狙撃手を撃て その2
「今回は皆さんに市街地戦とは大きく勝手の違う、山岳部での防衛戦を体験してもらいます」
レンカ大尉のその一言で、先ほどまでの緩んだ空気が噓のように、作戦室の空気は強く引き締まった。
その空気の発生源は、トリエラ、エスト、フーシャ、そして、サヤカだ。4人は強く唇を引き結んでいる。
おそらく、2か月も前の4人なら緊張することはあれど、ここまでの反応は見せなかっただろう。
しかし、彼女達はつい先月、『首無し旅団』の学園都市アステル襲撃から避難民を救出するために戦闘に参加して、その手を人の血で汚していた。
自分の手で他者の命を奪ったという記憶は、他者に銃を向けることを忌避させるのに十分なショックを彼女達に与えていたのだ。たとえそれが、致死性のない模擬戦用のペイント弾であったとしても。
「……それは、テストと考えていいのですか?」
フーシャが、そんな疑問を口にした。
「テストですか……そう言われれば、そうなりますね。結果によっては平時の訓練メニューが変更されることもあります。あっ、でも、そこまで緊張する必要はありませんよ!?勝敗はあまり考慮されませんし、あくまで学校でどのくらい真面目に山岳地での戦術について勉強してきたかとか、その程度ですから!」
「それに……もし『首無し旅団』がここを襲っても、前線で直接戦うのはわたしたちですから!アステルの時のような怖い思いはさせません!」
レンカ大尉は口を噤んでしまった4人に対して、そう付け加えた。
その言葉を聞いた4人の身にまとう雰囲気が、少しだけ柔らかくなった。
――わたしも、あんな風になれるだろうか。
アオイは、4人の緊張をうまく解きほぐしたレンカ大尉の姿を見て、そう思った。アオイの脳裏に浮かんだのは、アステル襲撃の際にパニックになってしまったトリエラの姿だった。
――あの場にいたのがわたしではなく、レンカ大尉であったなら、もっと上手く声をかけられたのだろうか。
「では、模擬戦の編成を発表しますね、防衛側がトリエラ・リーリエ少尉、エスト・オルヒデーエ少尉、フーシャ・マイグレックヒェン少尉。攻撃側がアオイ・モーントシャイン中尉と……ベルちゃん、よろしく」
アオイの思考を現実に引き戻したのは、レンカ大尉のその言葉と、それを聞いたエスト達4人の上げた、不満を隠す気のない抗議の声だった。
「流石にそれは戦力差があり過ぎるんじゃ……」
サヤカが言った。
一騎当千のスーパーエースの代名詞である『イェーガーマイスター』の称号の持ち主2人を士官学校出たてのパイロット3人で相手する。
結果などやらなくてもわかる。
「もちろん、ハンデはつけますよ!アオイ少尉とベルちゃんにはペパーティア・システムの補助と機体の索敵用センサーを切って戦闘してもらいます!」
今度はアオイ達が閉口する番だった。
ペパーティア・システムと索敵用センサー無し。それは、機体の目と耳を潰されるのに等しいことだったからだ。
ペパーティア・システムの持つ長距離通信と高性能レーダーはおろか、機体間のデータリンクすら使えない。
おまけに攻撃側で地の利すら向こうにある状態で、目視で狙撃手を見つけろというのだ、正気の沙汰ではない。
しかし、戦時中に作戦立案者を病院に連れ込みたくなるような無茶振りを何度もやってきたアオイ達の脳内では、すでにどう狙撃手を捕捉するかの作戦会議が始まっていた。
「わたしの機体は?グラニはバラされてるし……」
「大丈夫です!予備機のRG2-45を貸しますよ!ベルちゃんとお揃いです!」
——どこも大丈夫じゃないんだけど。
アオイはそう思いながらも、レンカ大尉の元気な声に押されて、何も言うことはできなかった。
「では、9時に各員出撃位置に集合!解散!」




