密会 その3
トリエラはアオイに怒鳴ってすぐに、自分がとんでもないことをしでかした事に気づいた。
アオイのその呆気にとられたような顔がこう告げていたからだ。
――この人は何を言っているんだ?と。
まるで、サヤカを付けていることがサヤカの幸せにつながると、心の奥底から信じているかのように。
ある種狂気的な思考であるが、そんな思考の持ち主のような目をアオイはしていなかった。
サヤカを付けていることも、学校の立入禁止区域の地図を一心不乱に作っていることも、きっとそうしなければいけない事情があるのだろう。誰かに言うことのできない、自分一人で抱え込まなければならない事情が。
そして、戦争の傷が癒えきっていないモリニアには、そんな事情を抱えた人間が無数にいるということを、私は知っていたはずなのに。
それなのに、それを理解しようとせず、怒鳴って否定しようとしてしまった。
「……怒鳴っちゃって、ごめん」
「……大丈夫」
さらっと彼女は返した。
「ねえ、本当に事情は話せないの?」
「話せない」
この2週間の間に彼女と関わったすべての人間が聞いてきたであろう返答が返ってきた。
「じゃあ、それでいいよ」
「代わりに、質問していい?」
事情は分からなくても、問題解決のためには彼女を知らなければ。
『軍事行動で一番大切なのは情報よ!』
ラーナ先生が昔授業でそう言っていたじゃないか、情報がなければ何も出来やしない。
「アオイさんは、何時から軍にいるの?」
「8年前、7歳の時」
8年前、戦時中か……ちょっとまって?
「それじゃあ、アオイさんって、実は15歳?」
アステル・アカデミーの入学要件には、『15歳以上の健康な男女』と書かれていたはずだ。
「いや、まだ14歳」
そんなこともあるものか。あるものなのか?
しかし、それ以上は話してくれそうにないので、話題を変える。
「ここに来る前は、どんな所にいたの?軍にいるときも、こんなことあったの?」
アオイは少し考え込むようなしぐさを見せてから、
「あなたの言う『事情』がないから、地図作ったりとかはしてない」
「じゃあ、基地にいる同僚さんとかは、どんな人達だった?」
「わたしのことを着せ替え人形扱いしたりした変な人達の集まり」
そんな言葉を聞いたトリエラは、どこかおかしくなって、クスリと笑った。
確かに、アオイを傍目見たら、軍人ではなくお人形のだと言う人の方が多いだろう。
何を考えているのかよくわからない表情も、大きな青い目も、短く切りそろえられたじゃがいもみたいな髪も。その印象を強くしている。
「確かに、アオイさん可愛いもんね」
「そうなの?」
「そうだよ、本当にお人形みたいだもん。でも、それはみんなに認めてもらってるってことだと思うよ」
「そういうものか」
もう一度笑ってから、新しい質問が思いついた。
「じゃあ次、サヤカとはいつ知り合ったの?つい最近ってわけでは無いんでしょ?」
「……だいたい3年前」
――3年前⁉
呟いた彼女の言葉に、トリエラは目を剥いた。
3年前といえば、サヤカの様子がおかしくなった時期だ。つまり、サヤカとの連絡がつかなくなったのはアオイと会っていたから?何の為に?
「……サヤカ、何か言ってた?初めて会った時に」
「……サヤカは、『一緒にしたいことがある』って」
「一緒にしたいことがあるって、何を?」
「わかんない。それだけで、サヤカから具体的に何かしてほしいって言われたこと無いから」
「その前にアオイさんの方が何かしてたとか、そういうのは?」
「覚えてない。サヤカと出会う直前の記憶が、すっぽり抜けてる」
……謎は深まるばかりだ。
トリエラは頭を抱えた。
しかし、何の収穫もなかったわけでは無い。
その収穫とは、アオイの抜けている記憶は、サヤカがアオイに接触しようとした理由と関連があるのかもしれないということだ。
もしかしたら彼女が笑わなくなった理由も、それが絡んでいるのかもしれない。私がそれを何とかすることができたら、また昔みたいに笑ってくれるのかもしれない。
トリエラはそう思った。
――思い立ったが吉日。
トリエラはいきなりアオイの右腕を掴み、歩き始める
「アオイさん、行くよ」
「……ぉぁっ、ど、どこに?」
「サヤカのとこ、取り敢えず3人で顔合わせて話してみよう?」
そういって半ば無理矢理アオイを寮に連れて行こうとした時。
爆発が、起こった。




