格納庫にて
「あの……レンカ大尉。私達、これでいいんでしょうか……」
アオイ達が敵先鋒と交戦している時、格納庫端の待機スペースに座っていたトリエラは、ふと浮かんだ疑問をレンカ大尉にぶつけていた。
「どういうことですか?トリエラさん」
「集中してんだから、気を散らさないでほしんだけど」
トリエラの問いに、エストとフーシャの2人が答えた。問いの答えというより、どちらかというと文句に近いものであったが。
「だってさ……アオイも、他の人達も今戦ってるのに、ここで待ってるだけなんてさ。なんか、卑怯……な感じがしない?」
トリエラが続けた言葉にエストとフーシャが沈黙する。
今も数キロ離れた場所で、戦っている人間がいるというとを思い出したからだ。
自分たちは何のために1年以上も訓練を積んできたのだろうか——。
肩透かしを食らったような、そんな思いを共有した3人を椅子にどっかりと座りながら見ていたレンカ大尉は、ゆっくりと口を開いた。
「私達はアステル・アカデミーから貴方達を借りている身ですからね。出来る限り安全を確保してあげる約束なんですよ」
レンカ大尉のその言葉は、ぶっきらぼうだった。
階級こそあれど、ほとんど学徒兵と変わらないトリエラ達に、せめて経験だけは積ませてやろう……そんな上層部の意図が見え隠れする言葉だった。
つまり自分達は、お守りをされている子供でしかないのだ——。
そう思うとトリエラ達の脳裏に、ふつふつと不可思議な感情が湧き上がってきた。
それは、プライドだ。
自分達はアステルであいつらと戦ったのだ、経験も十分にあるんだというプライド。
しかし、そのプライドを燃え上がらせる自分を客観的に見つめるトリエラも、確かにそこにいた。
所詮それはやせ我慢ではないのか?経験を言うなら、より多くの実践経験を積んだ上官に従うのは当然のことではないのか?
プライドと理性が定期的に衝突し、その度に理性がプライドをねじ伏せる。待機という命令を受けてから何度も繰り返してきたそのやりとりも、いい加減限界が見えつつある。
段々と強さを増しつつあるプライドを鎮めるため、トリエラは手元のボトルを煽ろうとした——。
『前線部隊から報告、敵部隊が上空から防衛線を突破、基地に近づきつつある。目的は|シュツゥルム・イエーガー《吶喊猟兵戦術》による直接攻撃と推定される。待機中の全パイロットは機内で出撃準備。繰り返す……』
立ち上がる正規パイロットたちに紛れてレンカ大尉は椅子から飛び上がり、叫んだ。
「全員、コックピットに走れ!」
レンカ大尉の叫びに鞭を打たれたかのように、トリエラ達は一斉に走り出した。
軍靴が格納庫の金属製の床を打ち鳴らし、カンカンと子気味良い音が響く。
格納庫の端にひっそりと佇む《フォーレン》が迫る。
3人は《フォーレン》のコックピットに乗り込み、起動キーを差し込む。
モニターが次々と点灯し、自動的に機体のセルフチェックを開始する。
「動作モードは初期のまま、FCS、Aモード……」
『ジェネレータ……正常』
『胴体部……正常』
『FCS……正常』
『コンデンサルーム……正常』
『背部ハンガー……正常』
『頭部……正常』
『右腕部……正常』
『左腕部……正常』
『シュヴァルベ・ユニット……正常』
『脚部……正常』
先月、アステル・アカデミーで起動したときとは違う、驚くほどのセルフチェックの速さにトリエラは息を飲んだ。
トリエラ達の《フォーレン》は、内装品を実戦仕様のものに積み替えられていたのだ。クレートレッフに来てから何度も起動する機会はあったのだが、実戦ですぐに起動するという事実は、何事にも耐えがたい安心感を3人に与えてくれていた。
『こちらトレッフ1、待機中の第7、第8、第9小隊、及び69試験小隊に告ぐ』
モニターにいつもの喋り方ではないレンカ大尉の姿が映った。恐らく向こうのモニターに映っているのだろう、待機中のパイロットの顔を見るように視線を動かし、続ける。
『現在、前線の部隊が迎撃のためにこちらに戻ってきている。第7小隊は私と共にロケット・ブースターを用いてゼロ距離離陸、後続が上がってくるまでの迎撃戦をやる。時間稼ぎだけだ、無理に落とそうとしなくていい!』
第7小隊からの了解の斉唱を聞いたレンカ大尉はゆっくりと頷き、トリエラ達を見る。
実際はモニターに映った自分たちを見ているはずなのに、確かに見られていると感じた。
『69試験小隊は支援火器を使い、カタパルトの準備完了まで時間を稼げ!格納庫の中からばらまいているだけでいい!』
『『『了解!』』』
再びゆっくりと頷いたレンカ大尉は、大きく息を吸って、叫んだ。
『よし――戦闘準備ッ!!』




