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港区の狂戦士、剛田力一  作者: つなまぐろ
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[初配信]夜露死苦。探索者デビュー/剛田力一 ①

どうも、つなまぐろです。

 世界的人気のあるダンジョン専門の配信サイト、Dチューブ。ダンジョン内の探索や、魔物との戦闘の様子をライブ配信という形式で提供している。


 十年前に開設されたこのサイトはリアルタイムでダンジョン内部の様子を見ることができることから、瞬く間に大人気コンテンツとして世間に普及していった。


 当初は探索や戦闘だけでも、多くの視聴者を惹き付けるものだった。しかし時が経つにつれマンネリ化し、違った刺激を求めるようになる。


 そして今、配信者、いわゆるDチューバーは多種多様な配信をするようになった。


 階層主討伐のタイムアタックやお嬢様ロールプレイ、ダンジョン内でのアイドルによるライブなど戦闘の応用から意味の分からないものまで本当にいろいろと。


 「えーっと、これでいいんかね」


 港区ダンジョン1階層の入口付近。発光する謎の鉱石の影響でほんのりと照らされた洞窟の中、ドローンに取り付けたスマホの角度を調整する。


 イカした黒の特服を肌に直接羽織り、釘バットを肩に担ぐ。ガッチガチに固めたリーゼントと合っていて、我ながら完璧な出来だ。


 入念に準備してきた甲斐あったな。


 この衣装も鋼の筋肉も、全てはこの日のため。

 

 "配信ついてるでw"


 ……?


 何故かコメントが送られてきた。待機枠を作っているわけでもないし、考えられる可能性はひとつしかない。


 「おっふ……」


 まさかな……、と思いつつ顔をあげると配信中であることを示す緑のランプが点灯していた。


 スマホをセットした時に開始ボタンを押してしまったんだろうな。配信が始まってから三十秒ほど経っているようだ。


 さっきまでの一連のポーズ確認、一人でカッコつけていた様子が丸ごと配信されていたということになる。


 チャンネル消してやり直したら何とかなるか?いや、さすがにそれはダサいか。


 個人勢の初配信なもんで、同接は6人。これはこれで、古参勢へのサービスってことにしておくか。


 考えていた登場演出は台無しになったが、やってしまったことは仕方がない。後々いい思い出になるはずだ。


 「今のはちーっと忘れてくれ」


 ふぅ、気持ちを切り替えよう。


 一応緊張してたんだが、恥ずかしさで全て吹き飛んだわ。このまま流れに身を任せて配信を始めてしまおう。


 「天上天下唯我独尊!漢の中の漢、剛田力一!夜露死苦ぅ」


 "よろ〜w"

 "恥ずかしいだろな"


 「別に、ミスったなくらいだが?マジで」


 "ww" 

 "どーゆー配信すんの?"


 「探索者最強を目指してダンジョンに潜る感じだな。昨日ライセンスを取ってステータスもゲットして、今日がデビューってわけだ」


 初心者講習を勝手に組まれそうになったが、断って来てしまった。せっかく探索者になれたのに一週間も座学だなんて勘弁だ。


 "なんで特服きてんの?"


 「子どもの頃に見たドラマの影響で、強くてイカした漢ってのに憧れたんだよな。わかるだろ?」


 なんてまぁ話してはいたが、入口付近に留まり続けるのはよくない。他の探索者の動線を塞ぐことになるからな。俺は気の利く探索者になるんだ。


 それにDチューブなんだから魔物を倒さねぇと。


 「とりあえず魔物探すわ。見つけるまでは質問タイムってことで」


 "にーちゃんデカイけど身長いくつ?"

 "ちな何歳?"


 「191。歳は18。先週まで高校生だったわ」


 "探索者高校ってソロ許してたっけ?"


 「探索者高校じゃなくて普通の高校に行ってたから知らんな。まあ、ジムには通ってたから筋肉には自信がある」


 "素人のソロま?"

