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まるで月の光のような その2

 トリエラと別れたサヤカは、水のたっぷり入ったボトルを持って、演習場の裏にあるテントに入って行った。

 隣に止まっている電源車から無数のコードが潜り込んでいるテントの中には、一つの卵形の機械がある。


 卵のサイズは直径3メートル。

 コードのほとんどはその卵に接続されており、まるでお伽話に出てくる龍の巣と、その卵のようだった。


 テントの隙間から模擬戦が行われていないことを確認し、卵の外殻に備え付けられたスイッチを押す。

 卵の殻が割れ、中のシートに座っている少女が姿を現した。

 少女は外の明るさに顔をしかめながら、口を開く。


「なんの用ですの?」

「交代するよ、疲れたでしょう?」

 アリシア・アーホルンという名の少女は、サヤカの申し出に少し不服そうにし、再び問う。


「自分の仕事ですから、最後までやりますわ」

「どうしても?」

「なんだかんだ言いつつ、実際は1人になりたいだけですわよね?誰と顔を合わせたくないのかしら?リーリエさん?それとも、あの転校生?」


 問いに沈黙を返したサヤカを見たアリシアは、それはもう大きなため息をついて、サヤカの持っていたボトルをひったくった。

「ハタエさん。貴方、本当に頑固ですわね」

「30分、お願いしますわ」

「ありがとう、アリシアさん」


 卵の中から出て来た彼女と殻の間にできた隙間に潜り込むようにして、卵の中に入り込む。

 シートに座り込むと、ハッチが閉まって、正面に配置された4枚のモニターが点灯。

 シートの左右に配置されたカバーに手を突っ込み、内部のスイッチを叩く。

 凸の形に並べられたモニターの一番上に外の景色が映る。

 その下には、2機の機体の位置を光点で表した地図が。

 左右にはそれぞれのメインモニターが。


 そう、これはただの機械ではない。

 モリニアが開発した、ティターン・ドール専用指揮管制システム。

 ペパーティア(人形使い)システムだ。

 人形使いの仕事は、人形ティターン・ドールを指揮し、彼らを勝利に導くことだ。

 指揮下の機体から情報を集積し、指揮を下す。

 ペパーティアシステムを使用した戦闘は人形劇に例えられており、システムを使う者は指揮者コンダクターと呼ばれている。


 しかし、どう呼んで、どう取り繕っても、それは他者を死地に送り出す死神でしかない。

 サヤカはペパーティアシステムのコンダクターに選ばれたとき、自分の卑怯さを嘲笑われているような気がした。

 お前なんて、ずっと後ろで誰かに守られているのがお似合いなのだと、お前のような卑怯者は誰かを死神に差し出し出すような仕事がお似合いだと――。


 サヤカは頭を振って、マイナスの方向に進みかけた妄想を無理やり引き戻し、システムに搭載されたマイクに向かって口を開く。

「コンダクター、システムに入りました。次の模擬戦は……」

「エストよ、入ったわ」

 (いつもではあるのだが)不機嫌そうなエストの声が聞こえて、左側のモニターにエストのいるコックピット内の映像がリアルタイムで映し出される。

 何の感慨もなさげにそれを眺めた後、右側のモニターに映し出された人の顔を見たサヤカは、ぎょっとした。


「ぁっ、アオイです。入りました……」

――どうして今⁉

 と、思いつつもサヤカは平静を装い、アオイに問いを投げる。

「動かせるの?」

 答えは知っていた。昨日父から聞いていたから。

「……もちろん」


「……じゃあ、任せる。好きにやりな」

「……サヤカ、見ててね。力になれるって、証明して見せる」

 そう宣言したアオイから、サヤカはつい目をそらしてしまう。

 どうしてそこまで自信があるのだろう?


 そんなことを考えながら、いくつかのスイッチを叩く。

 そうすると即座に中央のモニターが切り替わり、30秒にセットされたタイマーが現れた。

 今ごろ二人の機体のモニターにも同じものが表示されているだろう。

 本来であれば作戦中の時間合わせに使われるものだが、今回は別だ。

 機体のシステムと連動し、このカウントがゼロになったら決着がつくまで二人は斬り合うことになる。


「あんたさ、最初っから私のこと見てないでしょ。どういうつもり?私のこと人形か当て馬とでも思ってるの?」

「私は人間よ、あんたには分からないかもしれないけど」

 そんな、どこか自分に言い聞かせるようにエストは告げ、腰に吊られた剣を抜いた。

「わたしが、あなたを見てない……?」

 アオイは、心底エストが何を言っているのかわからないと言いたげな顔をしながら、同じく剣を抜いた。


 残り20秒。

「分かんなくてもいいよ、分かってもらおうなんて思ってないし」

 ほとんどの相手は、ただの揺さぶりだと思って相手にもしなかっただろう。

 しかし、どういうわけかアオイには刺さった。

「揺さぶろうと思ったらもっと下手になるはずなんですけどねえ」

 二人を離れた場所から見守るフーシャは、そんなことを口にしていた。

「あの2人、本音で話し合えば、以外と仲良くなれるのではなくて?」

 そんなこと言ったのは、アリシアだ。


 残り10秒。

「……でも」

「あなたのこと、何にも知らないし、分らないけれど。……それでも」

「わたしは、あなたのことも知りたいよ」

 2人にはもはやタイマーの動きがほとんど止まっているように見えていた。


 タイマーの数字がゼロになり、2人の機体はかけっこをする子供のように地を蹴った。

 それがサヤカとトリエラには、とても羨ましいものに見えた。

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