ぐーっ
「……さて、君は夜見環さんだね」
金の目を環に向ける。一転して、真剣な顔になっていた。
「ケニカが迷惑かけて悪かったよ。なかなか気まぐれなやつでね」
「まあ、もう慣れたっていうか……」
「あの世の神も天使も、ひと癖あるやつが多い。僕も苦労しているから分かるよ」
ミニソウラスが腕組みしてうなずく。
「第二の町なんか、大変だったでしょう」
「そりゃもう。神様が困ってるような問題を押し付けてくるんですから」
慈悲をかけて、すんなり武器を貸してくれるかもしれない。環の期待が高まる。
「自殺教唆を第二の町で裁くことになって件ね。もしかして、あれ解決してくれたの君なの?」
ミニソウラスが身を乗り出す。
「助かったよ。長いこと放置されてて気をもんでいた問題だったからさ。素晴らしいご意見だったよ。まさに僕が求めてた答えって感じ。どうやってああいった答えにたどり着いたんだい?」
片方の目をキラキラさせている。
「いえ、私は、問題を解決できる人を探しただけです。その人が次の神様になったんですけど……」
「えー。そうなんだ」
たちまち興味が失せたというように、腰を元の位置に戻す。
「ちなみに、第一の町で犯罪者に殺されかけたっていうのも、誰かに助けてもらったの?」
「はい。天使に……」
「ふうん」
ソウラスが、隻眼で環をまじまじと見つめる。
「君さあ、自分では何もしないで武器借りてきたんだね」
「えっ」
「いっつも他人にどうにかしてもらってるじゃない。表情もなんだかぼやーっとしてて、なんとしてでも肉体を取り返す!って情熱を感じないんだよねえ」
「いや、そうですけど、私じゃどうにもならないことでしたし」
「うーん。それと、情熱がないことは関係がないよね」
「で、でも」
「部下の不始末は上司の不始末。ケニカのお詫びに神殿まで連れていってあげようかと思ったけど、覚悟が半端な奴にタラリアは貸せないよ。あ、タラリアっていうのは武器の名前ね」
「私だって、それなりにやってきました!」
「自覚あるじゃん。覚悟が半端だって」
ソウラスがニヤリと笑う。
「『それなり』って、覚悟決まってる奴が使う言葉じゃないよ」
手を振って、宙に消えてしまった。
「ぐーっ」
環はこぶしを握る。
これまでの頑張りを否定されたようで、悔しい。
が、思い当たる節はあるのだ。なんだかんだ、誰かの働きのおこぼれで手に入っているところはある。第一の町の事件は最悪だったが、結果としてすんなり武器を貸してもらえたし、第二の町なんかほとんど青田の力だ。
生き返りたいと、思っている。
ただ、力が足りない。
見習いたくはないが、晴山のような行動力はない。青田のように賢くもない。自信があることといったらファッションのことくらいだが、何の役にも立たない。
「どうしよう……」
環は天井を見上げる。
「ほんと、私たち、どうしたらいいんだろうね」
愛莉が涙をぬぐう。
「颯に会いたい」
「探しに行く?」
「いいの?環ちゃん、大変でしょう」
「うん……。でも、考えても分からないし。探してたら何か分かるかもだし」
環は力なく自嘲する。本当は、目の前の課題から逃げたいだけだった。