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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖なる集い編
215/256

第193.5話 その頃のマリティア


 朝。

 マリティアはいつもより少しだけ遅い時間に体を起こして枕元に置かれたベルを鳴らした。

 すぐにカーテンが開かれて、シャナの後任で筆頭側仕えとなったタリア・シルヴィーが顔を覗かせた。


「おはようございます。マリティア様」

「おはよう。湯浴みの支度は出来ていて?」


 シャナは既に婚姻の手続きが済んでいる。

 聖ゾフィー帝国の籍から正式に聖オリヴィエール帝国の籍に移った彼女はもうマリティアの世話が出来る立場ではない。

 なので、一日に一度側近仲間のもとに引き継ぎの確認に訪れるだけ。マリティアはその姿を見ることはほとんどなくなった。

 少しの寂しさを拭えずにいる表情に気づいてタリアは苦笑する。


「勿論でございます。といいたいところですが、今朝は思いのほかゆっくりとした御目覚めでしたので、少し湯が冷めてしまいました。すぐに整えさせますね」


 ふふっと笑うタリアは、シャナよりも気さくにマリティアに接する。

 レスティオの側近たちは随分距離が近いようだからと、その姿を参考にして彼女なりに寄り添おうとしてくれているのだ。

 公爵家の侍女としては教育不足と見られかねないが、今のマリティアには悪くないと思える。ひと回り年上でも年の差など関係なく女友達の様に話せるのは楽しく心安らぐ。


「今日は、城内で祝い事があるようです。カーストン家の当主交代だとか。折角ですから、御召し物は赤のドレスに致しましょうか」

「タリアに任せるわ」

「有難うございます」

 

 衣装選びのセンスで言えば側仕えの中で誰よりも理解しあえたのがタリアだった。

 マリティアの思い描くデザインの実現に尽力してくれたことには感謝とともに信頼している。

 

 湯浴みも着替えも終える頃にはテーブルに朝食が用意されていた。

 聖オリヴィエール帝国の城で作られ、聖ゾフィー帝国の者が毒見した料理を出してもらった料理だ。

 三食美味しい食事が食べられるのは幸せな事なのだと思いながら席に着く。

 残念なことは、ノイを聖オリヴィエール帝国の料理人が使う厨房には入れられないので、このレシピは舌で感じ取ってもらうしかない。他国の料理人を指導してくれることは、教える側の国が抱える聖なる御方の気まぐれでもない限りあり得ないのだ。


 朝食も済ませればその後にすることはない。


 聖ゾフィー帝国にレスティオがいた時には、大半は魔物討伐に出ていた。

 それはイレギュラーなことで、大陸会議の後に他国に移動した場合、祝いの日まで滞在させてもらう時にはただその日が来ることを待つしかない。

 大陸会議の内容を内部で議論したり、運よく滞在地あるいは共に滞在している国の使者と予定が付けられれば会談なども設けられる。だが、聖ゾフィー帝国は今聖女の存在が認められたばかりでマリティア自身が直接対応を求められる状況にはない。


