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接敵 その3

 ――はてさて、どうしたものか。

 アオイのRG2-63-t(フォーレン)のモニターの中では、トリエラのRG2-63-t(フォーレン)G-20 (アドゥヴァーニ)2機と熾烈な格闘戦を繰り広げていた。

 いつの間にあんな技術を身に着けたのだろうか?

 そう思うくらいに、トリエラの機動は凄かった。的確に攻撃を回避し、敵の頭上を飛び越えるようにして背後を取る。しかし、普通の精神状態ではないためか、トリエラの攻撃は命中こそしているが致命打は与えられていないようだ。


 試しにライフルを向けてみる。狙いは付かない。下手に撃てば、トリエラに当たってしまいそうだ。撃たずにライフルを捨て、アオイのRG2-63-t(フォーレン)は地面を蹴った。

 それと同時に、背部の可動式アタッチメントが左肩まで動き、取り付けてある鞘のロックが外れる。

 自由になった右手が柄を掴み、TD用の大型の対装甲ナイフを抜き、トリエラと離れている方のG-20 (アドゥヴァーニ)に飛びかかり、対装甲ナイフを抜きざまに振り下ろした。

 大ぶりな刀身はG-20 (アドゥヴァーニ)が自分の身を守るために掲げられた左腕を容易く切断する。


 アオイは飛び込んだ勢いを使ってトリエラの背後に飛び込み、擬似的な1対1の状況が生まれる。

 トリエラの精神状態は気がかりだが、しばらくは考えないことにして、正面の左腕を失ったG-20 (アドゥヴァーニ)と対峙する。

 踏み込んだ右足が静寂を破り、重心移動と共にベイルのブレードを突き出した。G-20 (アドゥヴァーニ)は身体をこちらの右側に回して回避しようとする。しかし、G-20 (アドゥヴァーニ)の古臭い姿勢制御システム(バランサー)は予想外のダメージと、苦手分野である急速な二足歩行にもたつき、その隙をついたアオイの蹴りによって体制を崩し、転んだ。

 アオイは転んだG-20 (アドゥヴァーニ)のコックピットをナイフで潰し、トリエラの方に振り向いた。


 トリエラと対峙していたG-20 (アドゥヴァーニ)ベイルのブレードによって膝を砕かれ、地面に倒れ伏していた。

 G-20 (アドゥヴァーニ)の上に馬乗りになったトリエラは、ブレード躊躇なく振り下ろした。質量も慣性も見事に乗った一撃はG-20 (アドゥヴァーニ)の正面装甲をぐしゃりと潰し、先端を鮮血とオイルで染める。


『追っ手が来る前に飛ぶよッ!』

 引き抜いた対装甲ナイフを鞘にしまい、アサルト・ライフルを拾ったアオイはそう叫んだが、反応がない。

 トリエラのRG2-63-t(フォーレン)は先ほどコックピットを潰されたG-20 (アドゥヴァーニ)の上で微動だにしない。


『……大丈夫?』

 トリエラの機体のそばまで寄って、その手を取った。なんとなく、震えているのがわかった。直接見ているわけでも、直接触れているわけでもないのに。


『人を、殺した』

『そうだね』

『あんな呆気なく、死んだ』

『そうだね』

『怖くなって、頭の中が真っ白になって』

『誰だって最初はそうだよ』

『誰かが『人殺し』って罵倒してるような気がして』

『大丈夫だよ、すぐに慣れるから』


 そんな心にもないことを言いながら、アオイは考えていた。

 ——わたしの初陣の時はどうだったっけ?

 すこし時間を遡ってみたけれど、何も思い出せなかった。

 あの時は、誰が隣にいてくれたんだっけ。

 あの時は、どんな思いをしたんだっけ。

 あの時は、わたしは何をしてたんだっけ。

 何も思い出せない。

 いつの間にか自分の行動に素直になれなくなっていた。殺人を肯定することも、否定することもできなくなって、心の奥底に沈めてしまった。


 だからきっと、わたしはこんなにも薄っぺらい言葉が言えるのだと、思った。

 たぶん、トリエラの反応が正常な反応なのだ。人殺しの感覚など、慣れてはいけない感覚なのだ。


『ごめん、付いてくって言ったのは私なのに、役立たずだよね』

 言わなきゃいけないことを必死に探して、なんとかその言葉を搾り出す。

『……違うよ、役立たずなんかじゃない』

『……無事でいてくれて、本当によかった』

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