↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者になった公爵令嬢は、我儘をつき通す  作者: 星見蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/45

第2話 公爵令嬢はペンフォード家に行く

 クラリッサはとても緊張していた。

 

 週が明け、いつものようにソフィア様の家庭教師としてペンフォード家を訪れる。

 馬車を降りて玄関へと向かうと、執事さんがクラリッサを待っていた。

 

「ようこそお越しくださいました。ソフィア様がお待ちです」


 挨拶を終えると、ペンフォード邸のサロンへと案内される。


 執事さんの後ろを歩いている間も、クラリッサの心臓はドキドキしていた。

 鞄を持つ手に力が入る。


 廊下を進んだ先、サロンのドアの前でうろうろとしている伯爵夫人の姿が見えた。

 夫人はクラリッサに気づくとドアの前から離れ、手招きをした。

 

「実は……ソフィアにはまだ何も知らせていなくて」

「え?」

「アリステアがクラリッサ様に婚約の申し入れをしたことを、あの子は知らないのです」


 その言葉に、クラリッサの顔に熱が集まる。

 同時に、夢ではない実感が湧いて、飛び上がりそうなほどに嬉しい。


「分かりました! 内緒にします」


 クラリッサはとても元気に返事をしたのだが、伯爵夫人の顔は晴れない。


「……あの?」

「あ、いえ。……なんでもありませんわ」

「も、もしかしてわたくしに不満が!! どうしましょう? どうしたらアリスさんのお嫁さんと認めて頂けるのでしょうか?」

「し、静かに……」

「あ……申し訳ございません」

「い、いえこちらこそ。強く言い過ぎました」


 クラリッサは段々不安になってきた。

 アリスさんは申し入れをして下さったけど、伯爵夫人は反対だったりするのだろうか。


「……わたくし、アリスさんと結婚したいのですけど、ダメですか?」


 どうにか認めてもらいたくて、そう訊けば、伯爵夫人の目が丸くなった。

 それから、ふわりといつもの優しい微笑みを浮かべた。


「そんなに、アリステアのことを想っていてくださるのですか?」

「もちろんです。……気づいたのは、ついこの間ですけれど」


 『月の夜』のことを思い出し、あの失態を伯爵夫人にも見られていたのかと思うと恥ずかしくなる。あんな我儘な姿を見たのなら、伯爵夫人が反対するのも当然だ。


(でも……わたくしはアリスさんでないとダメなのです)


「どうか、わたくしとアリスさんの婚約を認めて頂けませんか?」

「……無口で何を考えているのか全然分からないような、アリステアで本当に良いのですか? 顔も見せないのですよ」

「アリスさんの目は、見たくて見たくてたまらないんですけど、嫌ならしょうがないですわ。えっと……無口ですか? 無口というか、言葉数が少ないだけですよね? 反応はしてくださいますわ」

「……そう?」

「何を考えているかは確かに分からないですけど、訊いたら教えてくださいます」

「……そう」


 伯爵夫人はクラリッサの返しに、短く相槌を打つだけ。

 不安が拭えず、クラリッサは、つい言ってしまう。


「わたくし、顔合わせの予定を今週末でお願いしていますの」

「え?」

「まだ届いていないと思うのですけど。……すぐにでも婚約したいので今週末でお返事させて頂いていますの」

「……本気なんですの?」

「もちろんですわ。何度でもお伝えしますけど、アリスさんがいいんです。だから認めて頂きたいのです」


「認めますわ!!」


 唐突にサロンのドアが開いて、ソフィア様が飛び出してきた。


「ソフィア!! あなた、聞き耳を立てていたの?」

「だって、クラリッサ様が時間になってもいらっしゃらないから、どうしたのかしらって……そしたらお母さまと内緒話をなさってるじゃない」

「……そこは聞き耳を立てるところではないのよ?」

「わたくしだって、ドアから離れようと思いましたわ。でも、クラリッサ先生がお兄様のお嫁様!! って聞いたら、離れられるわけがないではありませんか」

「それでも離れるのよ!! もしくは聞いていないふりをしなさい」

「まぁ!! お母さまがクラリッサ先生を無駄に不安にさせるから、わたくしが飛び出したのですわ」


 ソフィア様はクラリッサの両手を取り、小さな手でぎゅっと包み込む。


「安心なさってくださいませ。たとえお母さまが反対したとしても、わたくしは大賛成ですわ。いざとなったら駆け落ちにも力を貸しますわ!!」

「ソフィア!! クラリッサ様になんてことを言うの」

「お母さまが反対なさるからいけないのです」

「別に反対はしていません」

「そうですの!?」


 クラリッサは夫人の方を振り返る。

 コクリと頷かれた。


「反対なのではなくて、先ほども申し上げましたが、うちの息子で本当にいいのか不安だったのです」

「わたくしも何度でも申し上げますわ!! アリスさんがいいのです!! よろしくお願いします」


 クラリッサは元気よく頭を下げた。



 * * *



「……」


 職場の図書館に着くと、あちこちから視線を感じた。


(……まぁ、仕方ないか)


 相手は筆頭公爵家の令嬢。その彼女が泣いてアリステアをダンスに誘い、そのまま二人で何度も踊ったのだ。あの場にいた者であれば、誰だって気になるだろう。


 纏わりつく視線を無視し、地下へと降り、資料室のドアを開けた。


「おはよう。最高の朝だね」


 室長がにこにこと笑っていた。


(……めんどくさい)


「僕はね、君には僕の娘と一緒になってほしかったんだけど」

「先日の夜会で、初めてお話させていただきましたが……婚約者のいらっしゃる方ですよね?」

「あの男よりは、君の方がマシだ」


 『月の夜』の時に、室長の娘から声を掛けられた。

 室長一家が、例の監視の目から解放されたことに対してのお礼を言われたのだが、実際に動いたのはアリステアではなく、アーサー殿下なので、それをそのまま伝えた。


「愛想はないが誠実な青年だと、君に対して高評価だったのに、それでもあの男の方がいいというんだ」

「婚約者ですからね」

「……それなのに、君までうちの娘ではなく、別のご令嬢を選ぶ」

「妄想はそこまでにしてください」

「別のご令嬢を選んだのは、妄想じゃないだろう?」


 アリステアは一瞬だけ言葉に詰まるも、よくよく考えたらこの話は仕事とは関係ないと気づき、そのまま無視して席に座り、仕事を開始した。



 * * *



「ペンフォード君……とうとう婚約者ができるんだね」

「……まだ、決まっていませんが」

「お祝いは何がいい?」

「人の話聞いています?」

「食堂のプリンと、リンゴのタルトと、ティラミスどれがいい?」

「……特にいりませんし。まだ決まっていません」

「まだ……」

「……決まっていません」


 いつもの昼休憩。

 ウィンスロー先輩が勝手に話を進めていく。

 だが、反論をしつつも自分の心が浮ついていることには気づいていた。


 昨日、公爵家には婚約の申し入れをした。


 その返事が届くまで、アリステアは落ち着かないままだろう。

 

 ため息を吐きそうになって、なんとか飲み込む。


「あ。ペンフォード君には『婚約、その後は?』の本を贈ろうか?」


 ウィンスロー先輩のその提案に、一瞬頷きそうになったアリステアだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。