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初陣 その3

 赤く燃える市街地を撫でるように楔形陣形アローヘッドで飛ぶ4機のRG2-63-t(フォーレン)は、腕に同じ形の箱を付けていた。

 前腕を上下に挟み込むように搭載されたその箱は、TD用の使い捨て4連装ロケット・ランチャーだ。上下に4発の計8発の小型ロケットをすべて撃ち切れば自動的に切り離される優れ物だ。

 楔形陣形アローヘッドの軸線にいる2機は両腕に、端の2機は片手にだけそれを装備し、もう片方の手にはベイルを装備している。


『……見えた』

 先頭のRG2-63-t(フォーレン)に乗るエストが赤く染まる市街地を指した。

 左のトリエラ、右のアオイ、後方のフーシャは、無言のままエストの指した場所を見つめた。

 メインストリートに建てられたバリケードの裏に隠れながら、4機――1個小隊分のモリニア軍のTDRG2-63(プフェーアト)が東側製のTDと撃ち合っている。その奥では、トレーラーから新しいライフルを取り出し、弾切れになったライフルと交換している東側の機体が3機。シルトで身を隠しながらバリケードで身を守るRG2-63(プフェーアト)に弾幕を張り続けている支援機が2機。さらにその奥には、支援用の砲部隊が。

 具体的な数は分からないが、これが本隊であることは明らかだった。


『皆さん、見えまして?』

 アリシアの声と共に、モニターの端に街の地図が映る。

 ペパーティア(人形使い)システムが周辺の機体の索敵データを集め、指揮下の機体に反映させたのだ。

 敵を表す赤い光点は、メインストリートに12機――1個中隊。そのほかの場所には、1~4機がまばらに動いている。

 楔形陣形アローヘッドで進行するアオイ達4人の最初の作戦は、メインストリートにまばらに動いている敵を集めることだった。一か所に敵を集めることで、後方から陸路で進軍中の後輩たちの安全を確保するためだ。


『――これより、アステル仮設第1小隊は敵補給ポイント及び、後方の支援火砲に対し、|シュツゥルム・イエーガー《吶喊猟兵戦術》を行いますわ!楔形陣形アローヘッドのまま突入し、目標に4連装ロケットを斉射、増槽とランチャーを切り離して旋回、その後それぞれ第2目標エリアに向かいなさい!痴れ者に、正義の裁きを!』

「「「「了解!」」」」


 ――|シュツゥルム・イエーガー《吶喊猟兵戦術》。本来TD兵科の名前として使われていたそれは、TDという兵器の普及に伴い意味を変え、現在は最も脅威度の高い敵陣後方の砲陣地に対する強襲攻撃の名となっていた。

 戦時中には専門の部隊が設立され、機体の限界ギリギリまでの長距離侵攻が行われた。

 突入、目標に対する攻撃、支援なしでの離脱――。きわめて難易度の高いそれは、帰還率5割クラスの危険任務であり、複数回の|シュツゥルム・イエーガー《吶喊猟兵戦術》から帰還した兵はその技量と運を評価され、イエーガーマイスターという称号を与えられるほどであった。


 しかし、アリシアは全員生存可能であると踏んでいた。

 敵砲陣地はメインストリートに火力を集中しており、建物を使って比較的安全に接近可能であること。主戦場と砲陣地の距離が近く、敵TDによる対空攻撃の時間が短いこと。ロケットによる先制攻撃だけに行動を限定し、離脱のタイミングを早くとっていること。理由は様々だが、最大の理由は、級友たちの腕を信頼していたからだ。


 シュヴァルべ・ユニットのアフターバーナーが火を噴いて、4機のTDが炎の矢となり、夜空を駆ける。

 後方の支援射撃部隊のTDが4機に気づいて対空砲火を始めた。しかし、高射砲の射程を1分ほどで駆け抜ける|シュツゥルム・イエーガー《吶喊猟兵戦術》中の機体に当てるのは至難の業だ。


 しかし、

『ホントに辿り着けるんでしょうね……』

『まぁ、皆さん必死ですねぇ……正直、怖いです』

 パイロット側の負担は別だ。

 速度を維持してればほとんど当たらないというのを頭の中では理解できていたとしても、隣を弾丸が通り過ぎていくなかで平然とできる人間はそうはいない。

『早く……もう少しだから……』

『怖いよぉ……。フーシャ、助けてぇ……』

 経験者かつ、楯持ちのアオイですら余裕がなくなっているのだ。

 最前で楯を装備していないエストに至っては泣き出しそうなほど声が震えている。しかし、自分で一番危険な最前をやると言ってしまった以上、今更やめられないし、助けられる人もいない。


『皆さん、もう少しですわ。気をお確かに』

 アリシアの計らいにより、モニター端の地図に攻撃開始位置を示した線が表示される。それを確認するのとほとんど同時に、RG2-63(プフェーアト)が陣取っているバリケードを飛び越えた。

 攻撃開始位置まであと1秒分の距離もないはずなのに、4人にはその距離が永遠に感じる。しかし、確かに距離は詰まっていく。

 アオイのRG2-63-t(フォーレン)の右隣を、TD用の支援火器の弾丸が突き抜け、甲高い風切り音を鳴らした。


 ――勝った!

 アオイは、そう確信した。

 敵の火器の連射速度ではもう捉えることは出来ない。あとは突入軸からズレなければいいだけだ。

 最前のエスト機が攻撃開始位置に突入する。


『うっ、撃てえぇぇぇぇッ!!』

 もはや絶叫に近いエストの声が小隊に響き渡り、前列のエスト、トリエラ、アオイの機体に装備されたロケット・ランチャーが、内蔵された累計32発の小型ロケットを吐き出す。それに合わせて4機のジェット・エンジンの向きが変わり、突撃の勢いを殺しながら上空に飛び上がった。エストは上に。トリエラは左に。アオイは右に。

 32発のロケットは支援火器を装備したTDがバリケード代わりに使っていたシルトと予備の武器を積んでいた車両、そしてその近くにいたTDを吹っ飛ばした。

 最後方のフーシャは、目の前のエストが高度を上げたのを確認してから16発のロケットを発射し、後方の支援砲台を吹っ飛ばしながらエストの後ろにつくように上昇した。


『後方の7割は潰しましたわね。では、後は予定通りに』

 上空に飛び上がった4機は増槽と空になったロケット・ランチャーを切り離し、背部の可動式アタッチメントに取り付けられた武器を手に取る。

 支援火器と狙撃用ライフルを装備したエストとフーシャは大きく空中で宙返りをしながら正規軍の背後につく。


『死んだりなんかしないでよ、葬式になんて出でやらないからね』

『無理はしないでくださいね~』

『健闘を祈りますわー!!』

 通信可能エリアから離れる直前に仲間たちから放たれたその言葉にアオイとトリエラは少しの笑顔を浮かべながら、一般的な西側製の榴弾発射機付きアサルト・ライフルに持ち変え、メインストリートの左側にある、かろうじて戦火の広がっていない大学へと向かった。

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