「レスティオ様に言ったら、鍛錬に付き合わせてくれるかしら」


 バルコニーに出ると、聖オリヴィエール帝国の街並みが見える。

 単独での滞在ならまだしも、多数の他国の目がある中では外出も認められない。

 さりげなくタリアがヴェールを被せてきて、ふっとため息が出る。


「マリティア様?」


 聞こえてきた声に振り返ると、離れたバルコニーにミーナ・アデルの姿があった。すぐに部屋の方からデイジー・アインツとハンナ・アイリーンが飛び出してくる。

 レスティオにお茶会の打診はしているが、レナ・カミキの情報を共有できる場は設けられていない。まだ考えあぐねている案件が身近にあったんだったと思い出した。


 正直、彼女たちとの再会が全く以て嬉しくない訳ではない。

 貴族社会の友人として、学友として、共にいる時間は長かった。

 ただ、ルヴァイエとのことがある以上、付き合い方にはどうしても慎重になってしまう。


 思わず視線を落とすと、丁度、下に見知った姿を見つけた。


「ネルヴィ!」

「ぇ、あ……」


 護衛の任に就いていない時の整えられていない髪のままのネルヴィが顔を上げる。すぐ後ろを歩いていた男性兵も顔を上げて驚いた様子を見せた。

 二人ともマリティアの姿を確認すると敬礼する。

 ふと、思い立って、レスティオなら許してくれるのではないかと思い、手を伸ばした。


『そちらへ降りてもいいですか?』


 宙に魔力結晶の文字を描いて尋ねると、ネルヴィは首を傾げた。隣にいる男はさらに驚いた様子で狼狽している。


『オルフェは私が受け止めればよいですか?』


 ネルヴィに問い返されて、マリティアはきょとんとした。

 確かに一人で降りるのは他国ではあってはならないだろう。レスティオも必ず誰かは側近を連れていた。


「タリア。オルフェを呼んでもらえる?」

「御召し物はそのままでよろしいのですか?」

「このドレスなら問題ないわ。あぁ、剣は持っていこうかしら」


 すぐに準備を整えると返すと、ネルヴィは笑顔で大きく頷いた。

 部屋に戻ろうと身を翻すと、戸惑う表情のデイジーたちが見えた。


『部屋を抜け出して共に鍛錬でもいかがです?』


 母国ディアブロ王国の言語であるファム語を描いて見せると、彼女たちは表情を輝かせて顔を見合わせる。


「マリティア様。御用でしょうか」

「えぇ、オルフェ。ちょっと付き合ってくださいませ」


 マリティアはタリアから差し出された剣を受け取ると、笑顔でバルコニーから飛び降りた。

 自分の身は風の魔術で浮かせて難なく着地させられる。上を見上げると、オルフェは表情を引きつらせていた。


「ぇっ……あぁ、もうっ!貴方って人はっ!」


 ネルヴィが受け止めるべく構えると、意を決した様子でバルコニーから飛び降りた。

 ふわりと風が落下の勢いを和らげ、ネルヴィと共にいた男がバランスを崩しそうになる身体を抱えるようにして支えた。

 その様子を横目に確認して、マリティアは剣帯を腰に巻きつけながらデイジーたちのいるバルコニーの下へと歩みを進めた。


『受け止めて差し上げますから、どなたからでもいらっしゃいませ』


 再び文字を描くと、すぐさまデイジーが飛び出してくる。

 躊躇いの無い行動に流石だと思いながら、スカートが翻らないように気を付けて風の魔術で落下の勢いを殺す。


「ちょっ、危ないですよっ!」

「ひゃっ……」


 焦ったような声と共にオルフェがデイジーへと手を伸ばして抱き留めた。


「マリティア様。彼女たちは魔術が使えないのでしょう。なにかあったらどうするのですか」

「彼女たちだから、魔力が無くても大丈夫だと思っているのです。いつまで女性を抱えているおつもりかしら」


 マリティアは、オルフェの苦言にむっとして言い返す。

 抱えられた腕から下りたデイジーは訝し気な表情で礼を言うと、後の二人は自分が補助すると身構えた。

 ハンナとミーナが続けて飛び降りてくると、見つかる前にとマリティアは訓練場への案内をネルヴィに頼んだ。

 

「そちらの方は初めてお会いしますよね?」

「ぁ、聖オリヴィエール帝国軍騎士団ジンガーグ隊ヴァスクール小隊所属ブロワーズ・バルリングと申します」

「あら、ヴァスクール小隊ということは優秀な方なのですね」

「はい。頼りがいのある仲間です」


 ネルヴィがすぐに頷き返すと、ブロワーズは居心地悪そうに視線を逸らした。

 騎士団の訓練場に到着すると、訓練場を所狭しと使い訓練に励む姿があった。


「パドロン隊長!マリティア様が訓練に参加したいそうです!」

「はぁっ!?おまっ」


 ネルヴィの声に訓練の動きが止まって注目が集まる。

 振り返ったライネルにマリティアは会釈をして笑顔で腰に下げた剣に手を添える。

 木剣をフランに投げ渡してライネルはマリティアの前へと駆け寄ってきた。


「マリティア様、昨日は宴にご参加いただきまして有難うございました」

「突然来てしまってごめんなさい。私の方こそ、御招き有難うございました。聖オリヴィエール帝国の皆様との宴は、時間を忘れるくらいに楽しいもので、また機会がないかと願ってしまいます」

「それは……それほどまでに楽しんでいただけたなら良かったです」

 

