少女達の行進 その2
アオイ・モーントシャインはクレートレッフ基地のダム湖を囲む通路の上にある、本来はダム湖の水位を監視するための部屋から、1キロほど離れた位置で繰り広げられる戦闘の様子を見ていた。
トリエラたち69試験小隊が攻撃側、クレートレッフ基地第6小隊が防衛側で行われている模擬戦の趨勢は、先日の醜態が嘘のような変遷を見せていた。
フーシャの狙撃で数的有利を作り出した69試験小隊は、いつもの装備のトリエラと支援火器に変わってロングバレルのアサルト・ライフルを装備したエストを低空から突入させ、第6小隊の《アードラー》と壮絶なドッグファイトを繰り広げている。
——気を抜かないで、そのまま……!
アオイは無意識のうちに手を握りしめ、トリエラとフーシャにエールを送っていた。
TDのドッグファイトにおいて、考える上で1番大切なものは気持ちであるというのが、アオイの持論だった。
急加速、急減速を何度も繰り返すドッグファイトでは、機体どころがパイロットの身体にもとんでもない負担がかかり、意識を持って行かれてしまうことが往々にしてあるのだ。
その時必要になるのは……敵を見続けること。「やらなきゃやられる」「わたしがやる」という意思が、パイロットの意識を繋ぎ止めるのだ。
軽量で機動性に優れる《フォーレン》なら、ドッグファイトでの多少の腕の差なら性能で押し潰せる。あと勝利に必要なものは、パイロットが負荷に耐えられるかだけだった。
エストの《フォーレン》と第6小隊の《アードラー》が交錯した。アオイが息を呑んで見守る中で、《アードラー》が墜落する。
熾烈なドッグファイトを制したエストは、最後の《アードラー》に狙いを定めて、軌道を変える。
エストの《フォーレン》は、トリエラの背後に着くために速度を落としていた《アードラー》に対して、まるで鷹が小鳥を狙うかのように見事な軌道で交錯して、撃ち落とした。
————
「69試験小隊、集まれ――ッ!」
アオイは格納庫の中で、大きく声を張り上げた。その声は先日よりずっとよく響いていて、すぐにサヤカ達4人が集まった。
アオイはその光景に心の中でガッツポーズをしながら、手にした資料の内容を確認する。
「中尉殿、今日は声が出ていますね」
「昨晩、レンカ大尉から借りた本で練習しましたからね。そう何度も迷惑はかけません!」
先日上手く声を出せなかったアオイに変わって69試験小隊の面々を呼び出してくれた整備兵が、アオイに声をかけた。
そう、アオイは昨晩、レンカ大尉から「出来る上司の声の出し方」なる本を借り、自室でそれを読みながら練習していたのだ。
「ほう、それはすごい。では、中尉殿の手腕に期待するとしましょう」
絶妙に反応に困る言葉を投げかけていった整備兵を視線だけで見送ったアオイは再び資料に目を落とそうとした。
「69試験小隊、集合しました」
しかし、すぐにサヤカ達が集まってしまい、アオイはやむなく視線を上げ、サヤカ達を見た。
「えっと……とりあえず、模擬戦とはいえ、初勝利おめでとう。見てたよ、すごかった」
「おだてるのはいいよ。それより、今日は何するの?今なら何でも出来る気がするから、何でも言っていいよ」
先ほどの3対3の模擬戦で2機撃墜したエストは自信たっぷりにそう言った。
——完全に調子に乗っている。
アオイは脳裏に浮かんだその言葉をどうにか口に出さないように気をつけながら、今回の訓練の内容を口にした。
「今日の訓練は……ピクニックです」
「ピクニック?ふざけてるの?」
アオイが全て言い切る前に、エストはあからさまに不満そうな声をあげた。
「ふざけてません、レンカ大尉から出された正式なものです」
「なんで軍隊がピクニックの命令を出すのよ……?いままでその命令出されたことある?」
「それはないけど……。命令書曰く、頑張ってるからだって」
「……なに、どうしたの?」
途方に暮れたアオイ達に声をかけた人がいた。ベルナテットだ。
アオイはこれ幸いとベルナテットに事情を話した。するとベルナテットは得心がいったと言わんがばかりに頷いた。
「ああ……クレートレッフ基地伝統のピクニックか」
「知ってるの?」
「もちろん。伝統だからね。ボクもやったし」
「そうなの?」
アオイは心底不思議そうな顔をして、資料を覗き込んだ。
「すごい大変だから、頑張って」
「……あれ?」
アオイは素っ頓狂な声をあげた。
「……なに?もしかして、ボクの名前も入ってるって言うんじゃないよね」
「……入ってるね」




