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交差する思考 その3

 アオイ達のはるか前方で、爆炎が次々と上がった。クレートレッフ基地の砲兵部隊による面制圧だ。

 無数の砲弾が駆ける空の下、陣形を組んだTD2個中隊24機は、ただひたすらに戦場を目指していた。


 24機のTDと、それをクレートレッフ基地から管制している2機のペパーティア・システムの間には、重苦しい沈黙だけがあった。

 出撃した直後には交わされていた雑談もいつのまにかなくなってしまい、コックピットにはシュヴァルべ・ユニットのジェットエンジンの金属音と、空飛ぶTDに当てられてガサガサと揺れる木の音だけが響いていた。


『見えてきたぞ』

 誰かの声が中隊用の通信チャンネルを通して、アオイの耳に入った。

 アオイの視界の先、爆炎の中に、いくつかの人影が見えた。しかし、ただの人影では無い。

 戦争でもぬけの殻になった町は、それ自身を迎撃地点とする為に大規模な整備が行われており、人影は家屋に偽装されたコンテナよりも大きな姿を火炎に映している。


 もちろん、その人影の正体はTDだ。

 そのほとんどは東側製第1世代TD、G-20《アドゥヴァーニ》。先月のアステル襲撃から嫌というほど見てきた、『首なし旅団』の主力機である。

『敵機確認、ほとんどは《アドゥヴァーニ》だけど、いくつか《ストリージ》が混じってるね……』


 迎撃地点を確認したベルナテットが口を開いた。実際、火炎に映る人影には、いくつか細身の影が混ざっている。

 《ストリージ》と名付けられたその機体は、軽量な身体と、高出力のジェットエンジンを特徴とする東側製の第2世代機で、その身軽さ故に、こちらの中隊を構成するTD、《アードラー》ではドッグファイトになると部が悪い。


『ボクの第1小隊と第4小隊は扇形陣形で《ストリージ》を始末する。第2、第5小隊は前方で《アドゥヴァーニ》の足止めを!第3、第6は支援火砲で足止めしたやつを片付けろ!』

 中隊全員の了解の唱和が、コックピットの中に響く。


『よし!火器使用自由!』

「……了解!」

 中隊全員が唱和と共に、それぞれのTDが手にした武器を構えた。

 迎撃地点に入り、足元の景色は木からコンクリートと石畳、コンテナと家屋に変化する。


『行くぞッ!東に屈した犯罪者どもを血祭りにあげてやれッ!』

『第3、第6小隊、エンゲージ!』

 後方に着地した第3小隊と第6小隊が、アオイの前方の敵部隊に対して発砲。アサルト・ライフルの銃身下滑腔砲アンダーバレル・カノンに装填されたHEAT(対戦車榴弾)の雨が、敵前衛の盾を破る。


『第2、第5小隊、エンゲージ!』

 アオイ達の前に出て散開した第2小隊と第5小隊は、散会しつつ盾を破られた敵前衛の《アドゥヴァーニ》にアサルト・ライフルを発砲。AP(徹甲弾)の雨を降らせた。


『第1、第6小隊、エンゲージ!!アドゥヴァーニ(雑草)には構うな!ストリージ(雨燕)だけを食い尽くせッ!アードラー()の名に泥は塗るなよッ!』

『『『『『『「了解ッ!!」』』』』』』

 少々雰囲気が変わったベルナテットの指示に従い、2個小隊8機のTDが2機ずつに別れ、それぞれ手近な位置にいる《ストリージ》に向けて加速した。


『ドッグファイトじゃ分が悪い、単機で相手はするな、常に2機でかかれ!アオイ、ボクの後ろに付け!左から2番目の機体だ、行くぞッ!』

 アオイはベルナテットの《アードラー》の背後について、敵陣の左から2番目の《ストリージ》に向かう。


『——はああああああっ!』

 アオイの聴覚にペパーティア・システム越しのベルナテットの声が響き、彼女の《アードラー》が手にしたアサルト・ライフルが吠える。ライフルに装填された40mm徹甲弾が次々と吐き出され、《ストリージ》の盾を削っていく。


「行けェッ!」

 ベルナテットと対峙する敵の背後に回り込んだアオイは、ガラ空きの背中にHEAT(対戦車榴弾)を撃ち込んだ。

 《ストリージ》は背中からばっくりと大穴を開け、バラバラになった手足と共に墜落した。

 前衛が注意を引き、後衛が敵の後ろに回って撃つ。どんな教本にも載っている、基本の連携だ。


『1機目!相手の腕は大したことない、基礎通りだ、囲い込んですり潰せッ!』

 ——ベル、変わったな。

 頭に浮かんだ思考ごとベルナテットの叫びに押し出されるようにして、アオイは次の目標に向けて加速した。


 ——昔は、あんな荒々しい物言いをしない人だった……気がする。正直、あんまり覚えてないけど。

 前衛後衛を入れ替え、2機目の目標に牽制射を放ちながら、アオイは考えていた。

 上の空のまま目標にHEAT《対戦車榴弾》を撃ち込み、敵の盾の上半分を吹き飛ばした瞬間、榴弾の爆風の中でアオイの思考の中に眠る、何かが瞬いた。


 アオイの思考の中にあったのは、クレートレッフ基地のダム湖と、あの水面の下にある何かに焦がれた自分の姿だった。

 ——変わってないのは、わたしだけなのか?

 アオイの思考に、一瞬ノイズが走った。それと共に浮かび上がる、泣きたくなるほどに懐かしい、誰かの顔。


 ——あの人の名前、なんだっけ……?

 アオイが心の中で唱えた問いへの返答は、眼前に向けられた銃口と、そこから放たれる鉛玉だけだった。

「……ッ!」

 アオイは反射的に操縦桿とペダルを操り、至近距離で放たれた弾丸を全て回避した。


「ベル!」

『わかってる!』

 アオイは掛け声と共に浮かび上がり、それを目で追ってしまった敵機を背後に回り込んだベルナテットの《アードラー》が撃った。


『2機目!』

 アオイは墜落する敵機を無表情で眺めながら、ベルナテットが次の目標を見つけるのを待っていた。


『3機目は……』

 ベルナテットとアオイは3機目の《ストリージ》に狙いを定めた。

 その時、コックピットに甲高いジェット気流の音が響いた。シュヴァルベ・ユニットでは出せないはずの大音量。


 しかし、アオイにはその音に心当たりがあった。つい最近、嫌というほどに聞いたような気がするその音に耳をすませてみると、《《その音は正面から、こちらに近いている》》ではないか。

「あれは……?」

『まさか……!』

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