[第5回]30階まで※縛りあり/剛田力一 ⑤
スカルキメラと戦っている時に掴んだあの感覚を忘れてしまう前に階層主に挑みたい。あれをモノにすれば、もっと上の段階に進める。そう思い先を急いでいると、見慣れたエリアに到着した。
今は28階層だが、一昨日レベリングをした29階層と同じような森が広がっている。魔物よりも厄介な小さい虫がそこかしこで飛び回っているが、替えの服なんざ持ってきてない。
"上裸で走るマッチョとかおもろすぎるww"
"未だに何レベか気になる"
"秘密のある漢もかっこいいだろう"
"正直な漢は?"
"都会生まれ都会暮らしのワイ氏、こんな森服着てても入れない"
"秘密があろうが正直者だろうが漢とはかっこいいものだ"
"29階層の狼コスパ良かったからレベリングすれば?"
レベリングするのもいいんだが、今は階層主とやりたいモードに入っている。何事も心の声に従って決めるのが一番いい。
「ネキ、やばそうだったら使ってもいいか?」
"あのスキルを除いたら、強い探索者ってだけのスキル構成だからね?さっきも奮いをかけたわけじゃなくて、心配しただけだからね?もちろん使っていいよ"
さっきは俺の性格を分かって挑発したのかと思ったが、ただ心配してくれていたのか。
たしかに昨日、しばらく使わないようにしようって言われただけだからな。こんな勢いで進むのは予想外だろうし、バカみたいなレベル差で挑むとも思わなかっただろうな。
「すまんな、ネキ」
"きぇーーー!!"
"ニートのワイの将来も心配して欲しいで……"
"なんでそんな仲良いの?許さんよ?"
"くそ、リーゼントが解けたらただのイケメンなのが気に食わん"
"いえいえ"
"漢!漢!漢!漢!漢!"
漢の人はそろそろ病院に行った方がいいと思うぞ、マジで。
29階層に入り時計を見ると、午前二時を回っていた。【高揚】を使うとしたら戦闘は短期決戦になる。勝つも負けるも、一時間後には全て終わっている頃合いだろう。
倒し方を確立したシャドウファングを片手間に狩っていき、身体の感覚を試しながら先を急ぐ。急激なレベルアップのおかげで感覚に齟齬が出るかと思ったが、そんなことはなかったか。
"ニキって目標にしてる人とかいんの?"
"たしかに"
"私かな?"
「ああ、全然ネキじゃないな」
霧崎さんは強いけど、俺のやりたい戦い方じゃないからな。今でこそ格上とばかりやっているから思ったようにできていないが、本当なら圧倒的な力で上からねじ伏せたい。
「特にいないが、強いて言うなら獣王だな」
"獣化かっこいいよな"
"光と闇があって厨ニ心がなww"
"肉弾戦がかっこいいからとか?"
まあ、S級のなかでバリバリの格闘家だからだな。明るいところではライオンが立ったような姿になり、金色のオーラを身に纏う。逆に暗いところでは狼男のようになり、漆黒のオーラを身に纏う。
大雑把に言うと昼は力で破壊の限りを尽くし、夜は冷酷な暗殺者って感じだ。しっかりと遠距離攻撃も持っているんだが、殴り合いが好きらしく肉弾戦主体だ。俺の将来像に最も近い存在だと思う。
「いつか殴り合ってみてぇんだ」
"草"
"ボコされるだけやんww"
"イカれとるイカれとる"
"その前に私が斬っておくよ"
"憧れじゃなかったからって八つ当たりやめい"
ものすごく肉弾戦をしたい気分です。頼むから魔法系の階層主ではありませんように。
「勝った……」
"何にだよ"w
"まだ戦ってないやろ"
"やっとここまで来たね"
"肉弾戦になりそうでよかったなww"
賭けに勝った。
階層主は2メートル以上ある猿の化け物だ。長い腕にごつい筋肉、猿にしては鋭すぎる牙が生えていて凶暴性が伺える。それはそれで確実に手強いが、俺が戦える相手でよかった。
"モック・サベージ・エイプって名前らしいで"
"猿なのに顔だけ化け物すぎるw"
30階層も変わらず森のままだったが、猿ってことはこの階層全体がヤツの狩場なんだろう。いや、遊び場でもあるか。
こいつ、俺に気付いておきながら逃げてやがる。時々後ろを振り返りながら、付かず離れずの距離を保っている。その尻を叩いて挑発する動作はどうやって覚えたんだよ。
「【高揚】」
獣王の黄金と漆黒のオーラもいいが、この深紅のオーラもかっこいいよな。くくくっ、俺の中の厨ニが目覚めてくるぜ。
やべ、何かを感じとったのか大猿は俺を振り切ろうとしている。
強化が大きくなるまでは見失わないようにしねぇと。逃げられたらたまったもんじゃない。
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