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蒼き月は舞い降りた その2

『あれが、魔剣……?』

 トリエラはうめいた。

 目の前でまるで理解できない現象が発生したからだ。

 空中に突如現れた青白い半透明の力場でアオイの突き出した剣が止まって、アオイがその剣を引いてすぐ、張り手をするように白いTDの張り手をした。一体何をしているのかと考えた瞬間、アオイのTDは何かに殴りつけられたかのように吹き飛んでいた。


『…………ッ』

 サヤカの声が、トリエラの思考の中で響いた。声と共に届いたサヤカの思考が、白いTDの左腕が、本当に魔剣であることを伝えていた。

『……サヤカ。私にできることはない?』

『……できること?えっと……ッ‼︎』


 思考の中で響くサヤカの声が、突然途切れた。白いTDが右手で持った片刃の剣が白い軌跡を描きながら、アオイの黒いTDのコックピットブロックに迫っていたのだ。

『なんとかしないと……!』

 あれをどうにかしないと、コックピットを潰されて、アオイは確実に死ぬ。

 アオイの黒いTDは体制を崩しており、先ほどの戦闘で見せたような迎撃や回避は不可能だ。

 しかし、トリエラの位置からでは、アフターバーナーを全開にしたところで、間に合わないのも事実。


『大丈夫、アオイなら。アオイ・モーントシャインなら……』

『どういう事?』

『説明してる暇はないわ。私が指示したら、ライフルを撃ちながら突っ込んで。弾を残す必要はないから』

 サヤカが何を言っているのか分からなかった。どうして大丈夫なのかも、アオイが迎撃も回避も不可能な筈の攻撃を避けることを前提に作戦を組み立てているのかも。


 しかし、すぐに、トリエラは唖然とすることになった。

 アオイの機体は、体制を崩したまま、敵の剣を防いだのだ。


————


 ギエレンは、自分の目を疑った。

 自分の剣尖に、本来あるべきもの——黒いTDよコックピットが無かったからだ。

 そして、自分の剣の刃の中央部分に添えられた黒鉄色の刀身が、剣の軌道を逸らしたのだということに気づいた。

 一体どうやって?あの体勢から、あの軌道で迫り来る刀身を防ぐモーションパターンは存在しない筈だ。それも、わずかに軌道を逸らすだけに威力を留めるなど、互いの体勢が完璧でもそう簡単にできることではない。


 しかし、追放されたと言ってもギエレンは熟練の兵士である。予想外の事態に対する反応は、下手すればそれを引き起こしたアオイ以上に早かった。

 左手を握り、魔剣が生み出す力場を纏わせる。生み出されたものは、半透明の打撃部を持ったハンマーだ。それを黒いTDに向かって振り下ろした。


 周囲の大気すら震えるほどの衝撃。

 硬い金属を力一杯殴りつけた時の感覚。

 しかし、今度も。ギエレンの視界には望んだ結果とは違う光景が広がっていた。

 剣を振り抜いた体勢のまま佇む、黒いTD。

 その光景が意味するものとは、《《本来回避不能な筈の攻撃を2度にわたり完全に防ぎ切った》》という純然たる事実だ。


「不発……?違うな。どういうことだ?」

 ギエレンは剣を振り抜いた体勢から立て直しつつあるアオイのTDから少し距離を置き、思考を走らせた。


 エネルギー切れ?違う。先ほどたっぷりエネルギーを補充したばかりだ。レールガン2発分をさっ引いても、魔剣の消費量は十分賄える筈だ。実際、コックピットのエネルギー残量を示すメーターも、後1回は使える程度の量が残っている。


 体制を崩した状態でも使える新たなモーションパターンの実装?有り得ない!人間でも体制を崩した状態で攻撃を防ぐのには苦労するのだ。人間よりも遥かに大きく、重いTDでその動きを再現するには、機体の重心制御だけでどれだけの計算が必要になるのか想像もつかない。


「……ン?あれは、まさか……」

 3つ目の仮説がギエレンの脳裏に浮かぶと同時に、その答えが目の前に現れたのだ。

 同時に、ギエレンは自分の左腕に視線が向いた。義腕が外され、筒形の機械に接続された、己の左腕に。

 

 ——そうか、向こうも第3世代機か。

 その可能性をギエレンが考えていなかったわけではない。そもそもギエレンが今乗っている《ローシァチ》はモリニアが開発した機体、《スレイプニル》と呼ばれた機体が元になっているのだ。モリニアに第3世代機があることも、不思議ではない。


 しかし、あの機体はどうやって機体とパイロットを接続しているのだろうか。ギエレンの機体は操縦系を第2世代機のそれに入れ替えてあるのだが、左腕だけは義腕用のアタッチメントを使って接続してある。しかしそれでも、不意打ちか魔剣を使った咄嗟の防御にしか使えないのだ。剣で魔剣の力場を纏っていない腕の横っ腹を的確に弾くなどといった器用な真似ができるほどの運用データの蓄積が、試作機を首無し旅団に奪われたモリニアにできたとは思えない。


 そこまで考えたギエレンの目の前で、再び目を疑う出来事が起きた。

 アオイの黒いTDの各部が展開し、その中から放熱版のようなものが展開。蒼い月のような光を放ち始めたのである。

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