荒馬と荒鷲 その3
16機の敵に突撃したアオイは、1番近い位置にいた敵に対し、銃身下滑腔砲に装填されたAPHEを放った。
敵が持った盾に弾頭が突き刺さり、炸裂。アオイの視界をオレンジの爆発が染めたが、アオイはそれを無視し、爆風に飛び込んでいく。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
アオイは盾を構えた《アドゥヴァーニ》の3メートル手前に接近――ジェットエンジンのアフターバーナーを点火して、瞬く間に頭上を取る。
「くらえぇぇぇッ!!」
ジェットエンジンのノズルを真上に向けることで、上方向への推力を強引に殺して、左手に握った剣の切っ先を向けながら、どうにか《グラニ》を視界に捉えようと必死に上半身を逸らしている《アドゥヴァーニ》に急降下。
速度を威力に変えて突き出された直剣の切っ先は容易く第1世代TDの重装甲を粉砕し、背中まで一息に貫いた。
「1機目ッ!」
剣の柄に機体の重さを乗せて、敵機を串刺しにした剣を下半身を分断しながら無理矢理引き抜き、アオイは次の標的を見定める。
オイルの中に赤い筋が走っている刀身を振りながら、アオイは次の標的に向けて飛び出した。
一番近くににいた《アドゥヴァーニ》に突撃しながら、右手のアサルト・ライフルを向け、発砲。《アドゥヴァーニ》は盾を掲げ、それを受ける。
アオイは数十発の弾丸を受けた敵機の盾にアンカーを突き刺して背後に回り、がら空きの背中にAPHEを撃ち込む。
「2機目!」
胴体に大きな穴が開き、バラバラにはじけ飛んだ敵機の手足を隠すように、モニターに警告表示が映った。
警告表示を読み飛ばし、コックピットのペダルを蹴る。
ジェットエンジンがうねりを上げ、背後から飛んできた弾丸がすぐ隣をすり抜けていく。コックピットの上下がぐるぐると入れ替わり、アオイは喉から絞り出されたうめき声と機体の軋みを感じた。
「ううっ……当たらないんだよッ!」
《グラニ》は片足で着陸しながら方向転換し、先ほど撃ってきた敵にAPHEを2発、続けざまに撃ち込んだ。
盾に突き刺さったAPHEが炸裂し、盾の上半分を吹き飛ばす。
むき出しになった敵の上半身に長剣を投擲し、空いた左手で銃身下滑腔砲のマガジンを引っ張り出して、力任せに滑腔砲に叩き込んだ。
バランスを崩して仰向けになった敵機のコックピットを《グラニ》のかかとで蹴りつぶしながら、頭部ユニットに突き刺さった長剣を引き抜き、手近な敵機にアサルト・ライフルの徹甲弾をばらまく。
「3機目ッ!ベル!」
『わかってるッ!』
アオイが一気に囲まれないように各所に牽制を行っていたベルナテットが急激に高度を上げ、アオイのそばに近づきつつある3機に弾丸をばらまいた。
突き立った弾丸が巻き上げた土煙に紛れてアオイは突進し、3機の上半身と下半身を長剣の一振りで切り離した。
――《《あたり》》が弱い……。まだいける!
やけに弱い敵の抵抗に疑問を持ちながら、アオイはサヤカに疑問を投げた。
「これで6機……。残りは?」
『トレッフ2が4機落としたので、残り6機です』
残りの6機は敵陣の最後方、扇形陣形を取り、突撃してきた相手を囲めるように陣取っている。
本来ならそこに飛び込むのは愚策中の愚策、しかし。
——いいや、やれる。わたしの予想通りなら……。
アオイは、自分の思考が冷え切っていくのを感じた。心臓はばくばくと鳴っているのに、脳の中心部だけが、すんと冷え切ってしまったかのような感覚。
今のアオイにはそれが、どうしようもなく心地良かった。
「行くぞッ!」
直剣を構えたアオイは、躊躇なく敵陣に突っ込んでいく。
『アオイ!?危ない!』
サヤカの静止の声も、もう届いてはいなかった。鉛玉の嵐を掻い潜りながら吶喊するアオイは、コックピットの中に鳴り響く無数の警告音を無理矢理消して、真正面の2日の《ストリージ》に向き合った。
「欲しいのなら……くれてやるよッ!」
アオイは右手に握ったアサルト・ライフルを正面の2機に向かって投擲。宙を舞ったアサルト・ライフルは一瞬で無数の弾痕が穿たれ、炸裂。
アオイは爆風を煙幕がわりに突っ込んで、前衛2人を飛び越える。目標は後衛の4機。
『あいつ、ライフルを……うわぁっ!』
「うぉぉぉぉぉッ!」
パイロットの操作ミスだろうか、まだ高い男の、上擦った声が聞こえた。
アオイは自由になった右手を背中に伸ばし、もう1本の長剣の柄を握り、抜き放つ。
『助けてっ、母さ……』
敵のパイロットが全て話し終えるより先に、黒鉄色の軌跡を描いた刀身が装甲を打ち砕き、コックピットを内蔵した胸部ブロックを押し潰した。
裂けた装甲の隙間から流れる、赤い筋から視界を引き剥がして、アオイは残りの後衛3機を見据える。
『ああっ……隊長!』
「うるさいなぁ……集中できないだろッ!」
アオイは半ば八つ当たりじみた声を上げ、力任せに直剣を振り回し、手近な位置にいた2機の胴体を下半身から切り離した。
——泣くな、騒ぐな。なんでこんなことに惑わされなきゃならないんだ……。
脳裏に浮かんだ思考を噛み潰し、後衛最後の機体のコックピットに長剣を捩じ込む。
アオイの精神状態は、すでに普通ではなくなっていた。
いつもなら無視できるはずの敵の言葉すら無視できず、その言葉一つ一つに身を切られるような痛みを感じる。
その痛みの理由が、どうしても分からなかった。
今アオイに出来ることはただ一つ。不快な声の主を、纏めて斬ることだけだ。
コックピットに突き刺さった長剣から手を離し、背後からの《ストリージ》の射撃を回避したアオイは、《ストリージ》のライフルを持った右腕を、肘あたりから断ち切った。
「ベル!」
『そう言われても……ねっ!』
言葉足らずにも程がある指示を受け取ったベルナテットは上空に飛び上がり、ライフルを発射。右腕が無事な方の《ストリージ》のコックピットを吹き飛ばす。
敵が吹気を取られている隙にアオイは《グラニ》の腋部に格納された対装甲ナイフを抜き、そのままコックピットに突き刺した。
主人を失い、急速に生気が抜けていく《ストリージ》を地面に転がし、アオイは大きく息を吸った。
『お疲れ様、大丈夫?』
「うん……少し、大丈夫じゃないかも」
『ボクもだよ。久々に大暴れしたからね。全部終わったら、少し休もう……』
そう言葉を交わす2人の視界に、クレートレッフ基地の逆側の方角から近づく、1機のTDの姿が映った。




