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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖なる集い編
212/256

第191話 騎士団の宴(1)



 トレリアン邸の魔物学資料館化については、ユーリアの承諾を得て、聖騎士直轄として議会承認を受けた。

 話し合いの末、これから一層重要視されるだろう魔物学の中心施設として屋敷は買い上げることが決まった。

 それに伴い、資料館の管理人となるユーリアは出産に備えつつも開業までに管理人としての勉強を積むべく、聖騎士特待生寮の離れに移住した。特待生ではなく聖騎士直轄施設の関係者なので異例ではあるが、レスティオの意向が最優先とされた結果である。

 同時に城で蔵書管理を担っていた文官ソネル・パングーが資料館へ移籍することが決まり、レスティオやユーリアと共に運営方針や屋敷の改装計画の検討を始めた。

 

 ロゼアンがカーストン邸に荷物を運び出し終えると、ミアとユハニの引っ越しが本格化する。と言っても、二人とも宿舎住まいなので荷物は多くない。最低限の荷物を移した後は特待生としての振る舞いや今後の計画、衣装の用意などが忙しくなる。

 それらの調整事に関わらざる得なくなったセバンは「なんで俺がこんなことを」と愚痴を言いながらも、特待生の先輩として世話を焼いていた。

 レスティオはその様子を微笑ましい気分で見守る。


「クォートの方も引っ越しは落ち着いたか?」

「えぇ、エレクが意を汲んで良く動いてくれているようで助かっています。使用人たちも庶民である我々に快く接してくれていますよ」


 筆頭護衛騎士として隣の自身の屋敷の引っ越し作業ではなく、レスティオに同行していたクォートは慌ただしい屋敷内に肩を竦める。

 立場的に積極的に手伝えない申し訳なさがあるのだろうと思いつつ、レスティオは手にしたパルワという赤い果実の皮を剥く。

 今晩は騎士団本部の食堂でゾフィー帝国派遣団の打ち上げを催す。それも、東部派遣団の打ち上げ、聖騎士直属護衛部隊就任祝い、ユハニの皇室認定特待生内定祝い、ロゼアンのカーストン家当主就任祝い、ミアの指導官就任祝いと全て兼ねて盛大に行うことになっている。

 折角の宴席なので、レスティオは特待生寮の入退寮に立ち会う為と言い訳をして、今朝早くから城を抜け出してキッチンで料理の仕込みをしていた。


「レスティオ。手伝うか?」

「えー、ミアは料理出来るの?」

「軍学校で習うだろ。それも必修」


 軍人として任務に万全を期すためにも食事は重要だ。

 基本的な調理器具の扱いから、一般的な家庭料理、行動食、非常時のサバイバルを想定した料理など教えられる。

 思えば、異世界に食文化を伝えるために練られたカリキュラムだったのだろう。

 

「じゃあ、ラザーニャが食べたいなぁ。東部から仕入れている麦粉の種類がパスタに適してるデュラム粉だったんだよ」


 麦粉と呼ばれるだけのモノを細分化する為の装置を作ってもらえたことは今後大いに役立つだろう。

 そう思いながらパスタを練ってもらうべく配分を指示する。

 流石にそこまではやったことがないと言いつつ、ミアは指示に従って作業を始める。

 

「ぁ、そうだ。クォート。そちらの屋敷には広間があるだろう?人数も多いし、昼食はそちらを使わせてもらえるかな。料理は差し入れるから」

「嫌とは言わないでしょう。エレクも招きましょうか」

「是非そうしてくれ」


 クォートはシルヴァにこの場の護衛を任せて自宅へと向かった。

 手伝えないことが気がかりのようだったので、せめて労いになればいいなと思いながら、メノンが作ったソースの味を確認した。





 

 マッシュポテトと野菜を詰めたキッシュ。

 パスタ生地にミートソースを挟んだラザーニャ。

 一口サイズのハンバーグや、芋などの野菜の素揚げにサーレやリカトラウスなどの香草を掛けた品など。

 運び込まれてくる聖騎士の料理に、フランドール邸の料理人は躊躇いがちにテーブルの隅に自分たちの料理を置いた。


「トーラス、突然すまなかったな。先程も言った通り、レスティオ様の昼食会は使用人も同席する。支度が出来次第、皆を集めてくれ」

「畏まりました。旦那様と聖騎士様の御心のままに」


 やや引きつった表情でクォートに応じるのは使用人頭のトーラス・ローグ。

 聖騎士の名が肩書きに付くということはこうして振り回されることなのだとクォートは言い、レスティオは軽く笑って誤魔化した。

 

