[初配信]夜露死苦。探索者デビュー/剛田力一 ①
どうも、つなまぐろです。初めて書いてみまして、拙い文章ですがよろしくお願いします。
「えーっと、これでいいんかね」
ほんのりと明るい洞窟の中、ドローンに取り付けたスマホの角度を調整する。
スマホの画面に映し出された自身の姿を見据え、光の当たり具合や影の落ち方、背景とのバランス、それらをひとつひとつ確認しながらゆっくりと呼吸を整える。
イカした黒の特服を肌に直接羽織り、釘バットを肩に担ぐと完成。ガッチガチのリーゼントとマッチしていて、我ながら完璧な出来だ。
"配信ついてるがw"
突如、スマホの画面に不穏なコメントが流れてくる。
そんな馬鹿なことはないが一応な。
こんな入念に準備をしたってのに、ハナからやらかしたなんてことはないだろう。ゆっくりと視線を上げカメラを確認すると、緑のランプが点灯していた。
「おっふ……」
スマホをセットした時に開始ボタンを押してしまったのだろう。既に配信は始まっているようだ。
さっきまでの一連のポーズ確認───言ってしまえば、ひとりでカッコつけていた様子が丸ごと配信されていたということになる。
しかし、まだまだやり直しが効く……はずだ。
個人勢の初配信で視聴者は6人。
考えていた登場演出はすべて吹き飛んだが、今さら悔やんでも仕方がない。初配信は黒歴史。後々いい思い出になるはずだ、うん。
「今のはちーっと忘れてくれ」
さっきのことなどなかったかのように切り替え、カメラに向けてポーズを決める。幸か不幸か、緊張が吹き飛んでくれた。
「天上天下唯我独尊!漢の中の漢、剛田力一!夜露死苦ぅ」
"よろ〜w"
"恥ずかしいだろな"
"どーゆー配信すんの?"
「俺の配信は、探索者最強を目指してダンジョンを探索する感じだな。昨日ライセンスを取ってステータスもゲットして、今日がデビューってわけだ」
初心者講習を勝手に入れられそうになったけど、断って来てしまった。せっかく探索者になれたのに1週間もお預けなんて勘弁だ。
"なんで特服きてんの?"
「子どもの頃に見たドラマの影響でさ、強くてイカした漢ってのに憧れたんだよな。わかるだろ?」
なんてまぁ話してはいたが、入口付近に留まり続けるのはよくない。他の探索者の動線を塞ぐことになるからな。
それにDチューブ───ダンジョンの配信なんだから魔物を倒さないと。そう考えたらなんか緊張してきたな。
「とりあえず魔物探すわ。見つけるまで質問タイムな」
"にーちゃんデカイけど身長いくつ?"
"ちな何歳?"
「191。歳は18。先週まで高校生だったわ」
"探索者高校ってソロ許してたっけ?"
「探索者高校じゃなくて普通の高校に言ってたから知らんな。まあ、ジムは通ってたから筋肉には自信があるぞ」
"素人のソロま?"
