エースの力 その2
アオイが背後に現れた《フォーレン》と交戦を始めたのを確認しながら、ベルナテットは狙撃手に向かって飛んだ。
——どういうつもりだ?
ベルナテットは狙撃手について思いを馳せていた。いくら弾速に優れるレールガンといっても、3キロも離れてしまえば回避は難しくはない。
TD相手に狙撃が最大の効果を発揮する最高のチャンスを、まず当たらない位置から撃つなんて、士官学校ではそんな基礎の基礎すら教えないのか、それとも罠か。
そんなことを考えているうちに、再び遠方で光が瞬き、レールガンの第2射が迫るが、それも回避。レールガンは発射直前に砲身が発光するため、正面切った状態なら回避しやすいのだ。
3発、4発。ベルナテットは次々とレールガンの弾丸を回避し、演習エリアの中心を超えた。
――おかしい、なぜ機関銃手は撃ってこない?
相手に機関銃持ちがいるなら、もう撃ってきてもおかしくないはずだ。
5発目のレールガンの発砲。回避可能な距離ではないため、ベルナテットは盾を使って受けた。一瞬で盾が全損判定を受け、盾が強制的にパージされる。
残りの距離は1キロを切っていた。レールガンの連射速度では残りの距離を詰めるベルナテットに撃つことは出来ない。
――機関銃手が居ないなら好都合だ。
ベルナテットは、そう思った。セオリー通りなら機関銃手は狙撃手のそばで護衛に着くはずだが、ようやくモニターに映った敵機の機影は1機だけだったからだ。
「アオイに撃墜取られるのは癪だしね、すぐ助けに行ってあげよっと」
ベルナテットはそう呟き、ペダルを踏みこんだ。
機体は加速して、コックピットシートに押し付けられる心地よい感触をベルナテットは感じながら、狙撃手に突進する。
狙撃手は、位置すら変えずにベルナテットに銃を向け続けていた。
残り500メートル。
残り400メートル。
残り300。
ベルナテットは手にしたアサルト・ライフルを構えた。
狙撃手は動かない。手にしたレールガンも輝くことはない。
――彼女達は本当に素人なのか?『アステルの戦乙女』の名は、本当に運で手に入れたものなのか――?
ベルナテットの感じた違和感は、《《狙撃手の足元に落ちている》》レールガンに向けられた。
――レールガン?何でそこに?じゃあ、今あの機体が持っているのは――
ベルナテットの思考が弾けたのと、《《エストの機関銃》》が火を噴いたのは、ほぼ同じだった。
————
「……サヤカさん、すごい策思いつくねぇ」
レンカ大尉は、基地のペパーティア・システムから3人に指揮を飛ばすサヤカにぽつりと呟いた。
「でも、この状況じゃなきゃ使えない策ですから」
サヤカは短く返して、再びシステムの画面に向き直った。
――まさかセオリーとハンデを利用した策を即興で思いつくとはね。
TDに狙撃を当てるためのセオリーである『相手に位置を知られていない状況の初撃』。小隊規模での狙撃装備TDの配備数。狙撃装備のTDを相手した時の対策として一番一般的なものである『近づいて接近戦』。アオイとベルナテットに付けたハンデの『通信制限』。
それらを纏めてサヤカの立てた策は、こうだ。
3機分隊を剣楯装備のトリエラと狙撃装備のフーシャのA隊と支援火器とレールガンを持たせたエストのB隊に分け、演習エリアに入ってきたアオイ達をエストに撃たせることで連携を分断し、エストを狙撃手と誤認して接近してきた方の機体を近距離での支援火器の連射で、もう片方をトリエラに引きつけさせてほぼ必中の距離まで接近させたフーシャの狙撃でそれぞれ排除するというものだ。
実際、アオイとベルナテットは見事にその策に引っかかっていた。
アオイはベルナテットの方にフーシャとエストがいると考えていたし、ベルナテットは至近距離までレールガンの持ち主がフーシャであると思い込んでいたのだ。
2人だって通信やレーダーが使えればもっと早く違和感に気づいていただろうし、アオイが自分のすぐそこまでフーシャを近づけることもなかったはずだ。しかし、それらが使えない状況を、7~8年の経験とそれに裏打ちされたある種の固定観念で補おうとした2人は最初から――それこそ演習が始まる前から――サヤカの策に嵌っていたのだ。
「……でも、どうかな?」
レンカは不敵な笑みを浮かべた。サヤカはちらりと彼女の笑みを見ていた。
「……どういうことですか?」
「私のベルちゃんは、強いよ」