「ユーリアさん、身体は大丈夫ですか?生まれるのはもうすぐかしら」

「そうですね。もうすぐだとは言われています。早く生まれてきて欲しいものです」

「名前はもう決めているの?」

「はい。男の子ならグラディウス、女の子ならクラウディアです。子供が出来ないながらにそういう話はしていたので夫が考えた名前を付けられそうで良かったです」


 広間の端に置かれたテーブルでは身重のユーリアの側にリッシェが座って談笑していた。

 リマが今日の給仕は任せてくれを笑い合う様子を遠目に眺めていると、エレクがテトラをエスコートして広間に入ってきた。


「筆頭。昼食会に御招き頂き有難うございます」

「招待すると言ったのはレスティオ様だ。私は場所を貸しただけに過ぎない」

「レスティオ様、有難うございます。ご報告遅れましたが、この度テトラ・フランドール様との縁を結び、婚姻の儀に参加することとなりました。その後、私はエレク・フランドールと名を変えることとなります」

「婿入りに決まったのか。二人ともおめでとう。晴れ姿を楽しみにしているよ」

 

 話をしている間に、おずおずと探るようにフランドール邸の使用人たちが広間に集まる。

 彼らについて資料だけで知っていたレスティオは後で紹介を頼んで、先に昼食会の開始を宣言した。

 立食になっているだけで特待生寮の者たちにとっては普段と変わらない食事の席だ。

 

「トーラス。レスティオ様の食事会では使用人だからと遠慮してはならんぞ」

「ヴィム殿……とはいえ、聖騎士様の前です。緊張もご理解ください」


 レスティオとクォートはエルドナのグラスを交わし、その間にリンジーが用意したキッシュとラザーニャを盛った皿を受け取って食べ始める。

 

「シーズ、ヴェイグ。料理人ならばレスティオ様の料理の味は覚えておいた方がいいぞ。無くなる前に食べて置け」


 エレクの口添えで皿を手に取る二人は勧められるまま料理を手に取って口に入れる。


「おっ、おぉ……これは美味い」

「スープだけだって覚えるのに苦労したのに。こんなに美味いレシピがまだあるんですね」

「あぁ、レスティオ様の料理は本当に美味いものばかりだろう。テトラさんは好みの料理はありましたか?」

「このキッシュは時々お父さんが作ってくれる料理に似てて食べやすいよ」


 戸惑いながらも皆料理を食べ始めたのをみて、レスティオはクォートの袖を引いた。

 それを合図にクォートはヴィムと談笑しているトーラスの許へ移動した。


「トーラス。レスティオ様に紹介したいと思うがよいか」

「はい!光栄に御座います!」

「レスティオ様。この者が使用人頭のトーラスです」

「トーラス・ローグと申します。以前は、皇室付きの城仕えをしておりました」


 灰色の髪を綺麗に整えた姿には覚えがあった。

 その事を口にすると繰り返し感謝を口にして、メノンと話をしていた妻のエネレを呼びつけた。

 エネレ・ローグ。前歴は皇室側近付きの上位城仕え。トーラスの妻であり、赤みがかったオレンジ色の髪を編んだ壮年の女性。


「側近付き?」

「側近用の宿舎勤務だったということでしょう」

「なるほど。そちらは、ロデリオの側にいるのを見たことがあるが挨拶はしたことが無かったかな?」


 近くに控えていた濃い灰色の色彩を持つ凛々しい青年に声を掛けると、姿勢を正して前に出て来た。


「テリウス・ローグと申します。ロデリオ殿下の中位側仕えを務めておりましたので、大陸会議場や酒席にお越しくださった時にお会いしていたかと思います。覚えていてくださって光栄です」

「こちらの使用人には自ら名乗りを上げてくれたとか」

「レスティオ様の人となりを理解した者がいた方がよかろうと募集が掛けられた際に立候補致しました。誰が筆頭になっても一度は交流したことがある私ならば対応できるとロデリオ殿下の承諾を得た次第です」

「テリウスは自分で言っている通り、良く尽くしてくれています。エレクとも気心が知れているようですから、上手くやってくれるでしょう」


 頷いていると、使用人が挨拶していると気づいたのか、他の者たちも食事の手を止めて側に控えていた。

 レスティオは挨拶を済ませた者たちに食事を楽しんでくれと言って、ラザーニャは新作なのだと勧めると、残りの使用人たちの方へと移動した。

 

