第187.5話 ロゼアンとハイネル(2)
その夜。
レスティオからの土産物として女性皇族に配られたメアリオーブを初めて使ったクラディナはその効能に感動していた。
湯浴みを手伝っていた側仕えたちの目も輝くのを見て、上位の側近たちを呼びつけて酒席の前に浴室の使用を認めた。
普段は肌に触れ合うことはしないが、今日ばかりは女性同士お互いの肌に触れあって感動を共有し合う。
「では、我々の美を祝して!」
上位の側近と囲む気の置けない者同士の酒席。
発声も気の抜けたものになり、笑い合いながらグラスを合わせた。
「あぁ、お酒が美味しい!クラディナ殿下、今日も一日お疲れ様でした」
「仕事終わりに湯上りのお酒だなんて最高ですね。殿下の側近で良かったと心から思います」
「あら、いつからそんな調子のいいことを言うようになったのかしら」
柔らかなソファに身を沈めて側近たちは和やかに笑う。
皇族の前で許される態度ではないが、クラディナも一人掛けのソファーに身を委ねてクッションを抱えた。
座面を柔らかくしただけでこんなにも休まるものかと最初は驚いたものだが、今やソファとクッションの柔らかさに包まれる時間が至福に思えてならない。
「あの、私までここにいて良いのでしょうか……」
戸惑いの声を出したのは筆頭秘書官のヒルト・ダールマイアーだった。
この場で寛ぐ側近の中で唯一リアージュから譲られ、クラディナが秘書官を抱えるにあたって、最初に登用した女性。
公務に真面目に取り組む前には、遊び惚けていると良く睨まれていたし、クラディナも女性なのに男性と共に文官仕事に励む彼女を鼻で笑っていた。
相容れない存在と思っていた者同士だが、今となっては公務に欠かせない頼れる存在である。
「居てはいけない理由は無いでしょう?同じ湯を楽しんだ仲ではないですか」
「それは、感謝申し上げます」
城に住み込むのは側仕えと護衛くらいなもので、秘書官をはじめ公務を手伝う文官は通いが多い。業務を終えたら城の食堂で夕食を食べにいく者もいるが、大体の者は帰宅してしまう。
今日は相談事があるのだと頼み込んでわざわざ残ってもらい、執務室で明日の公務の書類を確認していた所を呼んで、労いにとお風呂を楽しんでもらった。
怪訝な表情で遠慮がちだったが、お風呂上がりの肌を確認すると、帰ったらきっと夫が驚くだろうと笑んだ。その姿は、執務中の厳しさからは想像できない姿で側近たちは距離の縮まりを感じた。
「ただ、クラディナ様に合わせて選ばれただけあって、私には少々この香りは甘やかに感じます」
ヒルトは凛々しい印象が強く、絵にかいたような出来る女性だ。
香りで言えばリアージュが貰った物が合うのではないかと考えてクラディナはごめんなさいねと苦笑する。
しかし、夫の反応が楽しみね、と横から声をかけられると顔を赤くさせたので、満更でもないようだと笑いを堪えた。
「それはそうとっ!ハイネルはロゼアンへの返事、どうするのですか?」
身を乗り出したのは筆頭側仕えのクラリス・ゴルゴーンだった。
その勢いにハイネルは身構える。しかし、既に他の者たちも目を光らせていて逃げ場はない。
「わ、私は、クラディナ様について行くのでお断りしましたよ!」
「けど髪飾りは貰ってきてたってことはまだ悩んでるんでしょう?」
「それはっ!ロゼアンが、明日の返事を聞くまで持っててくれって……」
レスティオがクラディナに語った話を聞いていた側近たちは既にロゼアンがハイネルに婚約を申し込んだことを知っている。
「ヒルトはどう思います?私の上位の側近には私を含めて既婚者がいないので、アドバイスを貰うなら貴方かなと思ったのです」
「あぁ、ちゃんと相談事があったんですね」
側近全体でいえば、亡き母に仕えていた者を引き受けたので既婚者がいないわけではない。
