後半戦 その3
——なんだ、あれは。
アオイは真っ二つになったアサルト・ライフルを捨てながら、目の前に突如として現れた蒼い剣について思案していた。
——あんな機能は、無かったはずだ。
再び振り抜かれた蒼く輝く等身を、頭を下げながら回避。
同時に、背中の鞘から長剣の刀身がスライドし、抜刀。長剣を構え、魔剣使いに迫る。
——どうする!?どうすればいい?
アオイの脳裏に、いくつもの思考が過った。
先ほどの、巨大な刀身による一撃。
アオイがどうにか躱した刀身の先端が路面や建物のコンクリートを削り取り、鋭い爪で引っ掻いたような傷跡を、無数に作り上げていた。
アオイはなんとしても、建物の壁を容易く削り取るほどの威力を持った一撃を潜り抜け、魔剣使いの眼前に刃を突きつけなければならなかった。
回避して接近。口にすれば簡単なことである。しかし、点の攻撃である射撃と違い、線の攻撃である斬撃は上下への機動が極端に制限されている今の《グラニ》では、回避が極めて難しいものであった。
どうにかして、敵の視線を自分から外さなければならない。
「サヤカ!だれか動ける人はいる!?」
アオイは、叫んだ。
『……えっ、あっ、エスト!アオイの援護に!』
サヤカも、叫んだ。
『……ッ!すぐ行くけど……死なないでよ!逃げる余裕ないんだからね!』
エストの反応を確認しながら、アオイはモニターに映った地図を確認した。近くのコンテナ、建物、味方の位置、敵の位置。
それらを3秒で叩き込み、魔剣使いに向き合った。
同時に、弾丸の雨。
建物の上に登ったエストが、支援用火器を放ったのだ。
アオイの元へ魔剣の切っ先を向けた白いTDの頭上でエストが放った榴散弾が炸裂し、再びの弾丸の雨が、魔剣使いを襲う。
白い魔剣使いのTDは降り注ぐ鉛玉の雨を、ゆっくりと力を溜め、跳んで回避した。その動きはどこか緩慢で、体勢を整えるために空中でジェットを噴射する姿すら、どこかもたついているように見えた。
白いTDはがしゃんと音を立てながら勢いよく着地した。エストはそこを目掛け、徹甲弾を装填した支援火器を発砲。
徹甲弾によって割られたコンクリートの破片を全身に受けながら、白いTDはエストの《フォーレン》に切っ先を向けた。刀身が発光する。
放たれた光を低空飛行で躱しながら、エストは連射を続ける。
多数の弾丸を広範囲ばら撒く設計であるエストの支援用ライフルは、フーシャの狙撃用ライフルほどの精密射撃を想定しているものでは無かった。しかし、その分雑に狙っても効果が出やすいと言うことでもあり、回避行動を取りながら制圧射撃という荒技を可能にすることのできる理由でもあった。
『アオイ!引きつけるから……速くッ!』
敵の攻撃を回避しながら、マガジンを交換したエストが叫んだ。
燃料と集中力を大きく消耗してしまう回避機動は、あくまで時間稼ぎであり、誰かが飛び込まなければならなかった。
それは、アオイの仕事だ。
アオイは《グラニ》のシュヴァルべ・ユニットのジェットに火をつけた。
右側の一機だけ残ったジェットエンジンのノズルが点火し、加速。
重心も推力も右側に偏っている。アオイはどうにか推力を調整し、できるだけ真っ直ぐ加速。
すでにアオイの耳には、周囲の声も、戦闘の音も聞こえてはいなかった。
魔剣使いもアオイに気づいたのだろう。蒼月の刀身を包む輝きが一際増し、光の刀身が伸びた。光の刀身の長さまで考えると、剣の間合いTD2機分……20メートルはあるだろう。
光の大剣の刃が、アオイに迫る。
必殺の威力を孕んだそれに対して、アオイは長剣を振るった。
狙いはただ一つ。
光の大剣の腹、わずかに刃より光が薄い部分に覆われた、蒼月本体だ。
「ウォォォッ!」
咆哮。そして、激突。
鼓膜を突き破らんがばかりの金属音を撒き散らし、魔剣使いの蒼月は大きくはね上げられた。
同時に《グラニ》が手にしていた長剣の刀身が半ばからへし折れた。
刀身のかけらが宙を舞い、魔剣の刀身が帯びた輝きを反射して、きらきらと輝いた。
それを目で追いながら、アオイは長剣の柄から手を離した。かわりに握るのは、脇に格納されている対装甲ナイフ。
抜いたナイフを逆手に構えて、敵機のコックピットに目掛けて振りかぶった。
轟音。
振り下ろしたナイフの切っ先は、コックピットハッチを吹き飛ばし、魔剣使いの姿を刀身に反射させていた。
綺麗な金色の髪。青い目。
魔剣使いの正体は、どこにでもいそうな、凡庸な少女だったのだ。
しかし、
——誰だ?わたしは、この人を知っている?
どこにでもいそうな少女の姿は、アオイの目には、思考には、何か特別なものに見えたのだ。