「そちらはこの屋敷の料理人だな。料理は気に入ってくれたかな?」

「は、はいっ!実に美味しい料理で感動いたしました!料理長のシーズ・オーヴィスと申します。皇室付きの料理人をしておりまして、聖騎士様のレシピの再現が認められてこちらに推薦を受けました」

「へぇ、こちらの屋敷で応用でも新しいものでもレシピを考えたら是非教えて欲しいな」


 短く刈り上げた青い髪を掻いて、シーズは恐縮するように頷いた。

 隣に視線を移すと濃い茶色の髪がくるくるとさせた若い青年が一層緊張した表情で全身を震わせた。


「ヴェ、ヴェイグ・カロンと申します!料理人です!ぁ、えっと、城の食堂で料理を作ってました!まだスープしか作れないですが頑張ります!」

「だそうだよ、クォート」


 意気込み十分の料理人で羨ましい限りだ。

 クォートを振り返ると満足そうに頷いていた。

 

「後で是非ともヴェイグが作ったスープをお召し上がりになってみてください。将来有望だからと引き抜かれては困りますが」

「おや、そこまで言うのか。それは楽しみだな」

 

 レスティオが笑うと、横からスープの皿とスプーンが差し出された。

 短く整えられた青みがかった髪に人形のような無表情だが整った容貌が目に留まる。


「ヴェイグが作った野菜スープにございます」

「仕事が早いな。頂くよ」

「よろしければ毒味を致しましょうか。その者はハイリ様の側仕えの娘ですから」


 明るい茶色の髪をきっちりとまとめた年若い女性の棘のある言葉に、ヴェイグが慌てる。

 レスティオは関係性に首を傾げながらスープを一口飲む。


「うん。雑味がほとんどない。丁寧に作られていて美味しい」

「レスティオ様。こういう時には護衛騎士に毒味を命じるものではありませんか」

「ここはクォートの屋敷だろ?毒味が必要だなんて思わない」


 スープを飲みながら警戒心もなく言うレスティオにクォートはため息をついた。

 軽度の毒であれば耐性があり、聖の魔術による解毒も可能。さらにはすぐ近くにユハニまで控えているのだから恐れる状況はない。とはいえ、筆頭護衛騎士としては少々肝が冷える。


「メイビー、リプラ。ご挨拶を」

「メイビー・カロン。ヴェイグの妻で元城仕えです。聖騎士様に御目通りが叶って光栄ですわ」

「リプラ・オーヴィスと申します。私も元城仕えで、シーズの娘です。使用人の身でありながらご挨拶の機会を賜り光栄にございます」


 笑顔いっぱいのメイビーに対して、リプラは沈んだ表情で礼儀正しく頭を下げた。

 前で合わせられた手は片手をきつく握っていて、思うところがある様子を窺わせる。


「皆家族のようだが、リプラは未婚なのか。最近聖ゾフィー帝国の聖女様に側近や使用人の結婚を考えるのも主人の務めと教わったところだが、クォートにもその教えを伝えておくべきか」

「あぁ、テリウスとリプラが丁度独身同士ですが、テリウスはラビ王国からの移住者に追加があれば娶る予定だとか。籍を移してもロデリオ殿下に尽くすつもりの御様子です」


 リプラが視線を背けた横でメイビーが得意げにテリウスの事情を語る。

 ハイリの名前を出した時から感じていたが、この手の噂好きは少々扱いに気を付ける必要があるだろうなと思いながら視線をずらせば、テリウスが若干迷惑そうに表情を歪めていた。レスティオの視線に気づくとすぐ笑顔を繕ったが、やや気まずそうな引きつりが残る。

 

「クォートは俺の筆頭護衛騎士だし、エレクも皇室付きになったんだから、根回しや情報収集の伝手のつくり方をテリウスから学ぶこともありそうだね」

「……なるほど。使用人があらかじめ決められていたことを思えば、筆頭としての振る舞いについて教育の意図がそもそもあったのかもしれませんね」


 真面目に考え込むクォートにレスティオは小さく笑い、テリウスによろしくねと声を掛ける。

 引きつっていた表情が今度こそ和らいで、距離があったこともあり会釈が返された。

 

「あの、私は結婚を望んではおりませんので、気に掛けて頂く必要はございません」


 控えめに声を発したリプラに、シーズがどこか残念そうな顔をする。メイビーは素知らぬ顔だ。

 

