日常の違和感
山に入って大体5時間が経ったころ、アオイが弱音を吐いて、地面に座り込んだ。
「疲れた……もう駄目だ」
「意外と持ちましたね、そろそろ2つ目のチェックポイントですから、もう少しだけ頑張ってください」
口を上手く動かすことすらできないほど疲弊していたアオイは、フーシャにかけられた言葉に返答せずにゆっくりと立ち上がった。
目を擦って、汗で歪んだ視界を整えたアオイは、どこまでも変わらないのではないかと思えるほどの緑いっぱいの景色にげんなりしながら、3メートルほど先にいるフーシャ達に向かって歩き出した。
————
先ほど立ち上がってから大体5分。ようやく視界が開けて、ある程度の広さがある空間に出た。
「……疲れた」
アオイは再び掠れた呻き声をあげて地面に座り込んだ。
手にした水筒を煽り、乾いた喉を潤そうとしたが、水筒からは一滴の雫がこぼれただけだった。
「アオイ、お疲れ様。倒れられたら困るし、飲んで」
空の水筒を未練がましく振っていたアオイに、エストがそう声をかけ、自分の水筒を手渡してきた。
「助かるけど……エストは大丈夫なの?自分の水は……」
「大丈夫だから渡したの。これから昼食のついでに水の補給するし、ここなら水はたくさんあるから」
リュックサックを下ろしてエストが親指で指差した場所に向かってみると、そこには、比較的大きな水場があった。
小さなプールくらいのサイズがある滝壺に、小さな滝が流れ込んでいる。
そこだけ見れば大したことはない、どこにでもあるただの水場だった。しかし、アオイの目に映るそれはどうにも違和感があった。
「ねぇ、あれって……」
アオイの声を聞いて近づいてきたエストとフーシャが滝壺を覗き込む。
アオイが指差した先には、やけに角張った石があった。
よく見ると滝壺の水面近くはほとんどその石で構成されており、普通の石はその上に乗っているだけのようだった。
正確には、ただ乗せていただけなものが長い年月をかけて一体化した、と言うべきか。
「なにあれ?」
「……石レンガ、ですね。なんであんな所に……?というか、もしかしてこの滝壺、人工的に作られたものなんじゃないですか?」
アオイはエストとフーシャと一緒に滝壺を覗き込んだ。しかし、歴史や建築の専門的な知識を持つわけでもない3人がただ覗いてみただけで何かが見つかるわけもなく、
「「「……」」」
3人の間を、気まずい沈黙が流れた。
アオイとエストはお互いに「何か言えよ」と言いたげに顔を見合わせ、数秒睨み合った後、フーシャの顔を見た。
「……ど、どうしたの?」
実は最初から滝壺ではなくエストの顔を見ていたフーシャは顔を赤くして、そう言った。
フーシャからも望んだ答えが得られないと察した2人は性懲りもなく再び滝壺を覗いた。
フーシャも今度こそエストと同じように滝壺を覗く。
御伽話に出てくるような精霊が実在して、この滝壺に宿っていたら確実に腹を立てて出てくるだろうと思うくらいに、馬鹿3人はまじまじと滝壺を覗いていた。
「3人とも、何やってるの?」
馬鹿3人の後ろから、サヤカの声が聞こえた。
「この滝壺が人工的に作られたものなんじゃないかって話をしてたの、サヤカはどう思う?」
「気にはなるけど、女の子とは思えない格好をする理由にはならないね。はしたなかったよ」
「そう?そこまで意識してなかったな……」
アオイは立ち上がって、ひざや太ももについた泥汚れをはたき落としながら、サヤカにそう言った。実際、アオイははしたないことをしているという自覚は無かった。
「で、サヤカは何かわかる?」
「わかる……というか、基地の娯楽室にその辺いろいろ書いてある本置いてあったよ。気づいていなかったの?」
「気づかなかった……。そもそも娯楽室なんて寄ったことなかった」
「で、なんて書いてあったの?」
「確かここは……唯一皇帝が作った水場だね」