 "ちなみにほとんど筋肉必要ないぞ"


 分かってないなー、筋肉はロマンなんだよ。ひょろひょろの勇者みたいなやつが魔物を倒すより、俺みたいな筋肉が倒した方がかっけぇだろ。


 "スキルはなんやったん"


 「多分後で使うわ」


 "どこのダンジョンにいるの"


「今は港区ダンジョンだな。家から近いし」


 "金持ちかー"

 "裏山"


 そんなこんなで話しながら進んでいると、何かの気配を感じ立ち止まる。


 通路の奥を覗いてみると、薄汚れた緑の皮膚にぼろ布同然の腰巻。オンボロな棍棒を振り回しながら、甲高い声で喚いている。


 みんな大好きゴブリンだ。


 最弱と呼ばれネタにされ、数多くの探索者の心を折ってきた存在。ネットでは完全にネタキャラだが、現実では全く違うんだよな。


 レベル1の人間がまともに攻撃を受ければ怪我するし、ゴブリンを舐めてかかった初心者が返り討ちに遭うのはよく聞く話だ。


 "うわー、ゴブリンきもいわ"

 "臭そやな"

 

 テキトーに近づいてみると、ゴブリンがこちらに気づいた。口を歪め、嬉しそうに距離を詰めてくる。


 初めての戦闘だ、勢い任せに行こう。


 先手必勝とばかりに、ニヤけた面目掛け釘バットを投げつける。ゴブリンは反応するも防御が間に合わず、鉄の塊が顔面に直撃。


 その間に接近すると、倒れかけていたゴブリンの脚を掴み地面に繰り返し叩きつける。


 ステータスってのはすごいな。素の身体じゃこんなことない……?できるか。


 それでもこんな楽々と、布のように振り回すことはさすがにできないだろう。


 そんな呑気なことを考えながら、5、6回と叩きつけると手の中の感触が消失した。


 違和感を覚え視線を落とすと、握りしめていたはずのゴブリンの身体は灰のように崩れてしまった。それらはダンジョンへと吸い込まれ、魔石だけを残して消失した。


「楽勝だったな」


 ゴブリン程度なら楽に倒せるだろうとは思っていたが、想像以上に弱かった。これなら舐めてかかってもやられねぇだろ。返り討ちにあったヤツらはなんなんだ?


 ふとスマホを見ると、コメントが完全に停止している。


 「ん?どした?」


 "その、ゴブリンさん血祭りでしたけど…"


 「そりゃ魔物なんだから当然じゃないか?」


 "あっ、はい……"


 何を言っているんだこの人は。魔物は人類の敵なんだから容赦もなにもない。


 "そうだけども"

 "リーゼントのダンジョン探索だと思って見に来たら、ゴブリンの衝撃映像だったんですが"


 ダンジョンの配信なんだから魔物が死ぬのは当たり前だと思うが、もしかしてDチューブを見たことがないのか?


 "とびっきりの笑顔やったで"

 “ずっと笑ってて怖ぇーよ”


 両親や友人から、表情筋が動かないことに定評があるんだが。画角の問題だろ、きっと。


 止まってても仕方ねぇし、歩きながら話すか。




 「あー、魔物が見当たらん」 


 ブラブラと道を進んでいたが、歩けど歩けど魔物の姿が見当たらない。戦いを楽しみに来たってのに拍子抜けだ。


 (ステータス)


 心の中でそう唱えると、目の前にウィンドウのようなものが現れる。


─────────

名前:剛田 力一

レベル:1

体力:130/130

魔力:6/6

攻撃:12

敏捷:9

耐久:10

器用:7

知力:5

スキル:【高揚(ハイボルテージ)】

─────────


 これが探索者になることで得られる不思議な力、ステータス。目の前にウィンドウのように現れるが、不思議なことに他人には見えない。


 レベル1時点の能力は、ステータスを得た時の身体能力を元に算出されているそうだ。体力を除き1つでも10のステータスがあれば、ギルドのスカウトからチヤホヤされるらしい。


 それを目当てに、ステータスの虚偽申告をしている輩もいるそうだが。

 



 道なりに進んでいると、ちらほらと他の探索者の姿が見え始める。


 フルアーマーの剣士やローブ姿の魔法使い、さらにはパンイチのマッチョだったり。いろんな格好をした奴らがいるもんだな。


 ちなみに、カメラにはなるべく人が映らないよう移動している。そこら辺はしっかりと配慮しておりますとも。


 そうこうしているうちに通路の先に階段が見えてきた。2階層へ降りる階段だ。


 「全然魔物いねぇな」


 "1階層はチュートリアルみたいなもんやからな"


 なるほど、確かにそんな感じだ。


 事前に調べた感じリポップが少ないってなってたが、ここまでとは思わなかった。戦闘の感覚を掴むにはいいのかもしれんが、俺向きじゃないな。


 とはいえ2階層に行っても、劇的に難易度が上がるわけではないらしい。数が増え、多少動きが変わる程度。


 せめてゴブリン以外の魔物に会ってみてぇな。

チャンネル登録者数:2 高評価数:1 視聴者:8




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