再会 その2
「エスト、エスト・オルヒデーエ!?どうしてここに!?」
もう二度と聞くことは無いと思っていたその言葉を聞いて、エストは一瞬のぐらりとした錯覚の後、言葉を失った。
くすんだ金色……じゃがいも色の彼女の髪を視線が吸い込まれ、それ以外のすべての世界の色が消えていく。
エストはふらりと体勢を崩したようにゆっくりとアオイに近づいた。
「アオイ、無事でよかった……」
エストは緑色の大きな瞳を潤ませながら、アオイに抱きついた。アオイの平均より一回り小さい体がエストの体に埋まり、アオイの髪から漂う甘い香りが、エストの鼻腔をくすぐる。
「エ、エスト……?どうしたの……?」
アオイの動揺を隠しきれていない声が、エストの鼓膜を揺らした。
「サヤカが、アオイは自爆したって……」
「えっ」
「えっ?」
アオイは、エストの体から顔を出し、素っ頓狂な声を上げた。それに釣られて、エストも同じくらい……もしかしたらそれ以上に素っ頓狂な声を出した。
「サヤカが、何でそんなこと……?あっ」
「……えっ?何?何があったの?」
「『学校辞めた理由説明しておいて』って言ったんだった……。まさか死んだことにされてるとは……」
「……は?えっ?」
アオイの自分の思考を馬鹿正直に全て口に出したかのような発言に、エストは自分の顔が真っ赤に染まり、熱を帯びていくのを感じていた。
「死んだって説明したならそう言ってくれればいいのに……それならドッキリでも何でも付き合ってあげたのにな……」
「は、ば、ば……」
エストは歯をガタガタと鳴らしながら、わなわなと右手を持ち上げた。
「バカァァァァァァァァッ!!」
エストが振り下ろした右手は、ぱちーんと軽快で澄んだ音を廊下に響かせた。
————
アオイは赤く腫れた頬をゆっくりとさすりながら、作戦室の椅子に座っていた。
——あれは確かにやりすぎたかもしれないけどさ、だからって上官を引っ叩くことなくない?そもそも、悪いのはわたしのことを死んだことにしたサヤカじゃないか——と、そうアオイは思っていた。
――いや、わたしを死んだことにするしかなかったんだ。
アオイは、そう思った。
アオイが生きていると言ってしまえば、なぜ学校に戻ってこないのかと聞かれてしまい、《グラニ》の存在を隠したまま理由をでっち上げるのは難しいからだ。
アオイを引っ叩いた張本人であるエストは、アオイの座る席の反対の席に座り、ぷいとアオイにそっぽをむけている。
「ぉぁ……」
その姿は、アオイの姿に、よく似ていた。
サヤカが自分をどう見ているのか、知ってしまった時のアオイの姿に。自分の居場所が無いことを知って、戦うことが無性に怖くなってしまったアオイの姿に。そして、サヤカが自分を死んだことにした理由に思い至ってもなお、それを口にしたサヤカに何とも言えない感情を抱えているアオイの姿に。
「エスト、もう来てたの……ぁっ」
その時、作戦室の扉が開き、中に入ってきたサヤカとアオイの目が合った。
「サヤカ……。その……えっと……」
アオイは、サヤカに言いたいことがたくさんあった。言い訳をお願いしたことに対する謝罪。サヤカがどうしてわたしを見つけて、一緒にやりたいことがあると言ったのか。「また一緒に戦えてうれしい」という、心からの言葉。
しかし、アオイの口からうまく言葉が出なかった。言いたかった言葉がすべて、石になって喉に詰まってしまったかのように。
「……久しぶり、アオイ」
サヤカは、びっくりするくらいそっけなく、そう言った。
「サヤカ……」
かつてのアステルの地で感じた孤独感と喪失感を、どうやって埋めようかと、アオイはこの一か月、何回も考えていた。
そして、その度に出てきた答えは、「サヤカたちと仲良くなる」というものだった。
自分に足りないものは、人間関係なのだと。
胸の中にある喪失感の理由も、見失ってしまった戦う理由も、自分の隣にいる誰かが教えてくれるはずだと、アオイは信じていた。そう思わなければ、やってられなかった。
「……今回も、よろしくね」
全ては、もう一度サヤカと向き合うところから。
アオイはそう決意して、サヤカにそう言った。




