晒された欠点
「アオイ、4時方向、敵機2!」
苛立ちの混ざった高い声が、クレートレッフ基地のブリーフィング・ルームに反響する。
「4時って……どっち!?」
続いて響いた、女の子にしては少し低めな動揺の声に、ブリーフィング・ルームにいた2人の女性は頭を抱えた。
ブリーフィング・ルームの壁に、黒板のように取り付けられたモニターには、先日の戦闘でそれなりの活躍を見せた第69試験小隊の見ていられない姿が映し出されていた。
すでに普段分隊を組んでいる仲間は落とされており、生き残ったアオイとエストが隊列を組み直して、どうにか抵抗を試みている。
しかし、どうにも息があっていないようだった。
「左の岩陰、制圧射撃を!突っ込むよ!」
「やってるよ!……って、きゃあぁっ!」
ものの見事なカウンタースナイプ。アサルト・ライフルを担いだエストの機体の頭が、ペイント弾の色に染まる。
「やば……」
行動を制限していた支援射撃を失い、孤立したアオイの元に、無数のペイント弾の雨が降り注いだ。
回避力に優れたTD、凄腕のパイロットだったとしても、ここまで追い込まれてしまえば流石に回避は不可能だ。
「状況終了!全機、開始位置まで交代せよ!」
もう詰みだと判断したためか、ブリーフィング・ルームの女性の1人が、マイクに叫んだ。
そのままマイクのスイッチを切り、近くの椅子にドスンと座り込む。
「……だめだね」
頭を抱えたクレートレッフ防衛部隊隊長のレンカは、絞り出すように呻いた。
「少年兵出身特有の化けの皮剥がれタイムですね。1ヶ月は続きますよ、僕もそうでした」
ブリーフィング・ルームにいたもう1人の少女、ベルナデットが、レンカ大尉に賛同の言葉を投げる。
「本当に大丈夫かしら」
男と女が混じったような話し方をするベルナデットに、レンカ大尉は苦笑を返した。
化けの皮剥がれタイム。それは戦後1年ほど経った頃に軍内で少々話題になった事件で、戦時中に本来の教育課程をパスせずに育成させられた少年兵が、一部の指揮を理解できずにミスを犯すことが増えたというものだ。
字が読めない、座標がわからない、それどころがどちらが西側で東側なのかもわからないという、「名前が書ければ入れる」とまで言わしめたかつての軍隊がもう存在しないということを明らかにした事件。
その当事者達に比べれば、確かにアオイは能力のある方である。しかし、あくまで、それは一兵士としてのことだった。士官としての能力ではない。
「一つ、質問。そこまでしてアオイをすぐに育成する必要があるんですか?」
質問をしたベルナデットに、レンカ大尉は手にした何かの書類を差し出した。
「なんですこれ?ええっと……」
書類を受け取り、目を通したベルナデットの表情が、少しづつ曇っていく。
「教会領の警備……ですか?」
「そうよ、モリニア軍は教会軍と協力して、大規模な『首なし旅団』の討伐を計画しているわ」
「その条件が、これ?」
ベルナデットが手にした書類に書かれていた条件。それは、討伐作戦の期間中、街の外に出払ってしまっている教会軍の代わりに街を守れというものだ。
モリニア側も防衛と討伐部隊に大きく戦力をさかなければならない都合上、69試験小隊をはじめとする新任パイロット達に、そのお鉢が回ったということだ。
新任パイロット達で行う短期防衛任務。
それは戦後のモリニアで軍人をしている人間には、ある忌々しい事件を思い起こさせるものだった。
フィオナ要塞陥落事件。
3年前、東側との境界線上に位置するモリニアの国境要塞が『首なし旅団』の原型とされる武装組織により陥落したという、忌々しい事件だった。
当時の世論により大々的に軍を動かすことができなかったモリニアは、試作段階のTDと、正規の人員外の少年兵をフィオナ要塞防衛のために送り出し、そのほとんどが帰還しなかったと言われる、近代史に残るほどの大事件だ。
今のモリニアの軍備を支えるペパーティア・システム、アオイがつい先日まで所属していた対テロ特別対策部隊『サイレン』。それらはすべて、フィオナ要塞陥落事件の反省から作られたものだ。
それらの事件と似た状況を作るのは、それだか事態が逼迫しているということか、それとも、もうあのような失態は犯さないというパフォーマンスか。
「フィオナの二の舞にならなきゃいいですけどね……」
「その為に、私達が仕事をするんでしょう?そろそろデブリーフィングよ、準備して」
「了解」
デブリーフィングと、教会領への遠征の打ち合わせのために、ブリーフィング・ルームを出たベルナデットは、先ほど醜態を晒してしまったかつての戦友について考えていた。
「……そういや、なんでエストが前衛にいたのかしら……?」




