴブリン。案の定、放たれた矢は見当違いの方向へと逸れる。
そして逃げようとする背中にすぐさま追いつくと、後頭部を鷲掴み地面に叩きつける。首が折れたのか、その一撃で絶命した。
「うーん、4階層行くか……」
"はーい"
"行けるとこまで行こーや"
戦闘の余韻に浸っていると、身体の奥底からじわりと何かが湧き上がってくる。初めて味わう不思議な感覚だが、これはきっとアレだろう。
「ステータス」
─────────
名前:剛田 力一
レベル:2←1
体力:143/143←130/130
魔力:6/6
攻撃:18←12
敏捷:13←8
耐久:14←10
器用:10←7
知力:8←5
スキル:【高揚】
─────────
待ちに待ったレベルアップ。癖になる感覚だ。
ステータスはレベルが1上がるまでの行動を元に上昇する。つまり、どのように戦ったかが成長の基準となる。
今回はほとんどの戦闘を近接かつ攻撃主体で行っていたからか、攻撃や敏捷が大きく伸びたのだろう。
ただし、体力だけは例外。
これは行動ではなく、元々の身体的スペック───体格や筋肉量などに依存するらしい。大柄な人間ほど伸びやすく、小柄な人間ほど伸びにくい。筋肉のある人間ほど伸びやすく、ガリガリな人ほど伸びにくい。
自慢の筋肉は、少しだけ高い体力を得られる以外に大した利点はないらしい。
またステータスの上昇値に明確な上限は存在しないが、一般的には5上がれば上出来とされている。
それ以上は極端に伸びにくく、特定の役割に特化した人間───例えばタンクや魔法使いなどが、条件次第で6や7まで伸ばすことがあると聞く。
攻撃が6も上がっているが、一方的な攻撃展開だったからだろうな。
ステータスは概ね満足できるものだったが、問題は魔力だ。全く伸びていない。
魔力を伸ばしたければ魔力を使うしかないのだろう。多少は勝手に伸びると思っていたが、次からは意識的にスキルを使っていく必要があるな。
“おーい”
“急に固まってどうしたん”
「あぁ、すまん。初めてのレベルアップに戸惑っていた」
流れてきたコメントに意識を引き戻される。
どうにも、一つのことに集中すると周囲が見えなくなる癖があるんだ。
“レベル1でさっきの強さか…”
“嫌ならええんやけどステータスどんなもんなん?”
「詳しいステータスは秘密だが、初期ステは高い方だな」
スマホをよく見ると視聴者が僅かに増えている。せっかく増えた視聴者をものにするためにも、もっと配信を盛り上げなければ。
来た道を引き返し、探索者協会で配布されている地図を見ながら4階層への順路に入る。
本来であれば道中の魔物も倒しながら進みたいところだが、順路の周りはすでに他の探索者によって掃討された後らしくほとんど魔物の姿は見当たらない。
結果として、想定よりも早く階段へと辿り着いた。
本当はここまで進むつもりじゃなかったんだけどな。想像よりも俺が強かったのが悪い。
4階層ではスキルのお披露目でもしますかね。
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