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じゃがいも髪の不思議ちゃん その2

「あ、アオイ・モーントシャインで、です。じゅうよ、16歳です。こっ、これから、よろしく、お願いします……」


 言葉を覚えたばかりの赤子のような声を上げた後、アオイは凍りついてしまった。

 ——なんて話せばいいのか分からない!

 幼い頃から様々な戦場を渡り歩いてきたアオイ・モーントシャインではあるが、学校という場所に身を置いた事はなかったのだ。

 生来人見知りの気があるアオイにとって、数十人の視線と意識を集められることは、銃口を向けられるのに等しいプレッシャーを感じるのだ。


「えっと、誰か、質問ある?」

 凍りついてしまったアオイの惨状に耐えかねた教官が、周囲に聞いた。

「アオイさんはどこから来たの~?」

 陽気そうな女生徒が、値踏みをするようにアオイに聞いた。

「えっと、その、あっ、バルトで生まれて、カーンから来ました」

 しどろもどろになりながらもその問いに馬鹿正直にアオイは答えた。

 答えた直後、アオイの背中に冷たいものが走った。

 バルトは、モリニアの南にある港湾都市で、剣の時代の街並みが強く残っている観光地として有名な街だ。それに対して、カーンは戦時中は最前線にもなったことのあるモリニア東部の要塞都市で、バルトからは200キロほど離れている。『サイレン』の拠点があるのもそこだった。


 焦っていたとはいえ、自分の拠点の位置を吐いたのは、大きな失態だとアオイは思った。 

 しかし、周囲は青くなっているアオイの心配をよそに、楽しそうに次の質問を考えていた。

 

「どこ出身とかどうでもいいけど、足手まといにだけはならないでね」

 吐き捨てるように飛び出した言葉によって、凍りついていたアオイの意識は急速に解凍された。

 発言したのは、教室の端、廊下側の最前列に座る少女。

 エスト・オルヒデーエ。

 マシンガンと同じくらいの速度で悪口を……そう取られてもおかしくない発言をまくしたてることで有名な人だった。


「まぁ、すとちゃんがそんなこと言える立場なんですか?いつも模擬戦で先に墜とされてるのに」

 エストをそう諫めたのは、エストの隣に座るフーシャ・マイグレックヒェンだ。

 エストと普段から一緒にいて、よく口喧嘩をしているエストを諫めている。

 問題は、その諌め方が、火に油を注いで大炎上させるやり方である事だ。


「別に、私の実力は今関係ないでしょ!!」

「あら、それは『自分のことを棚に上げる』と言うんですよ?」

「なんですって!!」

 ……また始まった。と周囲から聞こえた。

 普段から口喧嘩ばかりのエストを諫めているフーシャだが、フーシャもその諫め方が少々アレなのでどうして2人はいつも一緒にいるのだろうかと思うほどよくケンカをしている。大体エストが負けるのだが。


「あ、あのっ!!」

 勃発しかけたエストとフーシャの喧嘩を止めたのは、途中まで完全に凍り付いていたアオイであった。

「わ、わたしは……足手まといになんか、ならない……!」

 身体は縮こまっているし、両手はぎゅっとスカートを握りしめ、しわが増えている。

 しかし、その眼には確かに「足手まといになどなるものか」という意思が確かにあった。


「ふ、ふぅん。じゃあ、失望させないでよね」

 アオイの強い視線に圧されたエストはこの場は不利と感じたらしく、引き下がったようだ。


「はぁ……まぁ、いいわ。これを渡しておきます。サヤカさん、昼休みにでも格納庫に連れて行ってあげてください」

 教師から手渡された物は所謂USBメモリに似た、手のひらサイズの機械だ。

 しかし、アオイたちにとって重要なのはそこではなかった。


「「えっ」」

 サヤカとアオイのふたりの声が重なる。

 そこでようやく、ふたりの目が合った。

「あっ……サヤカ。ひ、久しぶり」

「……久しぶりだね、アオイ」


 お互いにすぐに反応することが、できなかった。

 サヤカとアオイの間に気まずい沈黙が流れ、アオイの握りこんだ手には汗がにじんでいる。

 あの2人は、どんな関係?

 周囲がそう囃し立て始めた。

 アオイは、しまった。と青くなった。


 サヤカは、男女問わず、たくさんの人に囲まれていた。それはサヤカの持つ、他人を惹きつける性格と、軍高官の娘という2つの原因があった。

 実際、初めて会った時。アオイ自身も彼女に引き込まれるような感覚を味わったのだ。


 3年前に初めて会ってから半年経って、それを自覚した時から、サヤカに対する引け目が生まれて、アオイはなんとなく距離を取っていた。

 なぜ自分を『サイレン』に推薦したのか、分からなかったからだ。

 正直、彼女がアステル・アカデミーに行く事を聞いた時、ほっとしていた。


 今回の作戦でも、アオイはサヤカとそう長く接触する気が無かった。ウッズマン大佐がサヤカに連絡を入れてくれるという好意に甘えていたのだ。

 そうする意味は全くなく、自分にサヤカの内面に踏み込む覚悟がなかっただけなのだが。


 アオイの意識はサヤカの目から離れない。誰もを引き込むのに、誰にも真意を悟らせまいとする、意志の光。

「サヤカ、あの子、知り合い?」

 サヤカの隣に座る薄桃色の少女が、サヤカにそう聞いているのが聞こえた。


 広がっていく気持ち悪さが喉の水分を奪い、視界が少しずつ暗く染まっていく。

 周囲からの視線が、刺すように痛い。


「……サ、ヤカ」

 サヤカが答えるより先に、アオイが動いた。


「わたしは、サヤカの味方。サヤカの力になりに来たよ」

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