裏切り者 その3
『行けぇッ!!』
アオイは地面を蹴り、対装甲ナイフと楯のブレードによる変則二刀流による猛攻を開始した。
右手の対装甲ナイフを振り、左手の楯を突き込む。右、左、右、左、右、また右。
月の光を浴びて輝く2振りの刃が、ギエレンの振るう赤い熱を帯びた刃と交錯するたびに、暗い夜を火花が明るく染める。
ギエレンは右手の熱斬式の対装甲ナイフで変則二刀流の攻撃を捌いている。彼の左腕は義手になっていて、この剣戟の応酬にはついてこれていないようだ。
時折突き出される対装甲ナイフがRG2-63-tの装甲を削り取り、こちらの攻撃が白いTDの装甲を抉る。
『……ぁぁああァッ!!』
雄叫びと共に放ったブレードの一撃が、白いTDの対装甲ナイフの横っ腹に命中した。
――行ける!
アオイの読み通り、ギエレンの対装甲ナイフの刀身は甲高い金属音を上げて割れ、吹き飛んだ。熱斬式の対装甲ナイフは耐久力が低いのだ。
対装甲ナイフが折れた反動でギエレンの右腕は右に振られてしまっている。
アオイは、右腕に握った対装甲ナイフを振り下ろした。
ギエレンは左手で防ごうとした。しかし、
――間に合うものか。
振り下ろした対装甲ナイフの刃が、ギエレンの左腕よりも早く機体のコックピットブロックに吸い込まれていく――
――その時、刃が止まった。
いや、その表現は正確ではない。
対装甲ナイフの刃が、突然動かなくなったのだ。
いくら押し込もうとしても、刃は動かない。
まるで、そこに透明な壁が出現したかのようだった。
いや、本当に壁が出現しているのだろう。対装甲ナイフの刃の近くから、青い光のようなものが見えた。それの発生源は、ギエレンの白い機体。特異な形をした、左の掌だ。
『まさか、魔剣――!?』
『そうさ、もうお前だけのものじゃないってわけだ。鈍ったんじゃねえか?前のお前だったら、もっと注意深かったはずだ。少なくとも、さっきの斬り合いで左腕に何かあることは気づいて、馬鹿正直に突っ込まなかった。なぁ、〈魔剣使い〉サマよぉ?』
いつのまにか対装甲ナイフの刃を受け止めていたギエレンの左手が、ぐっと対装甲ナイフの刃を握りしめる。青い光がひときわ強く瞬き、左手から発生した薄膜によって対装甲ナイフはぐしゃりと潰れた。
『くそぉッ!』
突き出した楯のブレードも、いとも容易く左手から発生した力場に防がれ、再びギエレンが左手を握る。
今度は、左肘から上が潰れた。
『今度はどこから潰してやろうか?脚か?頭か?それとも、一思いに終わらせてやろうか?』
『……いやだ』
『なんだ、死にたくないか?お前、何様のつもりだぁ?お前はその命乞いを何回聞いてきた?そして何回それ言ったやつをぶち殺してきたんだ?』
『……まだ、死ねない』
『……まだッ!!』
アオイは、右手でギエレンに殴り掛かった。
しかし、容易く力場に防がる。
機体のアラートがけたましく鳴り響き、右腕が潰れそうになる。
アオイは、コックピットブロック内のスイッチを操作し、タッチパネルにパスワードを打ち込んだ。
30秒のタイマーが表示され、アラートがさらにけたましく鳴り響いた。
アオイがセットしたタイマーは、自爆までのカウントダウンだ。
あと20秒。
右腕が『魔剣』の生み出す力場によってちぎれ飛んだ。
あと15秒。
残された体をすべて使って体当たりをかました、再び『魔剣』の力場に防がれる。
あと10秒。
頭部と脚部に異常発生。『魔剣』の力場によって少しずつ潰されているのだ。
――この機体くらいくれてやる!
あと5秒。
アオイは、操縦席の両サイドに設置されたレバーを力いっぱい引っ張った。
背中のハッチがはじけ飛んで、そこからコックピットブロックが射出される。
それを見届けたRG2-63-tは、周囲を巻き込んで爆発した。