しかし、遺品整理の後、母が睨みを利かせてたリアージュやロデリオと親しくしている内に小言が増え、態度は硬化。とてもではないが、気安く相談を持ち掛けられる仲ではない。
城内に不和を残さないため西部に連れていくつもりだが、今から気が重たくて仕方がないくらいだ。
「私の意見はハイネルにプレッシャーをかけるだけだと思いますよ」
「ヒルトから見て、ロゼアンはアリですか?」
「あぁ……そう言われると難しいですが。彼はレスティオ様という後ろ盾を持ってカーストン家の当主となるのです。そして、カーストンはレスティオ様と縁戚関係まである。となれば、彼の伴侶は、皇室あるいは皇室に近しい存在が相応しいでしょう。貴方が断ったなら、近い内に貴方が良く知る誰かが妻の座につくことになるでしょう」
私たちにも可能性があるの?と身を乗り出す者が出ると、ハイネルは待った待ったと止める。
その反応が既に答えを物語っているようにしか見えない。
「少し私の話をしましょうか。ハイネル。何故、私がリアージュ様の秘書官を務めていたと思いますか?」
「え?」
戸惑うハイネルに助け舟を出したヒルトは、クルールをグラスに注ぐとくるりと軽く回してその香りに表情を緩めた。
「ダールマイヤー家は特に裕福な家系でもなんでもありません。私は魔力が然程なく、国試を受ける為の足掛かりに騎士学校を卒業して文官になりました」
「えっ!?騎士学校卒で皇室付き文官って大出世じゃないですかっ!」
役職の上位者は魔術学院卒業者ばかり。
騎士団の皇室付き部隊は例外だが、騎士学校を卒業しただけでは雑務に従事するのが精々だ。
レスティオの優秀であれば経歴を問わない姿勢が広まれば変わるかもしれないが、まだ国全体としてその段階にはない。
「当時は書類の写しをひたすらに作成する日々でした。ですが、リアージュ様の姉上アデリナ様を娶りたいとラビ王国の使者が城に通っていた時期のことです。私は偶然城で迷子になっていた夫に出会ったんです」
「ぇ、ヒルトの旦那様ってもしかしてラビ王国の人なんですか?」
「ちょっと黙って聞きなさいよ。で?それで?」
好奇心旺盛に瞳を輝かせる側近たちに苦笑して横髪を耳に掛ける。
大人の仕草に見えて何人か横髪に無意識に手を伸ばす。
「控えの部屋へと案内する道すがら、縁談が上手く行くといいですね、と場繋ぎ程度に話をしていた時のことです。突然名前を聞かれて、ラビ王国に来るつもりはないかと問われました。でも、その時の私はなにを言われたのか理解出来ませんでした」
「旦那様の一目惚れだったんですね」
それから、ラビ王国の使節団は城へ来る度に、当時宰相だったフロアイン・ベルヴァーグへの繋ぎに指名されるようになった。
騎士学校上がりの冴えない文官への指名は当然の如く悪目立ちした。
同僚たちには陰口を言われ、あらぬ噂を立てられては嫌がらせを受けるようになった。そんな日が続くと、使節団に苛立ちを抱きながら、ラビ王国へ嫁げばこんな日々から逃れられるのかとも考えた。
もうやめてくれ。指名を受けて控えの部屋に入った時、無礼とかそんな判断も出来なくなっていたヒルトは使節団に向けて叫んだ。無性に涙が溢れて、外交相手の前でしゃがみこんでしまった。
そこに、アデリナを娶りたいと言い出した張本人であり当時ラビ王国の王太子であったベルンハルト・フェルフーフ・ラビがいるとも気づかずに。
「ヒルトは、その時は旦那様と結婚するつもりはなかったのですか?」
「考えはしましたよ。真っ直ぐな人で、何度も気持ちを告げられる内に惚れていたと思います。けど、私には両親が既に亡く、まだ学生の弟妹を養っていました。私が嫁げば、その子たちが行く場所を無くしてしまいます。そう思うとどうしても頷けなかった」
