ハーフタイム その3
「なんでッ……なんでこんなことをしたぁッ!」
照りつける太陽が、大きな大砲を直上から照らしていた。
モリニア軍、クレートレッフ基地の近郊、防衛の為に整備された砲陣地。
『首無し旅団』団長、クルスト・トーマスは両手で数えられるほどの数しかいないTDの足元で、クレートレッフ基地攻略を強行した幹部、アリア・マルグリフに抑えようのない感情をぶつけていた。
「こうでもしなければ、モリニアは変わらない!戦うものへの感謝を忘れた民衆に痛みを思い出させる為にはッ!」
クルストは、閉じられた口の中で、ぎりりと歯を鳴らした。
本来、もっと戦力を集めた上でクレートレッフを攻める予定だったのだ。
かつての戦争により戦場にばら撒かれたTDや戦車をかき集め、かつてのモリニアが行った廃軍令によって行き場を失った元軍人を集め、それでも足りない人手をヤクザもどきのチンピラで補っている組織である『首無し旅団』において、モリニアに勝つために必要なものは戦略であった。
モリニアに勝ってどうするのか。
その為にはどう勝つべきなのか。
それらの戦略の為に、『首無し旅団』はクレートレッフ基地を無傷で陥落させる必要があったのだ。
『首無し旅団』はモリニア国民に危害を加えるつもりがないことを伝えることができ、モリニア軍がすぐに奪還に動くことができず、長時間モリニア首都に武器を突きつけることができる場所。
それが、クレートレッフだったのだ。
その分、攻略には繊細な戦術が必要だった。
アステル襲撃に失敗し、各所に散り散りになったメンバーを集めながら、1ヶ月ほど長くかけて攻略するのが、本来クルストの想定していた戦略であった。
しかし、現実はこうだ。
副団長、アリア・マルグリフが率いる部隊が暴発し、クレートレッフ基地を攻撃、大事な人手を多く使い潰した挙句、本来の理念すら無視したダム部分への直接攻撃という暴挙に及んだのだ。
これでは、『首無し旅団』の正当性すら失われてしまう。
クルストはアリアを始めとした、元モリニア軍人達にあるモリニアへの憎しみの大きさを図りきれていなかったのだ。
——モリニアを許すことができないなら、モリニアという国自体を変えればいい、その為に集まったはずなのに。
クルストは思考の海に浮かび上がった何かを噛み殺し、どうにか離脱に成功した面々に向き合った。
この場に集まるパイロットの面々の意見は、それぞれの出自によって、見事に分かれていた。
徹底抗戦派の軍属組と、撤退を支持するそれ以外。
クルストはそれらの意見をまとめ、思案して、これからの方針を決定しなくてはならなかった。
「……撤退だ」
クルストは、脳裏に渦巻く何かを抑え込み、そう絞り出した。
「もう少しで私の部隊が来る、殿は私達に任せて、撤退しろ。戦力を整えるのが最優先だ」
「しかし!それでは団長が……」
「問題ない!私の部隊には“魔剣使い”がいる」
クルストは本来、“魔剣使い”を温存するつもりだった。理由はいくらでもあるが、その最たるものは、クルストがその“魔剣使い”を信用していなかったからだ。
そのことを意識したからだろうか。エンジンの音が聞こえ、4台のTD輸送用のトラックが現れた。
「……来たか」
降り立ったのは、4人のパイロット。団長直属の部隊だ。
その中にいるのは、金色の髪が特徴的な小柄な少女。
ただの少女ではない。元モリニア軍、3年前の『フィオナ要塞陥落事件』唯一の生き残りである、“魔剣使い”だ。
クルストは異様な雰囲気を纏う少女から目を引きはがして部隊長に声をかけた。
「……すまない。殿を任せることになってしまって」
「いえ……。理想に殉ずる覚悟は、とうに出来ていますから」
直属パイロットのリーダーの男はクルストに返し、かすかに笑った。クルストはそれに苦笑を返し、クレートレッフ基地から撤退してきたパイロット達に向き直った。
「……よし、撤退だ!“スポンサー”が集合場所を準備してくれている!各自分隊ごとにそこに向かえ!」
了解の斉唱。ほとんどのパイロットが踵を返し、自らのTDに向かう。
そのなかで立ち尽くしていたのは、アリアだ。クレートレッフ基地防衛部隊との戦闘で部隊の仲間を全員失った彼女は、悔しさを滲ませた声を上げた。
「殿に、私も志願します!」
「ダメだ」
「なぜです!全員を撤退させるには、一人でも戦力は多いほうがいいはず!」
「だからこそだ。君の《ストリージ》の状態では、足手まといにしかならない」
「しかし……せめて一矢報いたいのです!仲間達の無念を晴らす機会を、ぜひ!」
「ダメだ!早く準備をしろ!」
——自分の独断で部隊を動かし、大きな損害を与えた癖に、何様のつもりなのか。
そんなクルストの苛立ちが、声に混ざっていた。
——これだから、西側は。
撤退の準備をする為に自分の機体に向かったクルストの瞳には、例の魔剣使いすら霞むほどのアリアの気迫は映っていなかった。