 ライネルは恐縮した様子で挨拶を交わすとマリティアの後ろに続いていたデイジーたちを目に留めた。

 

「そういえば、マリティア様。そちらは?」


 視線の動きを追ってネルヴィが首を傾げると、ライネルはぎょっとした。

 

「って、お前っ!知らずに連れて来たのかっ!?」

「あれ、パドロン隊長がご存知の方ですか?」

「いや知らない。だからこそだっ!身元を知らない者を普通ここまで案内するものじゃないだろう。お前は聖騎士筆頭護衛騎士の立場だった時に、良く知りもしない者がレスティオ様の近くに来ることを許したか?」


 当時を思い出せと指摘されたネルヴィは今まさに気づいた様子で警戒の姿勢を取る。

 しかし、今から警戒したら失礼だろと後ろからブロワーズに頭を叩かれて、情けなく項垂れた。


「失礼。紹介しておりませんでしたね。こちらは聖アルジェア王国に召喚された女性たちです。私と同じディアブロ王国の貴族と言った方が、皆様はこちらに連れて来た理由を理解しやすいかしら」


 マリティアの試すような紹介に、ネルヴィは表情を一変させた。


「マリティア様のように強いということですかっ!」


 すぐに納得したネルヴィに対してブロワーズは首を傾げる。

 ディアブロ王国の貴族は鍛えてるから強いんだよ、と説明する様子をライネルは咳払いで黙らせる。


「知らなかったとはいえ、ご無礼をお許しください。聖オリヴィエール帝国軍騎士団隊長ライネル・パドロンと申します。至急、団長に訓練場の使用許可を求めますので暫しお待ちいただけますか?」

「あまり大事にはしたくない、とはいえ。他国の軍訓練場ですものね。よろしくお願い致します」


 その後、デイジーたちを紹介し、許可を得たうえで訓練用の木剣を受け取った。

 騎士団の中でも最近新調されたものをなんとか4本集めたライネルは、ドレス姿で木剣を持つ女性たちに違和感を感じつつも空けた場所へと促す。


「周囲は様々な訓練をしておりますので、こちらも注意しますが、どうぞお気を付けください」

「ご丁寧にありがとうございます」


 マリティアはヴェールをオルフェに投げ渡し、デイジーたちを振り返った。


「先日は不甲斐ない姿に呆れましたが、私との手合わせに値する腕はおありで?」


 木剣を構えて鋭い瞳を見せたマリティアに対し、怯むどころか表情を引き締めて揃って姿勢を正す。


「正直、鍛錬の時間も与えられず、鈍っていることと思います。しかし、ディアブロ王国第一王子アドヴェルト・ドーラ・ディアブロ殿下の婚約者として、不甲斐ないと言われて黙ってはいられません」

「マリティア様と手合わせ出来るならば、鈍ったままではお恥ずかしいこと。デイジー様が手合わせをしている間に肩慣らしに付き合ってくださいませ、ミーナ様」

「はい!こちらこそよろしくお願いします」


 ハンナとミーナが横にずれると、マリティアは即座にデイジーと間合いを詰めた。

 初撃を木剣で受け止めると、ドレスの裾を蹴って体勢を取り直して反撃に転じる。


「マリティア様は鈍るどころか一層動きが鋭くなっていますね」

「流石ですね。敵う気がいたしません」


 剣戟の合間にマリティアの動きを観察するハンナとミーナ。

 ドレス姿でありながら周囲の兵たちに劣らないどころか激しい攻防を繰り広げる様子に訓練の手も止まる。


「次っ!」

「はいっ!」


 デイジーがマリティアの剣に押し負けて地面に転がると、すぐにハンナがマリティアの方へと飛び込んでいく。

 立ち上がったデイジーは邪魔にならないように木剣を拾ってミーナに向かって行く。

 順にミーナまで相手をしたところで、マリティアは木剣を下ろしてため息をついた。


「やはり鈍っていますね」

「返す言葉もございません」

「まぁ、私もゾフィー帝国の聖騎士として立つまでは鍛錬も出来ず鈍らせていました。貴方がたもディアブロ王国の貴族としての気概があるならば鍛錬を再開しておきなさい」


 マリティアの言葉に「はいっ!」と威勢よく返事をする。


「パドロン隊長!皆様の剣術訓練に私と彼女たちも混ざってよろしいかしら」

「はっ!有難く申し出を受けさせていただきます!」

 