「そうか。まぁ、俺も人のことは言えないし、強要するつもりは勿論ないよ。ただ、母のことで肩身を狭く感じているなら、皇室が信頼してこの屋敷の使用人を任せたのだということを思い出して」

「ぁ……ありがとうございます」


 表情は変わらないままだが、丁寧に頭を下げた彼女は毒殺など考えるようには見えなかった。

 リプラにシーズが作った料理を取ってもらい、それぞれに気に入った料理はどれかと尋ねる。

 ラザーニャを食べたリプラがクリームソースでも食べてみたいとぽつりと口にして、余っているパスタ生地を融通する約束をした。

 

「料理長。トリスお嬢様が戻られたら、きっと自分が参加出来なかったことを嘆かれるでしょうから、夕食にどうでしょうか?」

「うーん、それまでにモノに出来ればいいんだが」

「不安なら、特待生寮に習いにきたらどうだ?ヴィムやメノンも料理人の手があったら楽になるだろう?」

「レスティオ様ったら、そう簡単に使用人を共有しないものですよ。まずはクォート様の許可を得ませんと」

「娘の機嫌を思えば断る理由があると思いますか?」


 娘の一喜一憂に苦労する父の言葉にレスティオは笑うのを堪える。

 その後、帰ってきたトリスは案の定「私がいない間にずるい!聖騎士様に会いたかった!」と嘆いたが、本日初披露の聖騎士の料理を前にあっという間に機嫌を取り戻したとか。

 




 

 夕食の時間を迎えてなお、帝国軍騎士団本部の食堂には大量に酒樽と食材が運び込まれる。

 厨房では料理人のケンリー・トッドとリシェリ。そして、手伝いに加わったナルークとユハニが休む間もなく調理を進めていた。

 

「おーい、特待生寮からの差し入れ届いたぞー」

「並べるの手伝えー」


 大荷物を抱えたセバンとロゼアンが入ってくると歓声と共に準備していた兵たちが集まって各テーブルに料理を配っていく。

 食堂に人が集まってくると、至る所で腹の音が聞こえてくる。


「おーい、レアム!レスティオ様呼んできていいぞ!」

「はーい!」


「今晩は。学長から差し入れを頂いてきました」

「うわ、凄い料理……」

「ぁ、アッシュ!ダニル!東部派遣団はひとまずこっちのテーブルで!」


「出来た料理持っててー!厨房に置き場所ないからっ!」


 忙しない中、ドレイドを先頭にレスティオとマリティア、そして、それぞれの護衛達が食堂へと入ってくる。

 ヴェールではなくフード付きのローブで顔を隠していたレスティオとマリティアはフードを外すと賑わいに顔を見合わせた。


「良い賑わいですね」

「酒宴はこうでないとですよね」


 上品なパーティーに慣れつつも、軍人たちの馬鹿騒ぎも悪くない。

 ドレイドは笑い合う二人に安堵して席を勧める。

 

「御二方はまずはこちらの席にどうぞ」

「皆、折角の御招きなのですから護衛に支障を来たさない範囲で楽しんでくださいませ」


 マリティアの許しにゾフィー帝国の兵たちは浮足立った様子で返事をして、顔を知っている者に声を掛けながら席について行く。

 各テーブルに酒瓶やヴィシュールのピッチャーが置かれ、宴の開始が近くなると一層賑やかになる。


「ギョーザ焼けましたぁっ!」

「団長!熱々が美味しいんで、挨拶は手短にお願いします!」

「グラス持てぇー!一杯目は一気に飲むのが聖騎士様流だぞ!」


 既に酔っぱらっているかのようにテンションの高い者たちの姿を見て、マリティアは新鮮だとシャナと一緒に笑う。

 その横でヴィシュールのジョッキを手に落ち着かない様子のノイの元にそろりとナルークが近づき肩に手を置く。


「マリティア様。ノイを厨房にお借りしても良いですか?ここの料理人にも弟子を紹介したいのです」

「あら、どうぞ」

「今度はどんな料理を学べるのか楽しみですね、ノイ」

「えぇっ!?は、はいっ!行ってまいりますっ!」


 厨房でギョーザに夢中だったケンリーとリシェリは、酒を手に料理人仲間が来ると自分たちも乾杯の用意を始めた。

 もういいだろっと急かす声が高まってくると、ドレイドが咳払いと共に前に出る。


「静粛にっ!」


 ドレイドの一声でぴたりと鎮まる。


「えー、本日は聖ゾフィー帝国の聖騎士マリティア・リエイラー・スクワロー様を始め、ゾフィー帝国軍の皆もお集まりいただきまして誠に有難うございます。この度、我ら聖オリヴィエール帝国の騎士団には詳細は割愛しますが様々な慶事がございまして、聖騎士レスティオ・ホークマン様のご後援のもとこうして祝宴を催す運びとなりました。聖騎士様方に心からの敬意と感謝を!」

