蒼き月は舞い降りた
真っ二つになったバトル・ライフルの砲身から、剣に込められたエネルギーが風となって放出されるのを感じながら、アオイは自分が観察をし損ねた理由を察した。
ギエレンの剣の鞘として使われていたそれは、レールガンの砲身を流用して作られたものだったのだ。
『……ほう、少しは調子が戻ったようじゃねえか、1時間前のお前じゃ真っ二つにされてたぜ?』
『そっちこそ、お仲間が落とされたってのにやけに上機嫌じゃないか。戦争の時はあんな大騒ぎしてたのに』
『あんなチンピラ共が仲間ぁ?そんな思ったこと……無いねッ!』
ギエレンが吠え、片刃の剣が恐ろしい速度で地面スレスレの高度を駆け抜け、アオイの黒いTDに向かって切り上げられる。回避は……間に合いそうにない。
アオイは反射的に背中の鞘に吊られた剣を抜き、その勢いのままに振り下ろした。2本の剣が激突し、アオイのTDが持った剣だけが軽く上空に弾き飛ばされる。
ギエレンの持った金属板から削り出したかのような片刃の剣は薄く、それ相応に軽いはずなのに、上から重力の助けすら借りて振り下ろされたアオイの直剣を軽く弾き飛ばせたのは、単純にギエレンの技量が桁違いだからだ。
頭上に振り上げられたギエレンの剣が微かな光を反射して鈍く輝き、アオイに向かって振り下ろされる。
シュヴァルベ・ユニットを強引に吹かし、身体がシートに押し付けられる不快な感覚に耐えながら、機体をぐるりと大きく回転させた。コックピットブロックの近くを剣が通り抜け、戦闘中にピンチになった時特有の鉄の匂いに似た幻覚を感じながら、ギエレンの機体から5メートルほど距離を放し、着地する。
振り下ろした剣を上段に構えたギエレンは、着地したアオイに即座に距離を詰め、目にも捉えきれないほどの連続攻撃を開始する。
アオイはそれを的確に剣で弾き返していくが、あの剣のどこにこんな重さが?と思わずにはいられないほどの重さを持った鋭い連撃は、止まらずに即座に次の一撃を放ってくる。
剣を防いでも、攻撃に移ることができずに、じわじわと押し込まれていく。
ギエレンの攻勢を支えているのは、5年という時間の重さだった。
おそらく、ギエレンは軍から離れてもずっと剣の腕を磨き続けてきたのだろう。それは自分を追放した軍への復讐だったのかもしれないし、只々彼がストイックな人間性を持っていただけなのかもしれない。彼の意図はともかく、ひたすらに積み重ねた時間は細い刀身に宿り、剣の重さを増し、技のキレを鋭くし続けたのだ。
――自分はどうだろう。
アオイは、そう思った。5年前の終戦から3年前までにぽっかりと空いた穴と、それに引きずられたままの3年間。それに対して、ただひたすらに剣の修練をし続けたギエレン。5年間という言葉の持つ密度と、それが剣に与える重さの差など、比べるまでもなく明らかだ。
自分が対峙する事自体が相手への不敬になるのではないかという思考が脳裏をよぎった。
しかし、それでも。
剣の重さだけが、勝敗を決める条件では無い。
それに、剣に乗せなければならないものは、こちらにもある。
失った時間を取り戻すためにはまず、トリエラとサヤカを窮地から救い出さなければならないのだ。自分の為にも、トリエラとサヤカの為にも、立ち塞がる敵は倒す。
今剣に乗せるべきものは、それだけだ。
「い……行けぇッ‼︎」
アオイは咆哮と共に、手にした剣を機体の馬力をフルに使って振り下ろした。ギエレンが振り上げた片刃の剣と正面衝突し、互いに弾かれる。しかし、先ほどとは違いアオイの剣は低く、次の防御にも反撃にもすぐに移れる位置にあった。
剣が弾かれた衝撃をシュヴァルべ・ユニットのジェット噴射で相殺し、右手に持った剣に捻りを入れながら突き出す。狙いは胸部のコックピットブロック——。
突き出された剣が、青白い半透明の薄膜に阻まれ、空中で動きを止めた。薄膜の発生源はギエレンの機体の左腕——魔剣の力だ。
無理に押し込もうとすれば、手痛い反撃を受けてしまう。アオイは剣を引きながら、大きな歯痒さを感じていた。
あの魔剣を一回使われただけで、こちらの攻めが強制的に中断させられてしまうのだ。やはり、手数が足りない。
しかし、距離を離すわけにはいかなかった。大きく距離をとってしまうと、レールガンの餌食になってしまうからだ。剣を構え、ギエレンの剣の攻撃に備える。
ギエレンは剣ではなく、開いたままの左掌をまるで張り手をするように押し出した。
張り手に一拍遅れて、猛烈な衝撃がアオイとグラニを襲った。おそらく、魔剣によって発生した防御用の力場で、そのまま殴りつけたのだ。
半透明の力場に殴りつけられて、たたらを踏んだグラニに、ギエレンの持つ剣が迫る。
この体制で剣を迎撃できるモーションは無い。回避も不可能。
しかし、アオイどうにか迫り来る致死の威力を持つ刃を躱そうと機体を操作し続けた。
「……ごけっ、動けぇぇぇッ!!」




