接敵
エストとフーシャから離れたアオイとトリエラは、シュヴァルべ・ユニットを軽く噴かし、脚部関節の両方への負荷を少なくするための低速のホバリングで市街地の隙間を縫うように進んでいた。
頭上を流れる夜空はいつの間にか本来の色を取り戻していて、周囲は言われなければ戦闘中だとは気付けないほどに静かだった。
そしてトリエラが曲がり角をいくつ曲がったか数えるのが億劫になった頃、アオイのRG2-63-tが足を止めた。
「どうしたの?」
トリエラは少し遅れて着地し、アオイにそう聞いた。しかし、彼女の返答は沈黙とデータリンクにより送られてきたモニター映像であった。
アオイのRG2-63-tの頭部アイカメラが写した映像を、トリエラに送ったのだ。ペパーティアシステムが無い分、少々ラグがあるが、今の状況ならそれでも十分だった。
モニター映像には、4台の装甲車と、その後ろにつく4機のG-20 がいた。
彼らは隊列を維持したまま、ゆっくりとこちら側——アステル・アカデミー方面に移動している。
『バレたのかな?』
『いや……、あれは偵察隊じゃないかな?』
『一緒だよ、見つかったらめんどくさそう』
アオイは少し考える素振りを見せてから、トリエラに一つの提案をした。
『……決めた。やっちゃおう』
『……ホントに?』
『先手を取って、一気にやっちゃおう。終わったら大学まで一気に飛ぶよ』
2人は大通りから離れた位置の建物裏に隠れ、アオイのRG2-63-tは前腕部のカバーを開き、左手で対装甲ナイフを抜いた。
動力を機体が動けるギリギリまで絞って、2人はその時を待っていた。
2人は、一言も話さなかった。機体のスピーカーどころかモニターすら正面以外働いていないのに、何かを話せばその音で自分たちの存在に感づかれてしまうのではないかという不安が、2機のRG2-63-tを包んでいた。
2人の正面を、4台の装甲車が一列に並んで通過した。
RG2-63-tには透明化とか妨害電波とかの便利なステルス機能はついていない(それはTDという兵器全てに言えることである)が、夜中だったことも相まって薄灰色の外装がビルにうまく溶け込み、彼女たちの姿を隠していた。
装甲車が通り過ぎてからさらに10秒。ついに2人の視界に4機のG-20 が映った。
こちらに気づかずにゆっくりと行進し続けるG-20 が2人の正面を通り過ぎようとした時――
夜の闇の中、鈍く輝く金属塊が空を駆けた。
アオイのRG2-63-tが投げた対装甲ナイフだ。軽い風切り音と共に飛翔した剣は、2人に1番近い位置にいた不運なG-20 の関節に突き刺さり、暗い夜闇に火花を散らした。
関節を砕かれ、文字通り膝から崩れ落ちる仲間を見ながら、残りの3機の視線が2人の隠れていた物陰へと向かう。しかし、もうそこに2人は居ない。
2人のRG2-63-tがアフターバーナーを噴かし、すでに飛翔していたからだ。
「トリエラは装甲車を!」
アオイは手にした西側製アサルト・ライフルを奥にいるG-20 に向かって連射しながら、トリエラに向かって叫んだ。
「了解!」
トリエラは、アオイと2人で敵部位を挟み込むために装甲車の進行方向側に降り立ち、西側製のTD用アサルト・ライフルを発砲した。
西側製アサルト・ライフルの37mm弾は、装甲車の装甲を容易く穿ち、次々と棺桶に変えていく。
どうにか助かろうと車体から這い出ようとした人影が炎に呑まれ、悲鳴を上げる様を見て、トリエラは無性に腹が立った。
——テロなんてしなければ、こんなことにならなかったのに!
10人乗りの装甲車4台、40人を一方的に殺しても、トリエラの怒りは収まらなかった。
這い出ようとした人影の1人に、モリニア軍の古い軍服を着ている人を見つけた。
怒りは脳裏の記憶をがんじがらめに接続し、様々な声をフラッシュバックさせていく。
『トリエラちゃんのお父さんって、軍人なんだって!』
本当に小さな時、トリエラにとって父は誇りだった。彼女が生まれる前からずっと続いている戦争で、日夜戦っているのだと。私と友達が幸せに学校に通っていられるのも、父のおかげなのだと。
しかし、戦争の終結が迫ったある日。
『トリエラちゃんのお父さん人殺しなんでしょ?ママ言ってたよ。軍人はみんな人殺しなんだって』
本当に唐突に、父のことを非難された。
5年以上経った今だからこそわかる。あれは、戦争を無理矢理に終わらせたことによる歪みだったのだと。全ての元凶としてその場にいない兵士たちを晒し上げることで、戦争を無理矢理に終わらせようとしたのだ。それが、国の為に戦った者たちを侮辱する結果をもたらすとしても。
『話しかけて来ないで!人殺し!』
トリエラは、帰還した父親に酷い裏切りをした。
人殺しの娘と呼ばれたくなくて、命懸けで戦った父親を裏切った。父親を罵ったその口で、薄っぺらい表面上だけの関係の相手と、真の友情について語り合った。
そして、サヤカが当時の軍人へのバッシングの被害を受けていたことを知った。
そんな彼女と共にいることで、父親への贖罪ができるような気がしていたのだ。




