第28話 公爵令嬢は未来を思い描く
今週末も、森のお屋敷へ。
今日はお庭について庭師さんと打ち合わせ。
東屋の周りにアジサイを植えることだけは、クラリッサは決めていたが、それ以外は全然。大叔母様のような薔薇園も悪くはないけれど……と考えながら馬車に揺られていた。
「君はどうしたい? 全体的にアジサイを植える?」
アリスさんは森のお屋敷の敷地図を見ていた。
「そうですわね……」
何も考えつかない。
「お茶会とかもあるだろう?」
「……え?」
クラリッサはすっかり忘れていたが、確かにその通りだ。
(お茶会を開くに相応しい、お庭にしなくては!)
* * *
お茶会と言ってしまったのが良くなかったのか、彼女は庭師に『お茶会を開くなら……』『お茶会の時には……』と繰り返す。
そういうつもりが全くなかったわけではないのだが、あまりにもお茶会のことばかりを気にしすぎていて、アリステアとしては不安になる。
「君はそれでいいのか?」
彼女と庭師の会話を遮るようにして、声を掛ける。
「……アリスさん?」
「お茶会のことが気になるのは分からなくもないが」
アリステアの母はお茶会の準備が嫌で開催しない方を選んだ。
そうすると招待されるのも減るのだが、父も別に他家との交流を重要視していない。
そのしわ寄せが、今、ソフィアに向かっていると言えなくもないのだが、それでも無理をする必要はないと、アリステアも思ってしまう。
ただ、彼女は筆頭公爵家の令嬢だ。アリステアの母とは立場がまるで違う。
お茶会をしないという選択はないのかもしれない。
それでも、庭を『お茶会のための場』とだけ、捉えるのは違うような気がするのだ。
「君が楽しめる庭の方が良くないか?」
* * *
「甘いですわ!!」
クラリッサは思わず叫んだ。
お茶会を舐めてはいけない。
クラリッサはお母様から何度も聞かされていた。
――お茶会は、ブランデルウッド公爵家の顔のようなものです
テーブルを飾る花にも気を使うし、会場となる庭は毎年一部を作り変えている。次の年のお茶会に向けて、みなが一丸となって準備を進めるのだ。
「とっても大変なんですのよ。来年はどうしましょうか? って頭をひねってお菓子の準備をして、お茶を遠くから取り寄せたりして……庭師さんともたくさん相談しますの」
ちらりと庭師さんを見れば、こくりと頷かれた。
このおじいさん庭師は、毎年、ブランデルウッド公爵家の庭を整えてくれている人だ。だから、その大変さをよく知る人。
「正直、うちはお茶会をしないから、どれくらい大変なのか分からないんだが」
「え?」
クラリッサは驚いた。
でも、確かにお茶会をしない人たちもいるとは聞いていた。
まさかアリスさんの家がそうだとは思ってもいなかった。
「……君が立場的にお茶会をしないという、選択ができなかったとして」
(……お茶会をしない)
クラリッサは、その魅力的な提案に乗りたくなった。
だが、家庭教師としてそれはいけない気がする。
常に洗練された意識を持っていたい。
「わたくしは……」
「君の考えを否定しているんじゃなくて」
アリスさんが珍しくうーんと唸っている。
「君が楽しめる庭も残してほしいだけだ」
その言葉にクラリッサは、アジサイと東屋を思い出す。
そして、アリスさんの優しさが嬉しい。
「大丈夫ですわ。わたくしのお庭は、あちらにありますもの」
木立の奥。
ひっそりとした東屋とその一帯は、クラリッサの庭だ。
そう。クラリッサとアリスさんの庭。
「ですから、他はお茶会用ですの。あの一か所があれば、わたくしには充分です」
今度はちゃんと伝えることができたと思う。
アリスさんの口元もふっと緩んだ。
* * *
「あ! お兄ちゃんだ!!」
アリスさんと庭師のおじいさんと三人で、改めて庭について考えていると、子供の声が割り込んできた。
「おい! 待て!!」
「それはダメです!!」
騎士が制止する声も聞こえたが、子供がアリスさんに突撃する方が早かった。
ルカだ。
「本をよみにきたんだよ」
アリスさんは驚きながらも、ルカの脇に手を差し込み抱えあげた。
「うわ?」
「騎士の制止を振り切ったな」
「……お兄ちゃんがみえたから」
「ダメだ。騎士の言うことはちゃんと聞くように」
「……はい」
ルカはアリスさんに抱えられながら、足をバタバタさせている。
「すみません。一旦休憩を挟んでもいいですか?」
アリスさんが庭師さんに確認をする。
「ええ。そうですね。ちょうどお昼時ですからね」
そうしてお昼休憩となる。
クラリッサはアリスさんとルカを見つめる。
(ああ!! 素敵です。どうしましょう。カッコイイですわ。……わたくしたちに子供ができたら……あんな風に?)
想像するだけで悶える。
しかもアリスさんそっくりの子供とか!!
クラリッサは何かに抱き着きたくて、手をワキワキさせる。
一番近場にいるのは庭師のおじいさんだ。
それはダメなのは分かっている。すすっと、ヴィヴィアンの元へと行き、抱きついた。
「クラリッサ様?」
「動かないで、ヴィヴィアン。心臓が止まりそうなの」
「……心臓はそんなに簡単には止まりません」
「そうなの? アリスさんは簡単に止めてくるわ」
「止まりそうなだけで、止まることはありません」
「それでも、暴れそうなの……見た? わたくしのアリスさん……素敵でしょう?」
「……ええ、まぁ。ところで、アリステア様が書庫に行かれるようですが?」
「ダメよ……置いて行かれたくないわ」
クラリッサは慌てて後を追いかけた。




