じゃがいも髪のワンマンアーミー その2
2人は慣れた手つきでTDの胴体部まで上がり、ハッチ解放用のボタンを叩いた。
後ろで歓声が上がった気がするが、今は構っていられず、そのままハッチの中に飛び込む。
無数の計器類と、同じく大量のスイッチ、2本のスティック、同じく2つのペダルに包まれた椅子。
それがTDのコックピットだった。
トリエラが最初に実機に乗り込んだ時は、その余りにもごちゃごちゃしたそれに目を回したものだ。もちろん、アオイも。
無数のスイッチの中の一つを押し、ハッチを閉める。ハッチには、凸の字型に配置された4枚のモニターと、大型のタッチ・パネルが備え付けられていた。タッチ・パネルの脇には、小さな鍵穴。
2人は、制服のポケットからUSBメモリに似たそれを取り出す。それが、TDを動かす鍵だった。
それを鍵穴に差し込むと、タッチ・パネルと4枚のモニターに光が灯る。外から見れば、機体の目が光っていることだろう。
本調子になっていないエアコンがまだぬるい風を吹き出し、モニターに無数の文字と黄色い簡易な人形が浮かんだ。
機体のセルフチェックが始まり、少しずつ黄色が青に染まっていく。
そしてその時、大きな足音が聞こえた。
機体の音響センサーが拾った音だ。
「皆さん!早く機体へ!」
アリシアはそう叫び、それを聞いた後輩たちはそれぞれ割り当てられた機体と、人形使いシステムを積んだ支援車両に走っていく。
足音はどんどん大きくなり、彼女達のいる格納庫の前で止まり、どんどんと搬出用のシャッターを叩き始めた。
「動作モードは初期のまま、FCS、Aモード……」
トリエラの声が震える。
TDのFCSにおけるAモードとは、コックピット狙いを解禁する実戦用のモードである。
今まで訓練用のTモードしか使ってこなかった彼女からすれば、それが一番の違いであった。
アオイはともかく、トリエラは実包で人を撃ったことなどなかった。声が震えるのも仕方ない。
トリエラは自分にそう言い聞かせていた。
パイロット側から行える調整を済ませ、中央のモニターのセルフチェックの様子を見ると、まだ半分も終わっていない。
こんなぶっつけ本番でありながら、調整の操作速度は最高記憶だ。これが火事場の馬鹿力というものだろう。こんなところで使いたくはなかった。
『ジェネレータ……正常』
『胴体部……正常』
『FCS……正常』
『コンデンサルーム……正常』
『背部ハンガー……正常』
『頭部……正常』
『右腕部……正常』
『左腕部……正常』
『シュヴァルベ・ユニット……正常』
『脚部……』
歩行の負荷を受けやすい脚部のセルフチェックはただでさえ時間がかかるのだ。初の実戦に臨むトリエラには、それがさらに緊張を加速させる。
トリエラには知り得ないことであったが、そもそもRG2-63-tは実践用のRG2-63 に比べ電子機器の類がダウングレードされており、セルフチェックに時間がかかる代物だった。
「早く……間に合って、お願い……」
最早操縦桿から手を離し、祈りの形に組みながら、トリエラは祈っていた。
シャッターを叩く音はどんどん大きくなり、形もだいぶひしゃげてしまっている。突破されるまで、このペースでは30秒も持たないだろう。
誰もが呼吸すら止めてしまうような静寂は、シャッターが壊される音によって破られた。
東側の第1世代TD。G-20と呼ばれるそれが格納庫の中に侵入し、トリエラの機体に銃を向ける。
トリエラは咄嗟にモニターを確認した。
箱を人形に積み上げたそれは、未だ足を黄色く染めていた。
――間に合わない!
トリエラは自分の乗るRG2-63-tに向けられた銃口を見つめ、放たれた弾丸が自分を穿ち、殺す瞬間を垣間見た。
銃声。
目を瞑ったトリエラは、自らの意識が消えないことに違和感を感じ、恐怖心を押さえ込んで目を開けた。
そこには、敵はいなかった。
そして、正面にいたはずのRG2-63-tが消えていた。
周囲を見渡すと、壊れたシャッターの近くで動くものを見つけた。
そこには。RG2-63-tがG-20に覆い被さり、左手に握った短剣を振り下ろしていた。




