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神馬と軍馬 その2

 黒鉄色に鈍く輝く剣尖が夜闇を駆けるたびに、金属を打ち合わせる音と共に火花が散って、それはトリエラのオーバーヒートしかけた思考を少しずつ落ち着かせていった。


 ——強い。

 初めてアオイの戦闘を間近で見る余裕ができて、確かにそう思った。

 いや、強いの一言では片付けられないほどの何かが、確かにそこにはあった。

 敵の戦術は先ほどトリエラに対して行ったものと同じだ。

 その戦術に対する対処自体も、トリエラと似たようなものだ。違う部分は、攻撃を防ぐのに使っているのがベイルから剣に変わっていることくらいだ。


 アオイは剣を振るい、もはや美しさすら感じるほどに見事に相手の攻撃を捌き続けた。

 一切の無駄なく、ただひたすらに敵を倒すことだけに特化したその技は、戦闘に参加していないトリエラでも目で追いきれないほどの速さと、重々しいメイスを容易く頭上まで弾き飛ばすのに足りるほどの重さを持っていた。


 どこまでも無駄を削ぎ落としたからこその技の切れと、それによって与えられる自信。

 自信は選択を早くして、選択の速さは余裕を生む。余裕が生まれれば反撃に出ることができて、反撃が決まれば精神的なアドバンテージを得ることができる。

 技を鍛え上げることの意味は、実践に物怖じしないためにあるのだという、TD教習の教官に何度も言われ、正直どうもピンときていなかったことを、トリエラはその剣戟の中で本当の意味で理解していた。


 同じペースで交代しながら繰り返される敵の攻撃に対して、対処法をトリエラに見せるように3セットほど防いでから、アオイは動いた。

 振り下ろされた鉄板のような対装甲ナイフを造作もなく弾き飛ばしたあと、左手を右脇のウェポンベイに手を伸ばしたのだ。


 左手でウェポンベイから引き抜いたのは、機体と同じ闇色の対装甲ナイフだ。薄い刀身を持つそれを、機体のモーション・パターンに従ってアオイと敵の間に割り込もうとした敵機に投げた。

 RG2-63-t(フォーレン)が同じことをした時よりずっと早く夜闇を切って飛翔した対装甲ナイフは、容易くG-55(パトソールニチニク)の右の膝関節を打ち砕いた。


 一瞬で右膝から下を失い、バランスを崩してつんのめるG-55(パトソールニチニク)に、驚異的なまでの跳躍力を使って飛び込み、コックピットブロックを剣の一突きで吹き飛ばす。

 トリエラにとって最も衝撃的だった瞬間は、最初に対装甲ナイフを弾いた敵機が2機目のTDのコックピットが吹き飛ばされてもなお仰け反ったままで、一連の戦闘が一瞬でケリが付いていたことに気づいた時だった。


 特性も性能も、RG2-63-t(フォーレン)とは大きく変わっているはずなのに、それを一切感じさせないほどの機動。文字通りの人機一体。


 彼女が行ったそれが本当のTD戦だというのなら、自分が今までやってきたのはただの紛い物ではないのか——?

 ついそう思ってしまうほどの、圧倒的な力量差。人生の半分を、TD(兵器)と共に過ごしてきた人間の力。

 それが、トリエラの目の前にあった。


『……トリエラ、大丈夫?』

 サヤカの声が聞こえた。プロトタイプのペパーティア・システムの持つ、精神接続によってトリエラの思考に直接届けられたサヤカの声だ。

 サヤカに大丈夫だと言おうとして、うまく言葉が出ないことに気づいた。精神接続を使っても、上手くサヤカに言葉を伝えることができなかった。

 いつの間にか、体が震えていた。


 あの力が欲しい。

 トリエラは、痛切なまでにそう願った。

 単独戦闘に怯える自分にサヤカが見せた、サヤカの闇。それに飛び込んで、サヤカと同じ場所に立つには、あれ程までの力が必要なのだ。


 夜に駆ける夜鷹のように、彷徨える英霊を導いた神馬のように、赤く燃えながらも突き進む、一筋の流星のように——。


 剣をガウス(電磁式)バトル・ライフルに持ち替えて、後退りする3機に向かって跳躍する夜闇色の機体を見送りながら、確かにそう思った。

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