第31話 公爵令嬢は慣れようとする
馬車に乗っている間も、クラリッサの手はアリスさんと恋人繋ぎをしたまま。
(え……っと?)
アリスさんを見るも、アリスさんはもう片方の手で、膝に乗せたカタログをめくっていて、クラリッサと視線が合わない。
向かいのヴィヴィアンを見れば、にこにこと微笑んでいる。
恋人繋ぎ達成を喜んでいるのだろう。
その隣のロビンもにこりと笑っている。でもロビンはいつも愛想笑いを浮かべているので、正直どう思っているのか全く分からない。
「アリスさん」
「……どうした?」
いつもなら顔を上げてくれるのに、上げてくださらない。
クラリッサは仕方なく、アリスさんの顔を覗き込むべく、カタログとアリスさんの間に顔を出した。
「……」
「アリスさん」
「……その体勢は辛くないのか?」
「辛いですけど……アリスさんがこちらを見てくださらないので」
「……悪かった。危ないから、普通の体勢に戻してくれ」
「見てくださいます?」
「……ああ」
ため息を吐かれたのは気になったけれど、アリスさんは嫌々でも絶対に嘘はつかない。
クラリッサは元の体勢に戻った。
アリスさんは、ちゃんとクラリッサの方に顔を向けていた。
「……」
「……」
クラリッサは今更ながら、どうしていいのか分からなくなった。
お互いに無言で見合っている状況になる。
「……どうしたいんだ?」
「自分でも分かりませんわ」
言いたいことはある。
訊きたいこともある。
でも。
(無理です。……この間の膝乗りのこととか、今のこの恋人繋ぎのこととか、どう思ってますの、とかなんでですの?なんて)
言えませんわ!!
クラリッサは嘆いた。
そして、悔し紛れにぎゅっと指に力を入れてみたけれど。
(恥ずかしいだけでしたわ!!)
顔を上げられなくなったのはクラリッサの方だった。
* * *
隣で顔を真っ赤にしている彼女に、アリステアだって平静ではいられない。
絡めた指。その熱。
(あ~、くそ!!)
撫でたいとかしょうもないことばかりが脳内を行ったり来たりする。
無理やりな体勢でアリステアの顔を覗き込んでくる奇行だって可愛いでしかない。どれだけアリステアを煽ればいいのか。
それでも、こちらから行動を起こしているので、向こうの行動を制御できている感はある。
「……アリスさん」
「なんだ」
「その……これから、ずっとこれですの?」
おずおずと訊いてくるが、どういう意味なのか知りたい。
嫌なのか?
一応、先ほど確認したはずだ。
嫌と言えなかったのか?
「嫌なら」
「嫌ではないですわ。……その、確認ですの」
「確認?」
「……とてもドキドキしますの」
「……」
「ですから、ずっとこれなら、その」
「止めた方がいいんだな」
アリステアは絡めていた指を解こうとしたのだが。
「ち……ちがいますわ」
彼女がぐいっとアリステアの方に乗り出してくる。
その動きに合わせるように、彼女の指がアリステアの指の間にきゅっと収まる。
「慣れなくてはと思いまして」
「……」
「ドキドキしないように、頑張ろうと思いまして」
「……どうやって?」
思わず口をついて出てしまった。
そんな方法があるなら、アリステアとて知りたい。
「分かりませんけど?」
「……そうか」
「とにかく、頑張りますわ」
可愛すぎて、どうしてくれようかとアリステアは思った。