 貴族令嬢らしからぬ気迫で手合いに望む彼女たちに兵たちも徐々に盛り上がっていき、剣術以外の訓練をしていた者も集まった。

 代わる代わる手合いを続けている間に時間は過ぎていく。


「そこまで!本日の訓練は以上!各自片付けの後、持ち場につくように」

 

 ライネルの掛け声に兵たちは訓練を止めた。

 マリティアたちもピタリと動きを止めて訓練に付き合ってくれた者たちに礼を言う。


「パドロン隊長。彼女たちと少し話をしたいのですが、もう暫し場所を借りられますか?」

「すぐに済むような話でしょうか?部屋の用意が必要ですか?」

「以前にレスティオ様が私に説明してくださったように、彼女たちにこの世界の事を話したいのです」


 その説明だけでライネルはゾフィー帝国遠征の道中でレスティオが雪に描きながら話をした時のことを思い出す。

 神々と世界の関係。召喚の儀の実態。聖なる者たちの立場と役目。

 説明を聞いて、生気を無くしたマリティアの瞳に力強さが宿り、兵の誰もが及ばない実力を発揮し始めた。

 視線をデイジーたちに向けて、ライネルは大きく頷いた。


「会議室をひとつ身を整えるために確保しましょう。ですので、よろしければマリティア様からの説明を派遣団に同行していなかった者たちにもお聞かせいただけませんか?説明がしやすいように黒板と板筆を用意致しましょう」

「わかりました。お気遣いに感謝いたします」


 ライネルは小隊長に目配せをして騎士団本部と魔術師団本部へと走らせる。

 取り急ぎ用意した会議室に新品のタオルと湯桶が運ばれると、部屋の前にはオルフェを立たせて汗を拭う。


「あの、マリティア様。お話ならばルヴァイエ殿下とホリック様にもお越しいただいた方が良いのではありませんか?」

「貴方たちから伝えたらよいではありませんか。私とてパドロン隊長の好意に甘えていますが、この国では自由に動ける身ではないのですよ」


 簡単に汗を拭ってお互いの身なりを整え合う。

 ディアブロ王国では側仕えに整えさせるばかりではなく、多少の整えは自分で出来るように教わる。学園の授業でも武術を習うが、校内に側仕えが控えていないので、淑女として訓練で乱れた姿のまま校内で過ごすわけにはいかなかったのだ。

 

 会議室を出ると、オルフェと共に控えていたドレイドとファリスの案内で騎士団の食堂へと移動した。

 前方の黒板にはユハニが世界の図式を描いているところで、描き終わるのを待つ間にお茶とクッキーの持て成しを受ける。


「急な呼びかけだったでしょうに随分と多くの方が集まったのですね」

「貴重な機会ですから」


 お茶の間にも食堂には騎士や魔術師が入ってきて、マリティアたちが座るテーブルから一定の距離を置いて所狭しと人が立っている。

 ユハニが描き終わると、マリティアはレスティオから聞いた話を語り始めた。


「そういう訳で、私はこの世界共々我が世界を救う為に、聖ゾフィー帝国の聖騎士として尽力することを決めたのです」


 一気に話を終えると、マリティアは皆の反応を見渡す。

 つまりはどういうことかと囁き合う声も聞こえてくるが、厄災対応は世界共通の課題であり、厄災に立ち向かうことはこの世界だけの問題ではないということは伝わっている様子だった。

 

「我らの世界を守る為にも戦う必要があったにもかかわらず、なにもせずにただ流れに身を任せるばかりの私たちにあきれていらっしゃったのはこういうことだったのですね……」

「私とて、この話を聞くまではただ理解出来ぬ状況に気を落とすばかりでした。このことを知った上で貴方たちが何を為すのかは、聖アルジェア王国の方々と話し合ってくださればよいかと思います」


 以上と場を締める。

 最低限必要な話は済んだ。聖ゾフィー帝国の聖騎士として、聖アルジェア王国の事情に要請も無しに関わり過ぎるべきではない。

 そう言い訳をしてマリティアは案内役として魔術師を一人伴って一足先に城へと戻った。


 

 

 


「あら、マリティア様ではございませんか?」


 かけられた声に振り返ると侍女と聖オリヴィエール帝国の兵を連れたレナの姿があった。

 

