29 自責の念
カレンを運ぶモリーに続いて、シャーリンは船室に入った。
ソラは、カレンの服を全部脱がせ、全身を念入りに拭く。そのあと、じっくりと診察し治療を行った。
「どうやら問題ないようです。各機能も異常ありません。打撲と切り傷が何箇所かありますが、それ以外は大丈夫です。左腕に熱傷があるので手当てしておきました。しばらく痛みがあると思います」
小さな声でお礼を言うカレンを眺めたあと、シャーリンは上を向いて長々と息を吐き出した。
「本当によかった」
ソラは、ミアが出してくれた新しい服をカレンに着せながら、何度も首を振っていた。
「それにしても驚きだ……」
「シャル、攻撃された船はどうなったの?」
か細く震える声に、狼狽し早口で答える。
「船は沈んでしまったけど、乗員はみんな無事。全員この船に乗ってる」
「ああ、シャルが助けてくれたのね……よかった……」
「いや、カルが……」
言いかけたところで、カレンの目に涙が溢れてくるのを発見して驚く。伸ばしてきた手を慌ててつかむ。
「カル、大丈夫?」
「ええ」
「本当?」
カレンはもう一方の手で涙を拭った。
「はい……お姉さま」
「さあ、次はその腕です。一度手当てしてもらったようですが、その出血具合だと、また傷口が開いたんでしょう。見せてください」
おとなしく両手を差し出す。
「包帯をはずしますよ」
カレンと目を合わせ、顔をしかめる。
軍医はたんたんと作業を進めた。
「これは酷いな。いったい何をされたんです?」
シャーリンはうなったが何も言わなかった。
「でも、まあ、思ったほど悪くはなっていませんね。どうやら化膿もしてないようだ。傷口がぱっくり開いただけ。薬を塗ります。少ししみますよ」
「うう、またか」
カレンの顔には涙とかすかな笑みが同居していた。シャーリンは思わず頬を緩めたが、次の瞬間には、顔を思い切りしかめひたすら歯を食いしばった。
手当てが終わると、ソラは残りのけが人の治療をするために船室から出ていった。船が動き出す際の震動を感じる。
「そうだ、これを返さないと」
服の内側に手を突っ込むと、小袋を取り出してカレンの手に握らせた。顔に少しだけ色が戻ってきたのを目にして安心する。
「ありがとう。これを預けておいてよかった。また、取られるところだった」
ひとつ頷くと、どっこいしょと言いながら立ち上がって操舵室に向かった。体のいたるところが悲鳴を上げ続けている。
操舵室には、ミアと話しているカイがいた。ウィルは床に座ってふたりの会話を聞いている。
ミアが振り向いて報告する。
「アッセンの港に向かってるよ。この人たちもそこで降りるってさ」
「駐屯地の方ですか?」
シャーリンは指揮官に尋ねた。
「はい、シャーリン国子。川艇を失ったことと、あの船について報告しないと。それに、あなたがたにお会いできたことも」
シャーリンはさっと手を上げた。
「その堅苦しい言い方はやめてほしい。シャーリンでいい」
「う……わかりました、シャーリン。それで、あの船についてご存じのことを教えていただけますか?」
シャーリンはロイスを出てからの経緯をざっと語り始めた。リセンからこの船に乗り込んだところまで話が進むと、ウィルがあとを引き取って敵船を偵察に行ったことについて熱心に話した。カイは最後まで辛抱強く聞いていたが、説明が終わると尋ねた。
「それで、その船で何か手がかりはつかめましたか?」
ウィルは突然、黙ってしまった。
カレンが部屋に入ってきた。見たところ、ミアの橙色の服は彼女には大きすぎるみたいだ。はでな色の服はミアにはとても似合いそうだけど、青白い顔のカレンが着るとさらに具合悪そうに見えた。
「寝てないとだめじゃない。死にかけたんだよ」
「もう大丈夫よ」
カレンは答えたものの、少し寒そうにしていた。こりゃ、だめだ。彼女の手を取って、ミアの隣の席まで引っ張ってきた。
「ほら、ここに座って」
「ありがとう」
シャーリンは、ミアが棚から取り出してくれた毛布をカレンに巻きつけた。
「もう一枚もらえる?」
ミアはカレンを見て目をぐるっと回すと、おとなしく別の毛布を取り出した。それをカレンの背中からかぶせる。
「大丈夫だったら、シャル。こんなに着たら暑いよ」
「いいから、そのまま。水に長いこと浸かってると体によくないんだよ」
ウィルがポカンとした顔で見上げているのに気づいて、苦笑いする。
カイがカレンに近づくと話しかけた。
「カイです。助けていただきありがとうございました。おかげで脱出する時間ができました」
「もとはといえば、あなたの船が攻撃されたのはわたしのせいです」
カレンは立ち上がると頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
カイは驚いたように首を振った。
「謝る必要はありません。あなたのせいではありませんから。我々は、最初からあの船に目をつけていたんで、あなたからの合図がなくても、ああなったはずです」
カレンは小さく頷くと、毛布の位置を直して座った。
「で、何の話だっけ? そうそう、カル、あの船で何かわかった?」
カレンは眉間にしわを寄せて、記憶を掘り出しているようだったが、すぐに話し始めた。
「ウィルが撃たれて川に落ちたあと、ソフィーとジャンが戻ってきたの。でも、ふたりは、わたしが自分たちのレンダーを取り返しに来たと思ったようね。誰かを迎えに行くので、アッセンの次の港で落ち合う予定、とか話していた。彼らって言っていたから、ほかにも仲間がいるに違いないわ」
「その港はミラスのことですか?」
カイの質問にカレンは頷いた。
「ダンは?」
シャーリンは一応聞いたが、カレンは首を横に振った。
「ごめんなさい、シャル。わからない。その落ち合うといった人たちと何か関係あるのかも」
「アッセンについたら、捜索の手配をしましょう」
「よろしくお願いします、カイ指揮官」
シャーリンは壁際の床に座り込むと壁に寄りかかって大きく息をついた。両腕を持ち上げて手のひらを動かしてみる。少し楽になったような気がするが、また、腕が熱くなってきた。
そっとため息をつき目を閉じる。この場所がなぜか妙に落ち着く。リンがおなかの上に飛び乗ってきても驚かなかった。




