その感情に名前を
「勝てない……」
アオイは頬杖をつき、サンドイッチを頬張りながら、エスト達が頭を抱えて《フォーレン》のコックピットから出てくるのを見ていた。
クレートレッフ基地の先任パイロット達がエスト達に声をかけながら、男性用の更衣室に消えていくのを無表情に眺めながら、アオイは胸の中にある何かに名前を付けようとしていた。
――わたしを使ってほしい。わたしが居れば、負けることなんてないのに。
もちろん、それでは彼女たちの訓練にならないことくらい、アオイもわかっていた。少年兵上がりの自分では、座学の手伝いすらできないということも。
それでも、何かしたいと思った。具体的にに何ができるかすらわからないのに。
「アオイさん、どうかしましたか?」
「……レンカ大尉。考え事をしてただけ……です。自分に何ができるか、あの人達に何をしてあげられるか」
「なるほどなるほど」
アオイは、本当にわからなかった。
4人に何をすればいいのか、何をしたら喜んでくれるのか、何を言えば彼女達の悩みは解決するのか、そもそも、なんで彼女達は模擬戦で勝てないのか。
動きも、戦術も、少なくともアオイから見れば悪くなかった、先日の模擬戦でも、何回かひやりとしたほどだ。それなのに、先ほどの模擬戦では撃った弾は回避され、剣は空を切っていた。それはなぜだろう。
「アドバイスの仕方……では質問です。アオイさんは戦闘中、どこを見ていますか?」
「いろいろありますけど……一番よく見るのは、やっぱり敵ですね。連携をするにも、味方のフォローをするにも、敵の位置が重要だから」
「じゃあ、その次には?」
「えっと……地形?戦闘機動にも相手の回避を潰すのにも使うし、アンカーを引っかけたりとか、盾代わりとか……」
アオイが地形の利用方法を少し考えてみただけで、それは無数に浮かんだ。
自分が使えて、相手も使える地形は最大の武器であり、最大の強敵でもある。アオイ自身も袋小路に逃げ込んでしまって、危うく死にかけたことは、2度や3度ではない。
「なるほど。では、こちらが各演習エリアでのあの子達のスコアとなります。どう思う?」
レンカ大尉はアオイに手にした書類を渡した。そこに書かれていたのは、アオイをひやりとさせるほどの市街地戦闘における成績と、目を覆いたくなるほどの山岳地戦闘の成績だった。
「こ、これは……?」
「市街エリアでの戦闘は得意なんですけど、山岳まで追い込むと一気に崩れちゃうんですね。それは……」
「山岳地での地形把握が苦手ってことですか?」
「その通り」
――そういうものか?
アオイは、そう思った。
山岳地では地盤が雨などで緩むことで、比較的アンカーが刺さりにくかったり、機体を引っ張ると抜けてしまう時がある。そのため、石やコンクリートが多く、アンカーが使いやすい市街地と同じような動きをしようと思うとかなり苦労するのだ。
しかし、それだけの理由でここまで成績が悪化するだろうか?
そもそもアンカーを機動制御に使うのはアオイを始めとする一部のエースくらいであるし、アンカーを使わないのであればあまり変化はないはずだ。そこまで成績が下がる理由にはなり得ない。
「正確には、全員上の空って感じかな。慣れてる市街地ならそれでも比較的なんとかなるけど、それ慣れない山岳地だとそうもいかない。自分の頭をぶつけないようにするのに手一杯で、相手の動きとかを見てる余裕がない」
「……なるほど」
——そういうものなのだろう。
アオイはレンカ大尉の言葉を聞いて、妙に納得していた。先日の模擬戦で敵ではなくサヤカのことを考えた結果、見事に相手の策に引っかかった経験があったからだ。
「と、いうわけでアオイ・モーントシャイン少尉にはやって貰いたいことがあります」
その言葉を聞いて、アオイは自分の心が震えていることに気づいた。
多分それは、自分にやれることがあるのが嬉しかったからだ。
「もしかしたら、皆んなおんなじことで上の空になってるのかもしれないからね」




