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幕間

「やってくれるじゃねえか、くそっ」

 ギエレンは行動不能となり、擱座したTDから下りて、外から機体の様子を確認した。

 各部の装甲板は抉れ、右肩に至っては装甲が完全に外れてしまい、中の部品が露出してしまっている。

 機体の内部から溢れたオイルに塗れ、動かなくなってしまった白いTD——〈ローシァチ〉は、いわゆるエネルギー切れの状態であった。


 戦時中に現れ、数多の逸話を残した人智を超えた兵器、『魔剣』。

 多様な形を持ったそれらには、ある一つの大きな特徴があった。

 それは、既存の物理法則を大きく逸脱した『権能』と呼ばれる力を行使できるということだ。ギエレンが先程使用したものであれば、左掌を中心とした力場の発生。かつてアオイが使ったそれは、力場を撃ち出すものだ。

 一体、どんなエネルギーをどう出力すればそんなことができるのかはギエレンには分からなかったが、「そういうもの」なのだと彼は自分を納得させていた。


 実際に使うことができて、効果があるのであれば、それがどこの誰の作ったものでも、どうでもいいと思っていた。

 実際、戦争なんてそんなものだ。戦闘中に自分の使っている兵器がどう動いているか気にする奴はそうはいない。

 ——兵器など動けばいいのだ。

 心の奥底からそう思っていた。機体がエネルギー切れで擱座するまでは。


 全てのものに得意不得意があるように、『魔剣』にも欠点がある。

 それは、とんでもない量のエネルギーを消費することだ。どんな魔剣にも共通する欠点である。

 ギエレンは先ほどの戦闘で4回使用し、そのたった4回でローシァチの他の機体よりも多いはずのコンデンサ容量を食い尽くしたのだ。


 本来は最初の1回で勝負を決めるつもりで最初から準備していたギエレンには、3回も多く使わされたことと、エネルギー切れを起こしてアオイを追撃できなかったことは久々の屈辱であった。

「アオイのやつ、腕だけは鈍ってねえじゃねえか。くそっ」


 だが、完全に負けたわけでは無い。

 アオイほどのパイロットが主戦場から離れた位置に居たこと、交戦前にアオイが僚機を先行させて大学に行かせたこと。

 それはギエレンの推測を確信に変えるのに必要十分な情報を与えていた。


「ギエレンさん!」

 聞こえてきた声に振り返ると、後方で待機していたTD隊が、補給部隊を連れていた。

 例のチンピラ上がりに、ギエレンは声をかける。


「おう、無事だったか」

「無事だったかって、ギエレンさんが1番やられてるじゃ無いっすか」

 チンピラ上がりは、G-55(パトソールニチニク)のカメラをギエレンに向け、笑った。

「タダではやられてねえよ、強え方は潰してやったし、雑魚は大学の方に行った。あとはお前らだけでもやれるはずだ」

「うっす、ヤってきますわ」


 チンピラ上がりが率いる6機のTD隊は大学に向けて、ゆっくりと行進を始めた。

 奴らの腕では6機がかりでもアオイには勝負にもならないだろうが、逃げた相手になら十分以上だ。アオイが脱出した方向から考えても、大学にたどり着くのには1時間はかかる。

 補給部隊の兵士がローシャチの背中のカバーを取り外し、電源車のケーブルを繋ぐと、機体のジェネレータと各部電装品が再起動し、ぐおんぐおんと轟音を鳴らし、機体が息を吹き返していく。


「〈ローシァチ〉の装甲の予備は少ないんですから、ホイホイ壊さないでくださいね」

「おう、すまんな」

「そう言って、聞かないくせに」

 軽口をたたき合いながら、補給部隊の兵士はクレーンを操作しローシァチの装甲板の中から特に損耗がひどい場所を選び、器用に取り外していく。

 そもそも、ローシャチは東側の機体ではないのだ。

 かつての『フィオナ要塞陥落事件』の際にモリニア軍が運用していたのを奪取したものだ。


 2人が軽口が叩けるのは、あくまで装甲板は東側製であるからである。

 内装やフレームは西側製、『魔剣』に至ってはどこで作られたかすらわからない。そんなものを使わなければならないのは、やはり『魔剣』という兵器を少しでも安定して使わなければいけないからだ。

 兵器や人員の数や質に劣る『首無し旅団』側がモリニア軍に勝利するためには、人知を超えた力を持つ『魔剣』を使わなければならず、その『魔剣』を使うために予備機を含めても7機しかないローシャチを実戦で運用しなければならないのだ。


 しかし、『お宝』さえ手に入れてしまえばそんな綱渡りも終わりだ。

 魔剣の安定運用を可能にする技術。第三世代TDを生産するための技術。そして、モリニア軍のみが持つ、人形使いの力。


 クレーンに吊られた、金属塊——全長8メートルの山刀に似た刀身を持つ対装甲ナイフ——を見つめ、ギエレンはほくそ笑んだ。


「……勝負は、ここからだ」

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