"ちなみにほとんど筋肉必要ないぞ"
ネットのやつは分かってないなー。ダンジョンに筋肉は必要ないらしいけどさ、ヒョロガリが魔物を倒すよりもかっこいいじゃん。
"スキルはなんやったん"
「使う機会があれば教えるわ」
"どこのダンジョンにいるの"
「今は港区ダンジョンだな。家から近いし」
"金持ちかー"
"裏山"
そんなこんなで話しながら進んでいると、何かの気配を感じ立ち止まる。
通路の奥を覗いてみると、薄汚れた緑の皮膚にぼろ布同然の腰巻。オンボロな棍棒を振り回しながら、甲高い声で喚いている。まだ距離があるというのにどことなく臭ってきた。
───ゴブリンだ。
最弱と呼ばれネタにされ、数多くの探索者の心を折ってきた存在。
ネットでは完全にネタキャラだが、現実では全く異なる。
レベル1の人間がまともに攻撃を受ければ、怪我を負う。場合によっては、それで人生が終わってしまう。ゴブリンを舐めてかかった初心者が返り討ちに遭うのはよく聞く話だ。
"うわー、ゴブリンきもいわ"
"臭そやな"
テキトーに近づいてみると、ゴブリンがこちらに気づいた。口を歪め、嬉しそうに距離を詰めてくる。
───10メートル。
その瞬間、身体が動いた。
思い切り踏み込み、顔目掛けて釘バットを全力で投げつける。ゴブリンは反応するも防御が間に合わず、鉄の塊が顔面に直撃。
その間に接近すると、倒れかけていたゴブリンの脚を掴み地面に繰り返し叩きつけた。衝撃が腕に伝わるたび、破裂するような音が響き渡る。
ステータスを手に入れただけでこんなにも出力が上がるのか。本当は拳や蹴りで攻撃しようと思っていたんだが、想像以上に近づいてしまった。
そんなことを考えながら5、6回と振り下ろしたところで、ふと手の中の感触が消失した。
違和感を覚え視線を落とすと、地面に叩きつけられていたはずのゴブリンの身体は灰のように崩れてしまった。不思議なことにそれらはダンジョンへと吸い込まれ、後には小さな魔石が一つだけ残されていた。
「もう終わりか?ここまで弱いとは思わなかったな」
戦闘と言うには呆気なく終わってしまい、あまり魔物を殺したという実感が湧かない。
ふとスマホを見ると、コメントが完全に停止している。あっさり終わってしまい、面白くなかったのだろう。
"その、ゴブリンさん血祭りでしたけど…"
「そりゃ魔物なんだから当然じゃないか?」
何を言っているんだこの人は。魔物は人類の敵なんだから容赦もなにもないだろうに。
"そうだけども"
"リーゼントのダンジョン探索だと思って見に来たら、ゴブリンの衝撃映像だったんですが"
「それは仕方ないだろう」
"とびっきりの笑顔やったで"
“血祭りの間、ずっと笑ってて怖かったっす”
「そんなつもりはないがな」
思わず首を傾げる。
両親や友人から、表情筋が動かないことに定評を頂いているのだが。いずれにせよ、サイコパス扱いは勘弁してほしいところだ。
そんなふうにコメントと会話をしながら、次の獲物を探しに先へ進む。
「今更なんだが、ダンジョンはもっと暗いものだと思ってたわ」
"それな"
"壁がちょっと光ってるんよな?"
「あー、魔物が見当たらん」
そんなこんなで道を進んでいたが、歩けど歩けど魔物の姿が見当たらない。暇である。
(ステータス)
心の中でそう唱えると、目の前にウィンドウのようなものが現れる。
─────────
名前:剛田 力一
レベル:1
体力:130/130
魔力:6/6
攻撃:12
敏捷:9
耐久:10
器用:7
知力:5
スキル:【高揚】
─────────
これが探索者になることで得られる不思議な力───ステータス。
目の前にウィンドウが現れ可視化されるが、不思議なことに他人には見えない。
レベル1時点の能力は、ステータスを得た時の身体能力を元に算出されているそうだ。体力を除き1つでも10のステータスがあれば、ギルドのスカウトからチヤホヤされるらしい。
それを目当てに、ステータスの虚偽申告をしている輩もいるそうだが。
順路を進んでいると、次第に周囲の探索者の姿が見え始める。
装備も服装も様々で、剣を背負っていたり杖を持っていたり、身軽そうな格好をしていたり、見ていて面白い。
ちなみにカメラには他の探索者が写っているが、瞬間的にモザイクがかかるモードにしているから安心してほしい。しっかり配慮をしておりますとも。
そうこうしているうちに通路の先に階段が見えてきた。2階層へ続く入口だ。
「魔物出てこなかったな」
"1階層はチュートリアルみたいなもんやからな"
なるほど、確かにそんな感じだ。
リポップが少ないとは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。戦闘の感覚を掴むにはいいが、レベリングには向かない。
とはいえ2階層に行っても、劇的に難易度が上がるわけではないらしい。数が増え、多少動きが変わる程度。
まあ、とりあえず先に進みますか。
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