厄災が刻一刻と近づく中。
自分が異国に嫁げば、稼ぎ手を無くした弟妹たちはどうやって生きていくのか。生贄になってしまうのではないか。
弟妹を養う為にもラビ王国には嫁げない。文官の職を無くすわけにもいかない。だから諦めてくれと訴えた。
ならば、お前が嫁げばいいじゃないか。そう言ったのはベルンハルトだった。
自分は家を継ぐ予定もないからヒルトが望んでくれるならオリヴィエール帝国に嫁ごうと、改めて婚約を申し込まれた。
そこまで言われて、惚れた相手の申し出を断る理由はなかった。
そして、後にその人がラビ王国で代々宰相を務める家系の生まれであり、王室との縁もあることを知った。名前を聞けばわかるだろうと言われたが、当時のヒルトにはラビ王国の名前の法則も要人も知らなかった。
クロア・ラビ・アルカラス。現在は、クロア・ダールマイヤーと姓を変え、宰相付きの文官を経て、ロデリオの秘書官の一人となっている。
ヒルトの待遇はすぐに変わることはなかったが、時折クロアが家に持ち帰った仕事を手伝っている内に城でも表立って仕事を任されるようになり、議会付きや皇室付きと出世し、リアージュの秘書官に行きついた。
「今の私があるのは、全て夫のおかげです。私が頷けない不安を吐き出してしまった後は、あっという間でした。次の来訪の時にはもう嫁ぐ支度をしてきて、使節団が滞在の間に婚姻の手続きと儀を行ったのですから」
「クロアは確かに出来る人と思っていましたが、ラビ王国の宰相一族出身だったとは……」
「まぁ、長々と話しましたが、私は不安を吐き出したことで、ベルンハルト様に背中を押してもらいました。境遇は違えど、想いはあっても頷けない事情ということで言えば似たようなものでしょう」
こんな話は酒の席でもないと語らないとヒルトは肩を竦めてハイネルを見た。
ハイネルは両手でグラスを握り、悩まし気に眉間にしわを寄せていた。
「私、ヒルトが羨ましいです」
口を開いたのはクラディナだった。
こちらも悩まし気に眉間にしわを寄せ、果実酒を一気に飲み干して、おかわりを所望する。
「私は婚約の話を白紙にされてばかりなのですよ。元々はラビ王国に嫁ぐ予定だったのに破談になって、そもそも、碌に連絡も取り合えてなくて、それこそ先方も本気ではなかったんでしょう」
それは側近たちが自分たちからは決して触れないように気を付けている話だった。
ラビ王国との縁談の後に浮上したのは、レスティオとの婚約。それは、亡き母とその側近に唆されただけで正式には持ちあがっていないこと。言われるままに行動して恥を晒して酷く落ち込んだ。
「恋というものにも憧れはしますが、破談にならずに済むなら政略結婚でもなんでも構わないと思ってしまいます。西部の男はセルヴィア様の掌中……なんて話もあるので絶望的かもしれませんが。皆さん、私に構わず相手を見つけてくれてよいのですよ。もう他国に嫁ぐ話もありませんしね」
遠い目で言われて、側近たちは慌てふためく。
「ハイネル。クラディナ様の御心を想うならば、共に西部へ移るから、という理由で今回の縁談を断るのだけはお止めなさい。クラディナ様に判断の責任を押し付けてはなりません」
皆がクラディナを慰める中、ヒルトはハイネルに声をかけた。
その指摘にハイネルは視線を落とす。
「ぁ、もしかして、私にクラディナ様を任せるのは不安、とか思ってないでしょうね?」
同じく護衛魔術師であるヴェスティ・オーフェンにじっとりと睨まれて、泣きそうな顔を必死に横に振る。
「そっ、それはないわっ!貴方のことは信頼してる。同じ護衛魔術師として頼りになると思っています」
「なら、両想いってわかったのになんで尻込みするの?諦めきれてなかったんでしょ?」