 

 いつもはなにかを祝してと締めるところを、感謝の言葉に変えたドレイドに兵たちはすぐに反応してレスティオとマリティアの方へとグラスを掲げる。

 レスティオはマリティアに耳打ちしてグラスを掲げる。


「「皆の誠意に感謝を!」」 


 一斉に酒を呑み始め、一気に食堂内は賑わいを増した。

 ルカリオとシャナが早速給仕に動き出し、レスティオは気にせず食べなさいとルカリオの口元にギョーザを突き出す。

 

「ぅっ……」

「毒見と思って」

「いただきますっ!」


 大義名分を得て食いつくと、口の中に広がる旨味に表情が輝く。

 ヴィシュールを勧めるとあまり得意ではないという表情をしつつも、一口飲んで衝撃を受けた表情になった。


「初めてヴィシュールを美味しく感じましたっ!」

「酒は食べ物との組み合わせも大事だからな」

「こうして食べて見ると、昼間に作っていらっしゃったパスタとギョウザのこの皮はものが違うのですね」

「材料になる麦が違うんだよ。この世界では全部まとめて麦粉というけれど、その成分によってそれぞれに適した用法があるんだ」


 パスタという言葉に反応したマリティアはどれのことかしらとテーブルの上の料理を見渡す。

 見慣れない料理はいくつかあるが、一見折りたたまれて焼かれただけのパンを目に留めた。

 

「レスティオ様。こちらの料理もレスティオ様の世界のものですか?」

「はい。これはルコーリといって、パンに近い柔らかい生地で肉や野菜を包んだものです。手で食べてもいいですし、上品に食べるならばナイフとフォークを使ってもかまいません」


 そう言って、レスティオはルコーリに手を伸ばしそのまま齧りついた。

 中には香草のソースの爽やかな味わいと共に肉と野菜がたっぷり包まれている。

 生地は中身がわからないように包まれているので、辛さや甘さが利いたものなど中身は様々。食べてのお楽しみが一興のエリシオール合衆国の宴会の定番料理。

 

「うっ、辛いっ!」

「マリティア様、大丈夫ですか!?」

「あぁ、リカトラウスを利かせ過ぎたな。蜜酒で口直しをするといい」

 

 笑いを堪えるレスティオにむぅっとしながらマリティアはルコーリを頬張る。

 食糧難が囁かれ始めている大陸内で無駄にしたくないと頑張る姿に自分も挑戦してみようと周囲もルコーリを頬張っては何が当たったかと賑わいだす。


「フランドール隊長!」

「うん?」


 蜜とバターの甘さたっぷりのルコーリに顔をしかめていたクォートは突然の声掛けに顔を上げた。

 顔を上げた先にはフランドール隊の小隊長たちが揃っている。

 

「長年の御勤めご苦労様でしたっ!そして、フランドール筆頭!聖騎士筆頭護衛騎士就任おめでとうございますっ!」

「本当に、良かったですっ!一時はどうなることかとっ」

「レスティオ様が無慈悲を行うはずがないとは信じておりましたが、就任の儀まで生きた心地がしませんでした」

「引き続き、遠征を共にする時には背中を見て学ばせて頂きます」


 フランドール隊を引き継いだライネルを皮切りに小隊長たちが言えば、クォートは表情を和らげて席を立ち応じる。

 レスティオはどうせ騎士団の食堂内なんだからと側近たちに持ち場を離れる許可を出して、自分も席を立った。


「少々労いに行って参ります」

「わたくしもこれを食べ終えたら感謝のご挨拶に席を立たせて頂きますので、どうぞお構いなく」


 まだ半分残るルコーリを手に微笑んだマリティアにレスティオは笑いを堪えて頷いた。

 きっと辛さに泣きたい気分だろうに、さすが貴族だと思いながら、同僚たちに囲まれているロゼアンの元に向かった。

 

クォートの屋敷の使用人たち。

こちらの動きを書きすぎると本編と番外編がごっちゃになるので悩ましい。

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