「ごきげんよう、レナ様。そちらもお散歩ですか?」

「はい。ずっと部屋に籠っているなんて、息が詰まってしまいますよね」


 途中まで一緒に行きましょうと隣に並ぶ彼女をマリティアはじっと観察する。

 デイジーに話を聞いてから今日まで接点といえるほどのことはなかった。


「ぁ、ご一緒は迷惑でしたか?マリティア様」


 不意に身を引くような素振りで問いかけて来るレナに、ヴェールの下でふっと笑む。


「迷惑だなんて聖女様相手に言いませんわ。ですが、ここは聖オリヴィエール帝国の城内。聖女としての振る舞いにはお互いに気を付けませんと」

「やはり迷惑だったのですね。私、マリティア様とも仲良くなれたらと思っていたのですが、残念です」


 お先にどうぞ、と足を止めたレナを振り返り、周囲の戸惑う雰囲気に既視感を覚える。

 気落ちした様子に侍女がその肩を支え、聖オリヴィエール帝国の兵が気遣うように視線を彷徨わせている。


「ゆっくりお話をというならば今度レスティオ様も交えて茶会の席を設けて頂きましょうか。リアナ様」

「まぁ、本当ですか?私、楽しみにしていますね。マリティア様」


 ぱっと表情を輝かせたレナだったが、他の者たちは驚いた顔でマリティアとレナを見つめた。


「リアナ様とは生憎お茶会の機会がありませんでしたからね。私も楽しみにしておりますわ」

「は……ぁ、え?やだわ、マリティア様。私の名前は……」

 

 名前を繰り返されてようやく気付いたレナは引きつった笑いと共に肩を竦めた。

 手の震え方を見て、マリティアは一歩距離を詰める。


「リアナ・ユーグレスト様。ですよね?レスティオ様も貴方のことは興味深く思っておられるのですよ。転移時に姿形を変えた貴方の存在の特異性を」

「なっ……」


 言葉を失った唇がヴェールの下で震えている。

 色の濃い紅のおかげでよくわかる動きにマリティアは冷めた気分になった。

 

「……もしかして、デイジー様の思い過ごしだったのかしら?だとしたら、私、すぐにレスティオ様に訂正のご連絡をしなければ。私の勘違いでお忙しい中お茶会の時間を作って頂くのは恐縮ですもの。オルフェ、シャナに言ったらすぐに取り下げてもらえるかしら?」

「ぇ、あぁ、そうですね。シャナは今はオリヴィエール皇妃陛下の側仕えですから、レスティオ様の側仕えにならば、すぐに連絡は出来るかと思いますが」


 戸惑いに首を傾げながら応じるオルフェにマリティアは頷いた。

 受け答えはそれでいい。

 

「お茶会には、レスティオ様と私と、リアナ様とお話して許可を頂いていましたからね。お茶会の開催理由も参加者も変わる以上、一度取り下げて申し入れし直すのが礼儀です。謝罪の席として、二人でお詫びのお茶会をと言ったらレスティオ様は応じて下さるかしら」

「レスティオ様ならマリティア様からのお誘いには喜んで応じて下さるのでは?道中もお茶会や酒席を共にしていたのですから」


 少し悩まし気に言えば、相談と理解してオルフェは応じる。

 そこに、はぁっ!?と声を上げたのはレナだった。


「あんなにルヴァイエ様を慕って純情ぶっておいて、レスティオ様に乗り換えたっていうのっ!?聖ゾフィー帝国の為とか言い訳して浮気だなんて、婚約者だったルヴァイエ様が可哀想……」


 軽蔑を孕んだ声音にマリティアは鼻で笑って返す。


「あんなに。ねぇ?」

「…………」

「お茶会の件は嘘ですよ。正体の知れぬ貴方を不用意に招く訳がないでしょう」


 オルフェに声を掛けて部屋に向かって歩き出す。

 部屋に戻ったらレスティオに手紙を書いてひとまずの状況を知らせようかと考え、ヴェールの下でそっとため息をついた。



その頃の~シリーズ。

彼女たちの出番がなさ過ぎたので挿し込み。


次回以降時間予約時のスクロールがめんどくさいので19時投稿に変えようかなと思ってます。

覚えていたら。

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