率直に聞いてくるヴェスティにハイネルは何と言ったらいいものか迷った。
ここには仲間しかいないのですよとクラリスが無遠慮に肩を抱いて慰める。
外交相手を前に泣き崩れたヒルトの話の後ということもあって、許された気分に胸の不安が溢れていく。
「ずっと、ロゼアンにはその気がないと思っていたから……本当にこれでいいのか、不安……なのです」
「ハイネルと釣り合う男になって自ら告白、なんて恋物語みたいな恋、羨ましい限りだけどなぁ。クラディナ様はどう思われます?」
「私の存在が足かせになっているというなら今すぐに解任しようと思います」
「それはありえないです!私は、ただっ……これが夢なのではないかとっ!だって、ロゼアンはずっと私を避けていたんですよ!なのに本当は好きだったなんてそんな話信じられなくてっ」
耳まで赤くさせた顔を両手で覆って叫んだ。
いつもの頼もしさのかけらもない姿に側近たちは表情を緩ませる。
「安心なさい。どうせ遅かれ早かれ皇室とそれぞれの家の思惑で婚姻が決まる話なのに、わざわざ直接想いを告げてきたのですよ」
「そうです。実に誠実なことではありませんか」
「いずれ、ドーベルとカーストンの派閥争いが起きぬように、ハイネルとロゼアンには良好な関係を築いてもらいたいものです」
2人の婚姻を後押しする要素しかない中、想いも伴っているのならば躊躇うことはもうなかろう。
皆の応援にハイネルは大きく頷いた。
午後のお茶会に向けて控えめなドレスに着替えたハイネルは、化粧を確認して気合を入れて城を出た。
赤をアクセントカラーに取り入れたドレスは自分を奮い立たせるためにと、昨晩クラディナの衣装の中から下賜してもらったもの。
目的のカフェまで歩きながらなにを告げるか繰り返し頭の中で唱え続ける。
「ハイネル?」
「ぁ、ろ、ロゼアン……ごきげんよう。今、お店に向かうところでしたのよ」
道中に出会うとは思わず緊張をなんとか呑み込んで笑顔を向ける。
ロゼアンは昨日と同じく紅いジャケットを纏い、ドレスを纏うハイネルと並ぶと上流階級のデートの様相となった。
「そうでしたか。お店までエスコートさせていただいてもよろしいですか?」
「えぇ、お願いしますわ」
隣に立ったロゼアンの腕に手をかけて歩き出す。
こうして歩くこと自体は以前にもしていた行為で動揺はしない。
「今日は護衛魔術師の制服ではないのですね」
「えぇ、午後にドーベル家としてレスティオ様主催のお茶会に招かれてますの」
「そうでしたか。よくお似合いです」
お店に着くと店員ににこやかに迎えられ、昨日と同じ席に着く。
早速ランチのコース料理が出されて、他愛ない話をしながら食事を進める。本題は食後のティータイムで語られるのだろうと思うと落ち着かない気分だった。
マナー違反にならない程度になるべく早く料理を口へ運び、ティータイムの時間を迎えた。
「あのですね、ロゼアン。昨日のお話なのですけれど」
「はい」
穏やかな表情をしていたロゼアンの表情が引き締められるのを見て、ハイネルは持っていた鞄から昨日貰った箱を取り出しテーブルに置いた。
「昨晩、クラディナ様をはじめ側近の皆も交えて、貴方への返事と今後の事を相談しました。それで、なのですが……私は、帝都に残ることに致しました」
「それは、つまり……」
「クラディナ様は強い心をお持ちです。志を同じくする側近にも恵まれています。なので、私はレスティオ様の血縁者として、レスティオ様のお近くにいるべきと判断しました。今後は女性皇族のどなたかのもとに籍を移すことになるでしょう」
「なるほど……レスティオ様は貴方の心遣いにお喜びになられると思います」
期待していた返事ではなかったろうに、ロゼアンも嬉しそうな笑みを浮かべる。
この人は本当に聖騎士様に心酔している、と内心呆れてしまった。
