22 エピローグ side蓮
「……また来たの?」
毎日同じように出迎える彼女の声。最初は戸惑いが混ざっていたそれも、今ではどこかあたたかい。
けれど――俺は、あの時からずっと確信していた。
彼女は“瀬奈”じゃない。
あの日、病室で目を開いた少女を見た瞬間。
違和感というよりも、胸を貫いた衝動だった。
怯えず、でも憐れでもなく、静かに周囲を見渡したその瞳に、俺は強く惹かれた。
“何か”が変わった。そう思った。
最初は混乱していたはずなのに、数日で言葉遣いが整い、姿勢が正され、仕草さえも優雅になっていった。
瀬奈の親友だった俺が、気づかないわけがなかった。
けれど、気づいてしまったら壊れてしまいそうで。
だから俺は、それを確かめる代わりに、距離を詰めていった。
「依存させれば、逃げられない」――心の底から、そう思った。
退院してからというもの、俺は毎日彼女の元へ通った。
差し入れも、手料理も、送り迎えも全部、口実だった。
俺にとって“彼女”は、瀬奈じゃない。
命を賭けても手に入れたい、唯一無二の存在だった。
**
沙耶ーーあの女が彼女を傷つけようとしたとき。
怒りよりも、先に浮かんだのは冷笑だった。
誰のものに手を出そうとしているのかも分からず、浅はかな嫉妬で彼女を貶めようとするなんて――滑稽だった。
彼女が誰かも知らないまま、ただの劣等感で。
……そんな、甘ったれた感情で彼女を傷つけていいはずがない。
美しく凛とした彼女が泣く姿も、確かに魅せられた。
でも――彼女を泣かせていいのは俺だけだ。
俺以外のことで感情を動かされるなんて、許せなかった。
俺はすぐに動いた。
裏垢、噂、証拠、全て消した。沙耶が動けないように。
「俺が全部、終わらせるから」
あの日そう言ったとき、彼女は少しだけ寂しそうに笑った。
わかってたんだろう。
俺がどこまでやってしまうのか。
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彼女と海翔が話しているのを見たとき、全身の血が煮え立つようだった。
たとえ彼が善人でも、正しくても。
彼女の隣に立っていいのは、俺だけだと――信じていた。
だから俺は、彼女を引き寄せ、奪った。
彼女の温もりを感じたとき、
「ようやく手に入れた」と心から思った
**
そして、あの夜。
俺の問いかけに、彼女は悩みながらも真実を語ってくれた。
【エレオノーラ】
それを聞いたとき、やっと、全てが報われた気がした。
“君が誰でもいい”と口にしたのは嘘じゃない。
でも、“君であってほしい”と願ったのは、俺の本音だった。
彼女の過去を聞いて、胸が張り裂けそうだった。
けれど、同時に、彼女が人のものにならなくて良かったとも思う。
孤独に耐え、誇りを失わず、冤罪で命を落とした少女。それでも、誰かに愛されたかったと泣いた彼女に、俺は誓った。
もう二度と、一人になんかさせない。
初めて交わした口づけのあと、彼女は驚いたように見つめてきた。
だから俺は、そっと囁いた。
「今日は……帰らないよ」
それが何を意味するのか、彼女は理解していた。
わかっていながら、ただそっと目を閉じて、俺を受け入れた。
翌朝、カーテンの隙間から差し込む陽に照らされた彼女の白い肌と、艶やかな黒髪。
やっと手に入れた彼女を、たまらなく愛しく思った。
昨夜は疲れたはずだから、朝食は軽めにしてあげよう。
……もう少しだけ、この寝顔を見ていたい。
**
それから数ヶ月が経ち、彼女は少しずつ大学生活に慣れていった。
けれど俺は、彼女を以前のようには扱えない。
守りたい。奪いたい。支配したい。愛したい。
全部、同時に叶えたい。
そんな矛盾を抱えたまま、今日も彼女の隣を歩いている。
「蓮、どうかした?」
「……なんでもないよ。エラが可愛いなと思って見てるだけだよ」
そういうと、真っ赤になる彼女が可愛くて仕方がない。
彼女は愛称で呼ばれたことがなかったそうだ。初めてエラと呼んだ時はりんごのように真っ赤になって照れるので、そのまま唇を奪ってしまった。
俺が彼女を愛したのは、”瀬奈”だからじゃない。
名前も、過去も、国も違う、彼女の“在り方”に惹かれたから。
世界がどう変わっても、この手だけは離さない。
名も、過去も、魂さえも関係ない。
俺の前に現れた“あの瞬間”から、
もう、エラは俺だけのものだ。
……だから、逃げても無駄だよ?
俺は今日も彼女の手を握る。
心の底に沈んだ狂気ごと、すべてを愛して。
最後までお読みいただありがとうございました。
初めて投稿して、今まで読む側だったのが、いざ書く側になると難しさを痛感しました。
薄すぎたかなぁーと思いながらも、これを糧に色々書いていけたらなぁとも思っています。
もっと自分の好きを追求していける作品ができたらと思います。
また機会があれば読みに来てください。
本当にありがとうございました。
明日1話だけ後日談投稿します。




