それぞれの戦場
「第7小隊、突破口は私が開く!すぐに上がって!」
レンカは背中のアタッチメントに取り付けられたロケット・ブースターの状態を確認する。
ロケット・ブースター……TDを垂直に打ち上げる。ただその目的の為に作られた使い捨てのそれは、その用途の都合上通常戦闘で用いる事はほとんどなく、立地上敵に攻められることが少ないクレートレッフ基地での運用実績などなかったのだ。まともな整備をしてあるという保証はない。
(少なくとも機体から確認できる範囲では)不具合は見つからず、レンカは息を吐く。
「おっと、いけない……」
レンカは緩みかけた気を引き締めなおし、モニターを見つめ直した。
今やるべき事はあくまでスクランブルなのだ。ロケット・ブースターの状態確認は必要ではあるが、それが目的というわけではない。
「レンカ大尉!武装はどうしますか!?」
格納庫で武装の整備を担当している整備員の1人が、そう叫んだ。
「盾はいらない!アサルト・ライフルと剣をください!」
レンカがそう伝えると、カタパルトに続く扉の両脇に備え付けられたコンテナからアームが伸び、レンカが伝えたものを掴んで手渡してきた。
コンテナのアームから西側諸国で広く使われているアサルト・ライフルと抜き身の長剣を受け取り、カタパルトの上に立つ。
普段の出撃の際は白い蒸気を勢いよく噴き上げているカタパルトは、出撃直前にも関わらず静まり返っており、これが緊急出撃であることを如実に伝えていた。
——私の仕事は、カタパルトの準備が終わるまでここを守り切ること。
第7小隊が上がってくるまでのたったの数秒とはいえ、30機以上の敵に一斉に狙われる、危険な役割だった。
頭を振るって、「本当にできるだろうか?」というネガティブな思考を振り落とす。
——普段絶対に使わないような言葉遣いをしてまで、あの子達に啖呵を切ったのだ。やらなくてどうする。
レンカは上空を見上げる。敵はすぐそこだ。
『こちらCPコンダクター3。発信を許可する。ご武運を』
コックピットのスイッチを叩く。ロケット・ブースターのノズルが吠え、機体を振動が襲う。
「トレッフ1——ブラストオフ!」
ペダルを力強く踏み込み、ロケット・ブースターが点火。座席が浮き上がる感覚に体を預ける
高度計が狂ったように激しく上昇し、《アードラー》の装甲が空気に押され、軋む音が聞こえる。
重力と座席に挟まれ、押しつぶされそうになる意識を歯を食いしばってどうにか保つ。
少しずつ加速が鈍り、役目を果たしたロケット・ブースターが切り離される。
機体に揺さぶられていた頭が平衡感覚を取り戻し、視界が鮮明になる。
敵部隊の上を取ったレンカは、上空から敵の陣形を確認、楔形陣形だ。
突破力に優れ、正面切った状態での戦闘を得意とする陣形だ。
左右を山に挟まれたクレートレッフ基地を攻めるのには理想に近い陣形ではある。しかし、付け入る隙がないわけではない。
「こちらトレッフ1、これより敵部隊に奇襲をかける!陣形が崩れたら突っ込め!味方の対空砲に当たるなよ!」
『『『『了解ッ!』』』』
レンカは部下たちの反応を確認し、ペダルを踏みこんだ。ジェットエンジンの咆哮が響き、《アードラー》は勢い良く降下。加速力がレンカをコックピットシートに押し付ける。
敵部隊がレンカの《アードラー》の存在に気づき、発砲。しかし、もう遅い。
重力とジェットエンジンの生み出す推力に乗って、勢い良く降下する《アードラー》には、命中させることはおろか狙いをつけることすら難しかった。
「いっけぇぇぇぇッ!」
レンカ大尉は弾丸の嵐を潜り抜けながら、発砲。アサルト・ライフルの銃口から吐き出された40㎜徹甲弾が敵陣に殺到し、面白いように命中。敵機の大型ブースターを穿ち、引き裂いていく。
一方、敵の放った弾丸は魔法のように《アードラー》を避け、虚空に消える。
まるで魔法でも使ったかのような、そんな光景が繰り広げられていた。
もちろん、その現象の正体は魔法などではなく、単純な面積の差である。
地面に対してほぼ垂直に降下しているレンカ大尉は、真下の敵からは高速で移動する小さな点のようにしか見えないのに対し、敵陣は大きな長距離飛行用ブースターを背負っているのもあって、楔形の大きな標的のように見えていたのだ。
クレートレッフ基地攻撃のために長距離を飛び続けてきた敵部隊にはレンカの迎撃を振り切るために再び加速をかけることができるほどの燃料は残っておらず、結果的に36機もの大部隊がたった1機に翻弄されるという、首無し旅団からしてみれば大きく屈辱的な結果となった。
一番近い位置にいた敵機をすれ違いざまに長剣で殴りつけながら降下し、逆噴射。降下の勢いを無理やり殺したとき特有の押しつぶされるような不快感に耐えながら、レンカは叫ぶ。
「今だッ……食い破れぇぇッ!」
『『『『了解ッ!』』』』
レンカの叫びに了解の斉唱で答えた第7小隊の《アードラー》が、ロケット・ブースターを背負って表れた。




