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少女達の行進

 アオイ・モーントシャインは自分以外誰もいない食堂のテーブルにうなだれ、擦れたうめき声をあげていた。

 手に握っているのは、くしゃくしゃになったカンニングペーパーだ。


「上手くいったのか、上手くいかなかったのか分からない……」

 訓練自体はうまくいったと、アオイは自負していた。しかし、昨晩夜なべした作ったカンニングペーパーはほとんど役に立たなかったのだ。

 それを「カンニングペーパーを使わなくても上手くできた」と解釈するべきか、「せっかく準備したものが役に立たなかった」と解釈するべきか、アオイは悩んでいた。


 「カンニングペーパーを使わなくても上手くできた」と解釈するのが一番普通の反応ではあるのだが、せっかく一晩かけてレンカ大尉から押し付けられた「コミュニケーションの取り方」だの「できる隊長の声かけ方」だの「部下の緊張のほぐしかた」だのという本を読み漁り、作り上げたカンニングペーパーがほとんど役に立たなければ、それも素直に喜べない。


 アオイは力任せにカンニングペーパーを丸めて、ごみ箱に放り投げた。

 しかし、カンニングペーパーはごみ箱の縁にぶつかり、一瞬縁でバランスをとって、床に転がっていってしまった。

 アオイはため息をつきながら席を立ち、床に転がったカンニングペーパーを拾い、ゴミ箱に放り込んだ。


 そして席に戻ろうとした時、誰もいない食堂の扉が開き、レンカ大尉が姿を現した。


「アオイさん、お疲れ様です!」

「レンカ大尉……お疲れ様です。カンニングペーパー、役に立ちませんでした……」

「やっぱりそうですよね!」


 レンカ大尉は元気そうにそう答えた。

「役に立たないのわかってたんですか?」

「はい!私も初めて部下を持った時にカンニングペーパーを準備したんですけど、何の役にも立ちませんでしたから!」

「じゃあなんでそんなの準備させたんですか!」


 アオイは叫んだ。

 ——上手くいかないことがわかっているなら、先に教えて欲しかった……そもそもそんなこと勧めないで欲しかった!

 そんな思いをレンカに伝えると、彼女はけたけたと笑い出した。


「でも、一晩かけて準備したんですよね?きっと、それは皆さんにも伝わっていますよ」

「伝わる……とは?わたしはカンニングペーパーを作れと言われて、それを実行しただけです」

「それでいいんですよ、サボってもよかったのにわざわざ作ったのは、あの子達に真摯な気持ちがあったからでしょう?」


 ——真摯な気持ちが、わたしにあるだろうか。

 アオイは、そう思った。

 カンニングペーパーを作った時、アオイの頭にあったのは、「上官に言われたからやろう」というものだけだった。軍人とはそういうものであるという自分の価値観に従って、こなしていただけなのだ。


「出来ることがあるならしたいって私に言ったのは、アオイさんですよ。それに、カンニングペーパーがうまくいかなくて悔しいってことは、カンニングペーパーを頑張って作ったってことですから。自覚があるかどうかは別として」

「そういうもの……ですかね」

「そういうものです!」


 上官にそこまで言われてしまうと、アオイも納得するしかなかった。


「実際、成果は出ていましたしね、大成功じゃないですか。食事を景品にするのはどうかと思いますけど」

「……すいません。つい咄嗟とっさに言ってしまって」

「まぁ、それで盛り上がったならいいですけどね。でも、これではアオイさんがひもじくなってしまいますね。青汁でもいかがですか?」

「要りません!」


 アオイは、きっぱりと強い言葉で否定した。言葉を濁すと本当に作って持ってきそうな、そんな予感がしたのだ。

「冗談ですよ。お詫びにこれをどうぞ」

 レンカ大尉はアオイに、カラフルなチラシを手渡した。

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