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逆転のために その2

 地下道を何度か曲がったアオイの目の前に、3人の兵士が現れた。

 彼らは統一された制服を着ており、珍しい銃――所謂、突撃銃アサルト・ライフル――を持っていた。

 見た目はTDのそれをそのまま小さくしたようなものだ。違う点といえば、機関部と弾倉がグリップの前にあるというくらいだ。


 突撃銃アサルト・ライフルはTDの武装としてはありふれたものだが、生身の人間が持つことはほとんど無かった。

 一般的なライフルの弾を全自動で撃つことができるが、その分反動が強く、射程が短いという欠点を持っていた。今いる地下道のような場所では反動の弱い拳銃弾を用いる短機関銃サブマシンガンがメインウェポンとして運用されるため、突撃銃アサルト・ライフルが必要とされる戦場は『TDが居ない状況での、300~500メートル範囲の中近距離における室外戦』に限られることになる。


 TDが居ない状況と前置きされているのは、TDが居る状態での300~500メートル範囲で生身で敵と戦おうものなら、TDに轢かれるからだ。

 その結果、TDがいることが一般的な軍対軍の戦場では、連射が利かなくてもTDの巻き添えにならない距離で戦えるボルトアクション・ライフルが評価され、実際に運用されている、というわけだ。


 しかし、テロリストが運用する場合、もしくは対テロリストに運用する場合は話が別だ。TDなしでの戦闘において突撃銃アサルト・ライフルはかなり凶悪な兵器であることは確かなのだ。

 突撃銃アサルト・ライフルを持った3人と直接戦闘なんて出来る限りしたくは無いのだが、彼らを突破しなければ大学には行けそうにない。 

 拳銃弾を温存しておきたいアオイは拳銃を懐にしまい、右袖にしまった短剣と、スカート下に隠した投げナイフを取り出した。


 本来であれば剣で突撃銃を持った相手と戦うなど正気の沙汰どころの話ではなく、極めて自殺に近いものなのである。

 しかし、アオイには勝機があった。

 アオイが各所の鍵を破壊するために拳銃を使った結果、地下道の各所に銃声がこだましていたのだ。その結果、敵は音でアオイの場所を判別できず、アオイは至近距離まで接近することができた。


 アオイは投げナイフの刃を中指と人差し指で挟んで、ゆっくりと振り上げていく。

狙いは3人のうちの一人。指を引き金(トリガー)にかけたままにしているド素人――。

 アオイの右手がわずかな金属光沢の残像を残して閃き、簡素な構造の投げナイフが空を駆けた。結果は――命中。思わず軽くガッツポーズをしてしまいそうになるのをこらえて、アオイは2本目と3本目の投げナイフを構えた。


「うわあぁっ!!」

 アオイの投擲した投げナイフが右前腕に突き刺さった兵士の一人が、大きな悲鳴を上げた。それと同時に、けたましい銃声が響く。

 おそらく、刺さった兵士が引き金を引いてしまったのだろう。銃声の中にほかの二人の「やめろ!」という声が聞こえる。

 しかし、そんな声もむなしく銃声にかき消されていった。ただでさえ反動の大きい突撃銃アサルト・ライフルだ。利き手を負傷した状態で制御できるようなものではない。


 耳をつんざくようなそれに耐えながら、バッグから音響手榴弾スタン・グレネードを取り出し、ピンを抜いて投げる。

 まばゆい閃光と、甲高い音が、アオイと3人の兵士以外誰もいない地下道を満たした。

 その輝きを壁に身を寄せながら確認したアオイは、壁から飛び出し2本目と3本目の投げナイフと短剣で目をくらませていた3人を始末し、走り出した。


————


『はぁっ、はぁっ……』

 メインストリートに残ったエストとフーシャは、つい先ほど敵の主力と思われる1個中隊を正規軍と協力しつつ撃破した。

 かなり時間がかかったのは、|シュツゥルム・イエーガー《吶喊猟兵戦術》の後、補給地点を失った敵が、乱戦を仕掛けてきたからだ。

 威力は高いが取り回しが極めて悪い狙撃用ライフルを持つフーシャも、所謂いわゆる軽機関銃に似た支援火器を持つエストも、乱戦は不得手であり、両者とも得意分野を封じられていたのだ。


『アリシアさん、下級生の皆さんは……?』

 フーシャはエストが生きていることに安堵しつつも、アリシアにそう聞いた。

 何度か通信から悲鳴や助けを求める声が聞こえたが、途中で聴くのが怖くなって、回線をエストとペパーティア・システムからのもの以外切ってしまったのだ。


『下級生は……TD班が2名、歩兵隊が5名……戦死しましたわ』

 フーシャは機体のスイッチを操作して、周辺の地図をモニターに表示させた。アリシアがペパーティア・システムを使って送ってくれた情報から、周囲のモリニア軍所属機を光点として表示する。


 どうやら、前衛を張ってくれた正規軍にもかなりの被害が出ているようだ。

『正規軍側も2機……アリシア、どうする?』

『そんなもの最初から決まっていますわ、歩兵隊の支援に……』


 アリシアの声が止まった。

 前線近くまで上がってきたペパーティア・システム搭載型指揮車両に搭載された高性能音響センサーが何かを捉えたのだろう。

『どうしたの、アリシア?指示をくれないと私たちも動けないんだけど』

『……ぅぁ……?』


 アリシアから普段のアオイのような声が漏れた。

 余裕のなさそうなアリシアに声をかけるべく、エストが口を開こうとした時、エストとフーシャの2人の耳に音が響いた。

 何かを引きずっているような音だ。

 ——一度だけ聞いたことのある音だ。確か戦時中、すとちゃんと遊んでいる時に……あれは、確か——

『あっ……ああ……!』

 エストの口から掠れた音が漏れて、フーシャにもその音の正体を察した。


 ——まずい、本当に《《あれ》》なら、すとちゃんと交戦させるわけにはいかない……!

『飛びなさい!今すぐ後ろに!!全力で後ろに——!』

 フーシャの思考を遮るように、アリシアが力の限り叫んだ。直後、

 前衛を張っていた2機の正規軍機が吹き飛んだ。


『陸上戦艦……!?あんなものまで持ち出してくるなんて——!』

 アリシアの驚愕の声が聞こえた。

 フーシャとエスト達の目の前に現れたのは、小さな山のような車体に多数の砲を搭載した、陸上戦艦であった。

 かつて、フーシャとエストの故郷を轢き潰した兵器。そして、エストの母親をエストの目の前で轢き殺した兵器。


 アリシア達に残された戦力は先ほどの先頭で消耗した1個小隊のみ。

 アステル市街の戦闘は、佳境に入りつつあった。

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