「私は、聖女の血を継ぐドーベル家の娘として、それを誇りに気高く生きたいと常々思っております」
「存じております」
「正直、魔力が高く、ダイナ家から熱心な申し入れがあったからと言って、騎士を夫にするのは腹立たしく思っておりました。ですが、不満は肩書きだけです。貴方自身のことは、ずっと……お慕いしておりました」
必死に真っ直ぐにロゼアンの紅い瞳を見つめる。
「それに、貴方は私の事を苦手に思っているのだろうと思うと、怖くて……クラディナ殿下の筆頭護衛魔術師に選ばれたことを言い訳に婚姻を先延ばしにしてしまいました」
「それはっ……申し訳ありません。自分の立場を卑下するあまり、貴方への気遣いが足りていませんでした」
「いえ。先延ばしにしていたことで、今があるのだと思えば、私の判断はある意味で間違っていなかったのだと思えるのです」
婚姻に踏み切っていれば、ロゼアンは勘当などという目にも遭わなかっただろう。
だが、それによってレスティオの庇護下に入ることもなく、どこまで評価を受けていたかわからない。
ドーベル家に婿入りしたならば、ロード・レッドとしてカーストン家の当主になることはまずなかっただろう。
「ハイネル。返事を、聞かせてもらってもいいですか?」
痺れを切らせたように問われて苦笑する。
箱を開けて、ロゼアンに差し出すと戸惑った表情で見つめられる。
「私は、貴方との婚約を私自身の意志で望みたく思います。良ければ、こちらは貴方の手で付けて頂けないかしら。先程もお話しした通り、私、これからレスティオ様主催のお茶会に招かれていますので、丁度髪飾りが欲しかったところなのです」
「喜んで」
ハイネルの言葉を噛みしめるようにしてロゼアンは頷いた。
立ち上がりハイネルの横に立つと箱から髪飾りを取り出して、既にまとめられている金髪にそっと挿し込んだ。
「似合うかしら?」
「えぇ、とても美しいです。こちらはロジエをイメージしたのですが、ロデリオ殿下がドレア様に婚約を申し入れる際に送ったのもロジエの髪飾りだそうです」
「そのよう、ですね」
その話は昨晩のうちにロデリオの側近たちから聞いていた。
ロデリオだけでなく彼らも倣って婚約者にロジエの髪飾りを贈ったという話とともに、ロジエに込められた意味も教えられた。
「一輪のロジエには、私には貴方しかいない、という意味があるそうです」
「私も、同じ気持ちです。何度諦めようと思っても、貴方を慕う気持ちは尽きることがありませんでした」
「暫くは状況が落ち着かずに慌ただしくなるかと思いますが、貴方と結ばれる日を心待ちに励みたいと思います」
そのまま手を取られ、城へとエスコートを受けた。
途中、何人かの騎士とすれ違うと皆ハイネルの髪飾りを見てはにやりと笑みを浮かべて「おめでとう!」と声を掛け去っていく。
その度に通行人までも微笑ましそうに笑みを浮かべるものだからハイネルは恥ずかしさに頬を押さえた。
「今日明日には養子縁組の手続きが済むと思いますので、その後、クラディナ殿下に謁見を申し入れ、改めてご挨拶させて頂こうと思います」
「わかりました。では、そのように私からもお伝えしておきます」
城へ着くと丁度ドーベル家の馬車が到着したところでハイネルは親族たちと合流すべくロゼアンの腕から手を離した。
「挨拶は、ロゼアン・カーストンとなられてから、ですよね?」
「はい。まずは正式な婚約が叶うように、エルリック様にハイネルの返事を伝えようと思います」
「よろしくおねがいします。それでは」
夢見心地で見つめ合っていたが、振り返るとハイネルに気づいた親族たちが馬車を見送って待っていた。
すぐに表情を引き締め直し悠然と合流して、時間まで待合所で待つように彼らを促した。




