ハーフタイム その2
「はい、水と……お弁当」
アオイはエストから手渡されたバスケットを受け取り、蓋を開けた。
中には水の入った小さなボトルと、紙で包まれたサンドイッチ。
塩漬けの豚肉がレタスと共に挟まれたそれを一口齧りながら、アオイは浮かんだ疑問を口にした。
「よく来れたね、ホント……」
視界の先にあるのは、補給コンテナから燃料を補給する《グラニ》とそれを囲むように立つ《フォーレン》だ。
つい先ほど、エスト達の《フォーレン》がアオイ達の元に到達し、クルストのTDの姿が見えなくなった頃の話だ。
空からジェットエンジンの轟音が響き、クレートレッフ基地の方角から、複数のTDが飛んできたのだ。
交戦前、大きなブースターを背負って飛んできた部隊であることは、すぐにわかった。
咄嗟に建物の裏に隠れ、どうしたものかと思案していたアオイ達の姿をよそに、敵部隊はアオイ達を探す素振りすら見せずに飛び去っていった。
その後、サヤカからトリエラ達はアオイを助ける為にレンカ大尉からの要請を受けて、戦闘の只中を低空飛行で飛んできてくれたのだと説明されたが、アオイにだって戦闘中のエリアを突っ切ることの危険性はわかる。
「ついこの間まで無駄に高度取って、簡単に撃ち落とされてた気がするんだけど」
「まっ、私だって成長するんだよ」
エストは胸を張りながら、答えた。
『この前、アオイさんがやったかけっこですよ。すとちゃん、あれを気に入って、シュミレーターで何度か練習してたんですよ。ね、すとちゃん?』
「き、気に入ったなんて言ってない!ただ、必要だと思っただけ!実際に役立ったでしょう!?」
『まぁ……確かに、エストさんが先導してくれたからすぐに抜けられましたね』
フーシャは機体に搭乗し、周囲を警戒しながら、エストを揶揄った。
それに怒るエストと、2人の間に立ち、優しく諌めるトリエラ。
アオイはいつも通りのその様子を眺めていると、隣のエストが怪訝な顔を浮かべ、口を開いた。
「なにニヤニヤしてるの?気持ち悪んだけど?」
「えっ、あっ、ぉっ……そ、そう見えた?」
いつも通りのその会話に、どこか不思議な感覚を覚える自分がいることに、アオイは気づいた。
その理由は、よくわからない。生き残ることができたという喜びなのか。戦いの中で死ぬ恐怖を感じ、助けてもらったことで安心しているのか。
『……みんな、聞こえる?お話ししてるところ悪いんだけど、全員待機を解除、機体に戻って』
安心している理由を探していたアオイの耳にかけられた通信機から、サヤカの声が聞こえた。
『……何かあったの?サヤカ』
『有線通信のチェック中に、いくつか返答の無い砲陣地が見つかったの。大尉達が確認しに行くから、みんなはクレートレッフ基地の入り口部分を警戒しろって』
「……ん、了解」
アオイはサヤカの言葉を聞きながらサンドイッチの最後のひとかけらを口の中に放り込み、《グラニ》のコックピットハッチに潜り込んだ。
機体の起動処理を行いながら、機体のセルフチェックの結果を確認する。関節部を中心に、各所にオレンジから赤色の警告表示が表示されている。
「戻ったら、怒られるかなぁ……」
警告表示から目を逸らし、その隣、シュヴァルベ・ユニット内の燃料を確認。タンクごと交換したため当然だが、燃料のメーターは上限を指していた。しかし、
「……げ」
いつの間にぶつけたのだろうか。左腰に取り付けられたシュヴァルベ・ユニット内のジェットエンジン。そのノズルが、わずかに破損していた。
『……アオイ、大丈夫?』
「普通に飛ぶ分には大丈夫かな。無理は……しないよ」
『……わかった。待機位置までは歩行で移動して。交戦時以外はジェットの使用は禁止、わかったね』
「了解」
アオイはモニターの端に映るサヤカに軽く会釈をし、機体を操作した。
補給コンテナに格納された予備の弾倉を取り出し、アサルト・ライフルに装填、モニターの残弾表示が一気に回復し、モニターの赤い表示が一つ減る。
それを確認しながら、コンテナに立てかけてあったボロボロの長剣を拾い、背中の鞘に差した。
『そういえば、レンカ大尉から伝言を受け取ってるよ』
空いた左手に盾を持ったアオイに、サヤカが声をかけた。
『『小隊長らしいところを見せてくれ』ってさ』
アオイは一瞬、手に取った盾を落としそうになった。正直、小隊長らしい行動というものがまだよく掴めていなかったからだ。
「おっ……ええ……」
返答に困り、妙な声をあげるアオイの様子を無情にも無視したサヤカは言葉を続けた。
『……よし、トレッフ38、39、40はトレッフ37について移動!』




