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蒼き月は舞い降りた その3

「一体、何が……?」

 モニターに表示された「Liberation」の表示を眺めながら、アオイは呟いた。回避も迎撃も不可能なはずの攻撃を2回防いだ後、すぐに表れたのだ。気にならない人間がいるだろうか?

 グラニの各部から、ばしゅ、ばしゅんという何かの音――コックピットのハッチが開くときの音に似た音がした。

 いったいどこが開いたというのか。もしかしたら、どこかに不具合が発生したのではないか――。

 そう考えたアオイの聴覚に、鋭い展開音が届いた。


『リベレーション、発動』

 機体の放熱板が展開したのだ――。そう認識したアオイの中に、声が響いた。サヤカの声ではない。優しい、心の奥底を抱きしめてくれるような女の人の声だった。おそらく、機体テスト用の音声ガイドか何かだろう。

「リベレーション?何のこと?説明を……」

 アオイは音声ガイドにそう聞いた。

 しかし、音声ガイドはもう、何も言ってはくれなかった。


 ギエレンの機体が迫る。考えている暇はない。アオイは剣を構えた。

 地面を滑るように飛び込んできたギエレンの剣と、右上から振り下ろしたアオイの剣の軌道が交錯した。夜闇を打ち払わんがばかりの火花が弾け、アオイの剣が上空に弾かれる。しかし、先ほどより動きの出だしが速いし、ギエレンの剣もしっかり弾かれている。

 アオイは咄嗟に最初の剣戟と同じモーションパターンで剣を振ったのだ。その時はこちらの剣だけが弾かれたのに、なぜ?

 これが、「リベレーション」とやらの力なのか。

 ギエレンの剣が再び振り下ろされる、アオイはそれを剣で受ける。それを何度も繰り返し、夜闇に散った火花が、2人の間に小さな星空を形成する。


 アオイはその星空を視界の端に収めながら、8年をそろそろ超えようとしているパイロット経験の中で、一度も感じたことのない感覚を味わっていた。言葉にするなら、自分と機体と剣が、完全に一体になったかのような感覚。本来必要な敵の攻撃を見て、最適なモーションパターンを選択するというプロセスをすべてすっ飛ばし、ただただ本能と反射と思考が伝えるように剣を振ると、相手の剣が弾かれていく。思考はチリチリと心地よい熱を上げ、自分と敵以外のすべてが視界から白く消えていく。

 剣戟が10回を超えたころには、アオイの視界はギエレンの白い機体以外は何も映っていなかった。アオイの視界が狭まるたびに互いの振るう剣はスピードを上げ、互いの機体の装甲を掠めるが、どちらも決定打には成り得ない。


 その真っ白な世界を打ち破ったのは、何者かが放ったアサルト・ライフルの弾丸だった。

 互いの剣が弾かれ、10分の1秒にも満たない呼吸を挟もうと距離をとった瞬間、ギエレンをアサルト・ライフルの弾丸が襲ったのだ。おそらくアオイと同じ状態になっていたのであろうギエレンは反応が遅れ、何発かの弾丸が白い装甲を穿つ。

 ギエレンは左掌を乱入者――トリエラに向けた。魔剣の権能が発揮され、現れた薄膜が弾丸を空しく空中で四散させる。


『今だッ!!』

 脳裏に響いたサヤカの声に押されて、アオイの機体は地面を蹴った。展開された放熱板の放つ青白い光が機体の全身を包み、20メートル近い距離をギエレンが目を放した一瞬のうちに駆ける。

「行……けェ――ッ!!」

 スピードに乗った機体が剣を横に振り、切っ先が先ほどの銃撃で穿たれた脇腹の白い装甲を捉える。内装部がスパークを起こした。


 アオイは左足一本で着地し、速度を使って急旋回。とどめを刺すために加速した。弾切れになったアサルト・ライフルを捨てたトリエラもそれに続く。

 先ほどのスパークが悪さをしたのか、ギエレンの機体は火を噴いている。右腕一本で振り上げられた片刃の剣は、炎と彼の怒りを映して赤々と輝いていた。


『お……おおおぉッ!!』

 ギエレンの咆哮と共に、クリムゾンレッドの軌跡を残して振り下ろされた剣が、アオイの機体が振り上げた青い光を纏った剣と激突し、高く跳ね上げられた。

 がら空きになった胴体に、トリエラの最後の武器、ベイル先端のブレードを叩き付け、ギエレンはそれを左腕と一体化した魔剣で受ける。魔剣が生み出した力場がトリエラのブレードの切っ先と1秒ほど拮抗し、消えた。

 エネルギー源を失い、権能を失った左腕をトリエラのベイルが打ち砕く。しかし、それでも、ギエレンの機体は止まらない。跳ね上げられたギエレンの剣が、命そのものを燃料にしているかのように、一層明るく輝いた。

 だが、アオイの剣も止まらない。振り上げた剣の勢いをそのまま使って、機体を空中で一回転、左上に構えられた剣が機体の放つ青の光と、ギエレンの機体の炎の輝き、そして、空に浮かぶ月光を反射し、鮮やかな紫の光を放つ。


 アオイは、機体が回転することで生み出された慣性と剣の質量を全て載せた一撃をギエレンの機体に叩きつけた。

 月色の刃によって、TDの身体を構成する鋼鉄の装甲はいとも容易く打ち砕かれ、胴体を断ち割り、そのまま左肘を断ち切りながら抜けた。

 直後、ギエレンの機体の炎がシュヴァルベ・ユニットのジェットエンジンの燃料に引火、アステル市街を炎に包んだ白い悪魔は、燃え盛った火の中に消えた。

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