街道にて
学園都市アステルの内外を結ぶ門の外に、2人の男が佇んでいた。
馬鹿でかいトラックが止まっていて、トラックに寄りかかる義手の男は、不満げにぼやいていた。
「……ムシムシすんなぁ。おい兄ちゃん、さっさと終わんないもんかねぇ。腕が錆びちまう」
義手の男はギシギシと音を鳴らしながら金属製の左腕を動かしていた。
「申し訳ありません。最近、『検査を厳しくするように』と指示が入っていましてね。テロ対策だか何だか知りませんが、こちらも辟易してまして……」
戦争の時は、トラックなどに爆発物入りの家具やらを積んで、テロじみた攻撃を行うこともあったと聞いたものだが、終戦からはそんな話も聞かなくなり、3年前の『フェルミ砦陥落事件』が起きたころを最後に門兵の仕事は街門を通る車の数を数えるだけになったのだ。
今更チェックを万全にしろと言われても。
門兵の男の声にも、そんな苛立ちが滲んでいた。
門兵の男は続ける。
「こんな仕事してたら日射病で倒れちまいますよ。まぁ、戦争に行った兵士の仕事なんてここよりひどいものもあるって言いますから、まだ幸運な方なんでしょうけどね」
「そうですなぁ、俺なんて腕を失くしたうえこんなおんぼろトラックの運転手ですよ、それに比べたら、あんたはすごく幸運だ……」
門兵の男は自分語りに夢中で目の前の男の表情が変わったことに気づかなかった。
義手の男は右手に付けた腕時計を眺める。
時計は17時58分を指していた。
「そろそろ開けてくれませんかねぇ、俺は短気な人間なんでね、トラックで突っ込んじまうよ」
「そんなことされちゃあ、減給じゃ済まなくなっちまうよ。そんなことより聞いてくれよ、俺の戦時中の武勇伝。暇つぶしにはなると思うぜ?なんたってあの『魔剣使い』って呼ばれたんだからな!!」
今度こそ義手の男の顔に、あからさまな侮蔑の色が現れた。
――こんな奴が『魔剣使い』である訳が無い。
彼は、『魔剣使い』と呼ばれた人々を知っていた。背中を預けたこともあるし、直接戦ったこともある。
そしてその中でも、一番長い時を共有した『ある少女』の顔が浮かんでいた。
その少女の人を殺すためだけに存在する、殺人マシーンのような目が、彼は好きだった。何度それを見て、自己嫌悪に陥ったことか。彼女の倍は生きていて、彼女の人生と同じくらいの長さを軍人として生きてきた自分など、所詮はチンピラに毛が生えた程度の存在だったのだと思わせるような目。
それを知っている彼にとっては、門兵の男の軽薄そうな目はどうしようもないほどに腹が立った。
その時だった。アステル市街のどこかで、爆発音が聞こえたのは。
「……何だ⁉」
門兵の男は慌てふためき、門の奥を覗く。しかし、高い壁に阻まれ、中の様子をうかがうことは出来ない。
その一方で、義手の男は静かだった。まるで、《《最初から何が起こるかを知っていた》》かのように。
「街に潜入した連中が家具に偽装した爆弾を使用。それに乗じて、TDを中核戦力とした部隊がアステル市街に突入し、制圧――」
いつの間にか左耳に通信機を付けていた義手の男は、右手をツナギの懐に突っ込み、何かを引っ張り出す。
冷たくて、重苦しい雰囲気を纏ったそれは、大口径の自動拳銃であった。
「あんた、一体、何を言って――!」
「じゃあな、ホラ吹き」
咆哮。
硝煙の匂いと共に放たれた弾丸によって、門兵の男の頭の半分が消えた。
血液とか、肉片とか、そんなものをぶちまけながら倒れた門兵の男だったそれを一瞥し、彼はトラックに戻る。
彼が手に持ったリモコンを操作すると、トラックの荷台が開き、その荷物の正体を明らかにした。
大陸最強の人型兵器、ティターン・ドール。
3機のTDは、腰に大きな装置を下げていた。
低空飛行を可能にする、シュヴァルベ・ユニットと呼ばれる装置だった。
燕の名を持つそれは、短時間の三次元移動を可能にし、人型戦車に過ぎなかったTDを大陸最強の兵器に変えた立役者だ。20メートル程度の壁など、訳もない。
3機のTDの一番前。一番目立つ赤色の機体に乗り込んだ彼は、手早く機体を起動し、先に残りの2機に乗り込んでいた2人に声を掛ける。
「予想より手間取った。燕で跳びながら、トラックを突っ込ませて後ろの奴らの道を作るぞ、武器は持てるだけ持っておけ」
「了解」
一人はあっさりと答え、トラックに積まれていた東側製のTD用アサルト・ライフルを拾い上げ、背部に設置されている可動式アタッチメントに積む。
「ギエレンさんよぉ、あんな回りくどいことしてねぇで、さっさと始末しちまえばよかったんじゃないですかぁ?」
一番後ろに位置しているTDのパイロットである若い男が、ギエレンという名前の義手の男にそう聞いた。
「はっ、言うなよ。でも、分かったろ?モリニアは腐ってる。それをヒヨッコ共に教えてやらなきゃならんからな」
実際、手間取ったのは事実だ。
本来なら歩兵部隊も積んだ状態で街に入って、作戦中の補給地点として使う予定だったのだ。
半月前の首都近郊の農村への囮部隊の襲撃からすぐに狙いが首都ではなくアステル市街だと予測を立てた上で警備を強化してきたのだ。ここまで速いのは、正直予想していなかった。
――モリニアの火消し部隊『サイレン』か……。
「お前ら、『首無し旅団』の初陣だ、気張って行けよ?」
5年ぶりの実戦の相手にしては、意外と楽しそうな相手の存在に身震いするギエレン・グラクロスに呼応するように、彼のTDは腰部の2機のジェット・エンジンに火をつけた。




