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少女達の行進 その3

「何でこんなことに……」

 翌日、げんなりした顔でそう呟くベルナテットを見つめながら、アオイは手にした地図を眺めた。

 ピクニック……そう称されたクレートレッフ基地伝統の訓練の内容とは、やけに重いリュックサックを背負い、地図に記された3つのポイントを巡るというものだった。


 参加するメンバーは、アオイ、サヤカ、トリエラ、エスト、フーシャ。そして引率兼監視役としてついていくことになったベルナテットだ。

 地図から顔を上げたアオイは、エストの顔を不思議そうに見ていた。


「なに?」

「……もっと文句言うかと思ってた」

「私のこと、どんな人に見えてたのよ」


 ——絶対に「こんなことより模擬戦をやらせなさい!」と言うと思ってた……。

 アオイはベルナテットが文句を言って、サヤカ達——特にエスト——が文句を言わないことを、不思議に思っていた。

 アオイのあまり当てにならない記憶の中では、ベルナテットはあまり上官に口答えをする方ではなかった。そんな彼女が文句を言う姿は、アオイにとって、物珍しいものだったのだ。


「別に、こんな山登りなんて、去年数え切れないくらいやらされてきたもの」

 アオイが喉の奥に引っ込めた言葉を感じ取ったエストは、そう言った。

「アオイはやったことないの?」

「……ない」


 その言葉で、エスト達の周囲に漂う空気が凍ったことが、すぐにわかった。

 アオイは、軍人が本来行うべきトレーニングの、その内容すらつい最近になるまで知らなかったのだ。

 士官学校どころがブートキャンプすら経験したことのない彼女と、少なくとも1年はそれを経験してきた彼女達では、大きな基礎体力の差があった。


 階級が高いだけの少年兵でしかないアオイとベルナテット、訓練兵とはいえ訓練を1から積んできたエスト達。

 同世代の兵士であるはずの6人の間にある隔たりが、確かにそこにあったのだ。


「本当に大丈夫?これ背負えるの?30キロあるこれを背負って、山道何十キロも歩くんだよ?」

「30キロ……重いね」

 具体的な重さを聞かされたアオイは、すこし戸惑った。突然体重が倍近くに増えて、普通に歩けるだろうかと。


 ついでに言えば、アオイは数十キロという距離の長さすら、正確に理解していなかった。

 知識としては知っていても、それを歩くという経験をしたことはほとんどなかった。

 アオイがそれほどの距離を歩いたのは戦時中に機体が墜落して、味方の基地を探して彷徨った時くらいだった。


「でも、やってみなければ、わからない……」

 アオイが口にしたその言葉は、半分自分に向けたものだった。


 アオイはリュックサックの持ち手に手を伸ばして、それを持ち上げようとした。瞬間、

「……重っ!!」

 リュックサックは底に根が生えているのではないかと思うくらいにずっしりとした感覚をアオイの手に返した。

 無理に持ち上げようとすると肩が抜けてしまうのではないかと思うくらいだ。


「……駄目じゃない。ほら、見てて」

 エストはため息をつきながら、リュックサックをの上に仰向けになり、ハーネスに腕を通した。

「大丈夫?腹筋だけで持ち上がる?」


「大丈夫だから、黙って見てて……えいっ」

 エストはぐいっと体を回転させ、四つん這いになった。背中に覆い被さる形になったリュックサックがとても重そうで、エストの額には汗が浮かんでいる。

 エストはそのまま腹の下に膝を抱え込んで、下半身をバネのようにして立ち上がった。


「よし……あれ?おとと」

 立ち上がったエストは両手を振って体勢を立て直そうとしたが、後ろに重心が寄っていたからか、後ろに倒れ込んだ。

 あわや転倒かと思ったその時、エストの背後にフーシャが現れて、エストの背中を支えた。

 

「……すとちゃん。いいところを見せてあげたいのはわかりますけど、転んだら笑われちゃいますよ」

「……やってもらわなくたって、自分で何とかしたから」

 エストはそっぽを向いた。


「……すとちゃん」

 そっぽを向けられたフーシャの表情が曇り、目に怪しげな輝きが映った。

 アオイはそれを見つめながら、エストの見せてくれたやり方に従ってリュックサックを背負い、重心の変化に耐えながら山の中に歩を進めた。

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