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じゃがいも髪の不思議ちゃん その3

「力になりに来たよ」

 アオイ・モーントシャインのその言葉に、心の奥の一番弱いところを直接握りつぶされたかのような感覚をトリエラは覚えた。

 心の奥底から、どうしてそんなことが言えるのだろうと思った。

 そして、その言葉をサヤカに言うのは、私のはずだったのにという劣等感も。


 彼女は、なにかを知っている。

 おそらく、3年前にしばらくサヤカと連絡がつかなくなったあの時のことを。

 サヤカが笑ってくれなくなったわけを。きっと。

 そうでなければ、あんな事、言えるはずがない。


 3年ほど前に、しばらくサヤカと連絡が取れなくなった時期がトリエラにはあった。

 しばらくしたら連絡がつく様になって、また一緒に遊ぶ様になったけれど、見てわかるくらいサヤカの笑顔は少なくなった。

 サヤカが笑わなくなってからも時折、連絡がつかなくなった時があった。

 サヤカの父に聞いても、「お使いを頼んだ」としか説明されず、トリエラが心配するのをよそにいつの間にか戻ってきて、まるで何事もなかったかのようにそこにいたのだ。

 サヤカの父は軍の中でも高い地位にいて、常に忙しそうにしていたから、サヤカに手伝ってもらっていたのかもしれないと、当時のトリエラは思っていた。


 そのときに何か壮絶な体験をしたことは、すぐにわかったから、トリエラは彼女の身に何があったかを、無理に聞き出すようなことはしなかった。

 いや、興味がないふりをして、聞こうとしなかっただけなのかもしれない。

 サヤカの抱えた重い何かを、一緒に支える度量が無かっただけかもしれない——そう思っていた。


 そうした日々を過ごして、ある日。サヤカが「軍人になる」と言ったとき。私は、「私も軍人になる」と言った。


 笑わなくなってからも、私にやさしくしてくれるサヤカのそばに、居たかったから。

 その心地よさを失うのは、どうしても避けたかった。


「ごめん、今日の昼は予定があってさ。トリエラ、お願いしていい?」

 サヤカが少し悩んだ顔をして、その言葉を言ったとき、トリエラはとてもうれしかった。

 もしかしたら、目の前のサヤカにはもうばれているかもしれない。

 自分が、サヤカに必要とされていることが何よりうれしいのだということが。


 アオイは数秒間ほどぽかんとあっけにとられたような顔でトリエラの顔を眺め、ゆっくりと頷いた。

「わかった。トリエラさん、よろしく……」

「よろしく、アオイさん」

 ほんの少しの動揺を悟らせないために、冗談めかして何時もの言葉を口にする。

「今度、一食おごりなよ、サヤカ」



「……」

「……」

 予想だにしない客人の登場から、早4時間。

 昼休みにはスピーカー呼ばわりされてしまうほどのトリエラ・リーリエの口は、普段ではあり得ない沈黙によってものの見事に動きを止めていた。


 気まずい。

 何を言っても生返事ばっかりで、会話が続く気配がない。

 そもそも彼女は誰なのか?

 軍学校の二年次から転入なんて、軍関係者しかできないものであるし、軍人であることは確かなのであるが、小柄な彼女が軍という環境に身を置いている姿を想像できなかった。

 それに、軍から来た人はほとんど20代であり、私達のような普通校から進学して来た生徒と同じくらいの年頃なのも不思議な話である。


 気まずい空気から逃げるように、速足であの場所に向かう。

 その場所は、重苦しい雰囲気の扉の先にあった。

 その扉は実習用の銃や兵器の類と同じタイプの扉であったが、それらよりはるかに重苦しい異様な雰囲気を纏っているのはおそらく、その先にある存在の放っている雰囲気が伝染したものだ。


 油はちゃんと差してあるはずなのに、やけに重く感じるノブを回し、扉を開くとそこには、何度見ても圧倒されてしまう景色が広がっていた。

 格納庫ドックと呼ばれる部屋は、まるでとても大きな教会のような空間で構成されていた。

 床から天井までは4階建ての建物くらいの高さがあり部屋の中央では整備の先生と整備課の生徒がせわしなく動き回っている。


 そして、部屋の両脇の壁に立てかけられるようにして、それはあった。


 身長10メートルの薄灰色の巨人だ。

 すらりとした細い手足と、シャープな胴体。緑色のバイザーに覆われた奥行きのある頭部。

 兵装を取り付けるパイロンが腰と肩、背部に取り付けられている。


 それは、ティターン・ドールと呼ばれる、この大陸最強の兵器だ。RG2-63(プフェーアト)、正確には訓練用のRG2-63-t(フォーレン)と呼ばれるそれが、壁を埋め尽くさんばかりに並んでいる。


訓練用の仔馬さん(フォーレン)……。実機を見るのは初めて」

 ようやく、彼女は自主的に口に開いた。

 目を輝かせているアオイは、『もしかしたら、年齢を偽っているのかも……?』と思わせるくらいの幼さを感じた。


 アオイの新鮮な反応を見て、トリエラも思い出していた。初めて見たとき、自分も声を出したものだと。

 好きだった御伽噺おとぎばなしの中の巨人の騎士が、まるで目の前にあるような気がしたのだ。

 巨人に出会って、それが人殺しの道具だと知ってもなお、それはトリエラを惹きつけてやまなかったのだ。

 これがあれば、私は、サヤカを守れると、確かにそう思ったのだ。

「綺麗、だよね」

「お父さんがRG2-63(プフェーアト)のテストパイロットでね、よくその話を聞かせてもらったんだ。大好きなおとぎ話にそれを重ねて、いつからか私もティターン・ドールのパイロットになりたいって思ったの。」

 噓ではない。戦時中、父は時折休暇をとって、帰ってきてくれて、沢山の話を聞かせてくれた。

 そしてそれを聞いた当時のトリエラは、TDのパイロットになれば、そんなおとぎ話のようなものが見れるのかと思っていた。


「アオイさんは、どうしてパイロットになりたいと思ったの?」


 その時、いくつもの感情が彼女の元を通り過ぎていった。

 覚悟と強い意志と、そして諦め。

「わ、わたしは……」


「これ以外に生きる方法を知らないから……」

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