神馬の名の下に
「グラニ……?第3世代TD……?」
トリエラは、目の前の親友の言葉が信じられなかった。
親友の知らない一面が、こんな。
サヤカの父親は軍の高官であるわけだし、あり得る話なのかもしれない。しかし、否定したかった。そうでなければ、本当にひとりぼっちになってしまうのではないかという不安があった。
「いつから……?いつからこれに関わってたの?」
「3年前。グラニの開発はもっと前だけどね」
3年前。
サヤカがアオイと出会ったころ。
サヤカが、笑ってくれなくなったころ。
トリエラにはなくて、サヤカにある。はっきりとした、絶対的な違い。積み重ねてきたもの違いが、そこにはあった。
積み重ねてきたものの重さが、自分は役立たずであると、告げている気がした。
「誰が……乗るの?」
トリエラは結果なんてわかりきっている質問をサヤカに投げた。
それを聞いたサヤカの目の色が変わったのを見て、トリエラの背中に冷たいものが走った。
「乗るのは勿論、アオイよ」
「私じゃ、ダメなの……?」
「当たり前でしょう?貴方はまだ訓練生で、アオイは正規兵なのよ」
「わかってるけど……」
トリエラの心には、恐怖は無かった。サヤカに見捨てられてしまうのではないかという不安が、体を支配していた。
「……アオイも、これを知ってるの?」
「知らないよ、これの話をしたのは、トリエラが初めて」
「アオイが来るって、信じてるの?」
「当たり前よ。トリエラがここに来れたのも、アオイの導きでしょう?」
サヤカのその言葉に、トリエラは心臓が音を立てるのを感じた。
——わかってる。わかってるよ、そんなこと。
私1人ではここに来ることも、サヤカの居場所を知ることも出来なかった。
全て、アオイの高い実力とアリシア達の手助けのおかげなのだ。
足手纏いになるかもしれないと、ずっと思っていた。それでもアオイについてきたのは、サヤカの……友達の力になりたかったからだ。
そうサヤカに伝えようと口を開こうとした時、トリエラの目の前、サヤカの背後に人影が現れた。
その人影は、拳銃を持っていた。トリエラとサヤカのものと同じ制服は、何ヶ所か裂け、血が滲んでいる。
「……ごめん、待たせた」
そこに居たのは、アオイだった。
サヤカは無造作にアオイに振り向いた。
まるで、トリエラなどもういないかのように。
「機体は?」
「……やられた。知らない機体だったから、トリエラを先行させてわたしだけでなんとかしようと思ったんだけどね。まさか魔剣持ちとは……」
「相手が魔剣使いなら、なおさらこれを使う必要がありそうね」
サヤカはある種の意思のこもった視線でグラニを見ていた。
しかし、トリエラにはその光景はあまりにも苦しいものであった。
2人の言葉を、聞きたくは無かった。
耳を塞ごうとも、思った。
しかし、アオイのその言葉が引っかかって、トリエラは無意識のうちに2人に疑問を投げかけていた。
「……魔剣?」
トリエラにとって魔剣とは、時明休暇をとって帰ってきてくれた父が語る御伽話だけの存在であった。
魔剣が実在するなんて思ってもいなかったのだ。それが本当に実在し、尚且つ敵の手にあると、アオイは言ったのだ。
「本当に、魔剣なんてものが実在するの……?」
「実在するから、わたしがここにいるんだよ」
魔剣があるから、アオイがここにいる?どういう意味だろう?
トリエラにそんな疑問が浮かんだ。
しかし、トリエラがそれを言葉にする前に、サヤカが補足を入れた。
「魔剣……大陸統一戦争の半ばごろから姿を現した、科学では説明のつかない現象を引き起こす兵器のことよ。どこで作られたのか、誰がそれを広めているのかもわからない。確かなのは、戦争中にそれは確かに戦場にあって、数多の英雄がそれの力によって生まれたというだけ」
サヤカの説明を聞いたトリエラは別な質問を投げた。
「じゃあ、そんなものを使ってくる相手に、どうやって勝つの……?」
トリエラはグラニの背中に取り付けられた可動式アタッチメントを見た。
取り付けられていたものは、長剣型の対装甲ナイフである。とても科学では説明のつかない現象を引き起こす超兵器に対抗できるとは思えない。
「トリエラ……貴方の目の前にいるのは、ただのパイロットじゃないわ」
「少年兵からパイロットになって、2年でTD撃破数92機、戦車257台、その他対地目標撃破約270台……」
「蒼月と呼ばれた魔剣を操り、幼い頃からただひたすらにその手を血に染めてきた英雄《魔剣使い》が、ここにいるアオイ・モーントシャインという人間よ」




