それぞれの戦場 その3
「くっ……単機戦闘を許可する!わかってるな、あくまで時間稼ぎだ!落とされるなよ!」
レンカはそう伝えながら、アサルト・ライフルを捨て、敵指揮官機に長剣で切り込んだ。
敵指揮官機は上半身を半分失ったトレッフ27の《アードラー》に目もくれずにレンカに向き直り、生き残りの敵2機と集合。
レンカ達はそれを前後から挟み込むように接近し、それぞれ手にした武器を振るった。
敵も手にした剣を振るい、レンカ達の剣を受ける。
鋭い金属音が山中に反響し、レンカの《アードラー》と敵指揮官の《ストリージ》の間に関節が軋む音が鳴る。
上を取っているのは自分で、関節部のモーターが生み出す力も軽量な《ストリージ》より重量のある《アードラー》が上回っているはずなのに、どういうわけか敵指揮官は体勢を崩すことなく踏ん張っている。
剣を折るような勢いで振り下ろした一撃だ。倒せなくとも腕の一本は潰せるだろうとレンカは考えていたのだが。
――なんて腕なの……!?
レンカは敵のパイロットの腕を感じながら、内心でそう毒づいた。横目で周囲の様子を確認してみると、味方の2機も攻めあぐねているようだ。
人型兵器であるTDは基本的に、人間とほぼ同じような動きが可能である。しかし、人間にはない巨体と飛行能力によって、接近戦におけるTDの戦い方は人間とは大きく異なっていた。
その最たるものの一つが、接近戦における『受け』の技術である。
端的に言えば、TD同士の接近戦では『避ける』か『受け流す』が基本となり、盾や武器で直接防御するのは文字通り最後の手段であるということだ。
極めて重いTDの近接武器による攻撃を直接防御すると、関節に恐ろしいほどの負担がかかり、戦闘続行が難しくなるのだ。
逆を言えば相手に直接防御させることができた場合、基本的に有利な状況がさらにこちらに傾くことになる――はずだった。
レンカと切り結んだ敵の指揮官は、受けに繰り出したモーションパターンだけでなく、下半身の絶妙な動きで威力を逃しているのだ。
どうにか威力を通そうと体重をかけると、逆にこちらの関節が軋んでしまう。
『……何故だ』
どうにかして守りを崩そうとした時、敵のパイロットの声が聞こえた。
絞り出すような、怒りの籠った声だった。
『なぜ、私達の邪魔をする!』
レンカには敵の指揮官の言うことが理解できなかった。
仕掛けてきたのは向こうであって、邪魔をしていることを咎められる謂れはない。そう思ったからだ。
後ろに跳んだレンカに向かって敵の指揮官は飛び出し、剣を振りかぶる。
数瞬遅れてレンカも剣を振り、迎え撃つ。
山の中に、金属音が響く。2度、3度。レンカが敵指揮官の鋭い一撃を防ぐたびに、鋭い音が続いた。
『私達はモリニアを変えるために動いている!東側との形だけの和平を結び、責任は全て他者に押し付ける、そんなモリニアを変えるためにッ!』
敵指揮官は無理矢理鍔迫り合いに持ち込んで、再び問いかけた。
「……そのためなら、罪のない市民を犠牲にしていいと、そう言うの!?」
『罪!?奴らこそ罪人だ!モリニアのために戦った兵士達を受け入れなかったのは、あいつらだ!戦争の責任を兵士たちに擦り付けたのは、安全な場所でぬくぬくと生きてきたあいつらだ!』
敵の指揮官は力任せに剣を振り下ろし、無理矢理に距離を離す。
『流した血を無駄にしては、結局戦争が起こるだけだ!痛みを忘れてはならないッ!過去を捨てねば前進できぬと、5年前、奴らは言った!その前進が何を産んだ?差別と侮蔑ではないかッ!』
『分かるだろうッ!痛みを思い出させるためには、喉元に剣を突き付けてやるしかないッ!仲間たちが死んでいったのは、モリニアを軟弱者にするためではないッ!知らしめてやるのだッ、魂が帰る場所すら失った仲間たちをッ、無駄死にしないためにもッ!』
敵の指揮官は、鋭い踏み込みと共に突きを放つ。回避することも受け流すことも不可能だった。
レンカは咄嗟に剣を構えた。両手で剣を支えて、剣の腹で受ける。
金属同士が勢い良く打ち付けられたとき特有の鋭い金属音の中に、ぴきっ、と儚い音が響く。それに続くのは、ごとん、という音。
コックピットを守るように掲げられた長剣の刀身の半分が、大小さまざまな大きさの破片を撒き散らしながら、地面に落ちたのだ。
――無駄死になんかじゃ、ない。
コックピットのモニターに映るのは、刀身に反射する《アードラー》の頭部ユニット……それを見たレンカの心の中には、一つの炎が燃えあがっていた。
「無駄死になんかじゃ、ない……」
『何を……』
レンカの脳裏に浮かぶのは、ベルナテットとアオイ、2人の少女たちの姿だった。
パイロットとして並外れた実力を持ちながら、戦後の世界にうまく馴染むことができない2人を。
過去を抱えながら、どうにか未来を見ようとしている2人を。
「決して、無駄死になんてしていないッ!」
レンカは、叫んだ。瞬間、敵陣に徹甲弾の嵐が降り注いだ。




